2017年09月19日 10:23 弁護士ドットコム
インターネットサイトにわいせつ動画のURLを投稿したとして、群馬県警は9月7日、わいせつ電磁的記録媒体陳列の疑いで、札幌市の会社員男性を逮捕した。
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報道によると、海外の動画配信サイトに公開されていた動画のURLを3回にわたって投稿した疑いが持たれている。このほか、数百件のURLを投稿していた可能性があるそうだ。
違法アップロードをしていたのならともかく、URLを投稿するだけでもダメなのだろうか。また、著作権の問題にはならないのだろうか。田中一哉弁護士に聞いた。
ーー今回の逮捕容疑である「わいせつ電磁的記録媒体陳列」とは?
条文に則して言うと、「わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列する罪」です(刑法175条1項前段)。
ここで、「わいせつ」とは「徒らに性慾を興奮又は刺戟せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」をいいます(最高裁第1小法廷昭和26年5月10日判決)。
「わいせつ動画」というと「無修正」を思い浮かべる人がいるかもしれませんが、判例のいう「わいせつ」概念は相当に流動的です。これに該当するか否かは、最終的に、事件を担当する裁判官の評価に委ねられることになりますから、「修正動画だから安心」と即断するのは危険です。
また、「公然と陳列した」とは、「わいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くこと」をいいます(最高裁第三小法廷平成13年7月16日決定)。ごく大雑把に言えば、「社会の性的道徳観念に反するコンテンツを一般公開する罪」ということです。
ーーということは、URLの書き込みやリンクを貼ることも犯罪になる?
裁判所は「犯罪になる」と考えています。実際に児童ポルノのURLを投稿した男性に有罪判決が下っています(大阪高裁平成21年10月23日判決、最高裁第三小法廷平成24年7月9日決定)。大まかな理由は、「他人が掲載した児童ポルノの『URL』を投稿する行為は、自分で『児童ポルノそのもの』を掲載する行為と同視できる」というものです。
もっとも、この判例は、(1)閲覧者が実際に児童ポルノを閲覧するために必要な操作の難易、(2)児童ポルノへの積極的誘引行為の有無、といった事情を細かく検討した上で、このような結論に達しています。よって、事案の内容によっては、URLの書き込みが犯罪にあたらないと解される余地も残されています。
なお、上記最高裁決定には、2人の裁判官の反対意見が付されています。また、学説上もURLの投稿だけでは犯罪にあたらないとする見解が有力です。
ーー著作権的にはどう考えられるのか。URLの書き込みは著作権侵害と言える?
リンクを貼るだけでは、「コンテンツの複製」あるいは「公衆送信」にあたりませんから、著作権侵害にはなりません。
このような法規制の間隙を悪用しているのが、近時問題となっている「リーチサイト」です。リーチサイトとは、自身のウェブサイトにはコンテンツを掲載せず、他のウェブサイトに蔵置された著作権侵害コンテンツへのリンク情報を提供して、利用者を侵害コンテンツへ誘導するウェブサイトのことです。
リーチサイトは、性質上、分散・潜行していることが多い違法コンテンツへのリンクを集積・公開し、不特定多数人がこれにアクセスすることを容易にしています。このような情報の公開により、リーチサイト自体への閲覧者数を増やし、広告収入等を得ているのです。このように、リーチサイトは、営利目的で著作権侵害を助長しているため、現在、文化庁などで、これに対する法規制が検討されています。
ーー規制にはどんな困難が伴う?
リンクはインターネット上の情報流通に重要な役割を果たしています。また、リンクの提供行為には、個人の表現行為を構成する側面もあります。よって、部分的にとはいえ、このような行為を規制するにあたっては、その対象や方法について、慎重な検討が必要でしょう。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
田中 一哉(たなか・かずや)弁護士
東京弁護士会所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在、ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除、投稿者に対する法的責任追及などに従事している。
事務所名:サイバーアーツ法律事務所
事務所URL:http://cyberarts.tokyo/