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清 竜人TOWN、澤野弘之ボーカルプロジェクト、上原ひろみ……“セッション”が生み出す化学反応

2017年09月19日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 小沢健二とSEKAI NO OWARIの「フクロウの声が聞こえる」、Czecho No Republic×SKY-HIの「タイムトラベリング」などのコラボレーション楽曲が話題を集めている。必然性のあるコラボから生まれる化学反応は、音楽本来の魅力のひとつ。そこで今回は、質の高いセッションやリレーションシップが体感できる新作を紹介したいと思う。


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 2017年6月の幕張メッセ公演でファイナルを迎えた“一夫多妻制アイドル”清 竜人25と並行して始まった清 竜人TOWNの2枚組アルバム『TOWN』。“単なる演者と観客ではなく、同じ目線でライブを楽しむ”というコンセプトを掲げたTOWNは、オフィシャルサイトにアップされる無料DL可能な楽曲をもとに、公演ごとに公募で選ばれたメンバー、会場に集まった観客とセッションを繰り広げるという前代未聞のライブを敢行。本作には全12本のライブ音源を混ぜ合わせた“TOWN LIVE RECORDING”(Disc1)と配信音源12曲(Disc2)が収められている。ライブ会場には来場者全員分のマイクのほか、多数のギターアンプ、ベースアンプ、ドラムなどが用意され、参加者が好きなように歌い、演奏することができる環境が作られていたわけですが、完全なる混沌に陥るかと思いきや、この音源を聴くと、ギリギリのところで“歌”に集約されていく様子が手に取るようにわかる。インスタレーションとインプロビゼーションとパフォーミングアートが混然一体となった、驚異のコラボレーション作品だと思う。


 アニメ、ドラマ、映画などの優れた劇伴によって高い評価を得ている作曲家・澤野弘之のボーカルプロジェクトであるSawanoHioryuki[nZk]。TVアニメ『Re:CREATORS』1stオープニングテーマ「gravityWall」、『機動戦士ガンダムユニコーン RE:0096』オープニングテーマ「Into the Sky」などを含む2ndフルアルバム『2V-ALK』は、緻密に積み重ねられたサウンドメイク、卓越した技術を持ったプレイヤーたちによるパフォーマンス、そして、澤野自身の近未来的な音楽観と優れた作曲能力が融合した作品だ。軸になっているのはゲストボーカリストのTielle、Gemie,Mizuki、Yosh、Aimerが描き出すドラマティックなメロディライン。それぞれのシンガーの適性と能力を正確に捉え、そこに自身の歌に対するこだわりと美意識を投影しながら旋律を紡ぎ出す。その刺激的な関係性こそが、このプロジェクトの核なのだ。


 アンソニー・ジャクソン、サイモン・フィリップスとの“ザ・トリオ・プロジェクト”、約5年ぶりとなる“矢野顕子×上原ひろみ”を経て始動した新プロジェクトは、コロンビア出身のジャズ・ハープ奏者のエドマール・カスタネーダとのデュオだった。2016年6月のモントリオール・ジャズ・フェスティバルで交流が始まり、同年7月に開催された上原のブルーノート・ニューヨーク公演にエドマールがゲスト参加。その演奏に手応えを感じた2人はデュオとして本格的な活動をスタートさせ、今年5月からワールドツアーを開催。本作『ライヴ・イン・モントリオール』は出会いからちょうど1年後のモントリオール・ジャズ・フェスティバルでの演奏を収録したライブ盤だ。上原がこのプロジェクトのために制作した組曲「ジ・エレメンツ」のほか「リベルタンゴ」(アストル・ピアソラ)、映画『スターウォーズ エピソード4』の挿入歌「カンティ—ナ・バンド」のカバーなどを収録した本作は、2人の卓越した技術とセンスが有機的にぶつかり、融合する作品に仕上がっている。予測不能の即興演奏だけではなく、楽曲の本質を深く理解し、お互いの良さを引き出すような構成力の高さに魅了される。


 ソロデビュー30周年を記念した、本人セレクトによるベスト盤『MY FAVOURITE POP』。渡辺満里奈withおニャン子クラブ名義でリリースされたデビュー曲「深呼吸して」、80年代シティポップのテイストを反映させた2ndシングル曲「マリーナの夏」をはじめ、キャリアを代表する楽曲がコンパイルされている。大江千里、鈴木祥子、上田友華など個性的なクリエイターの手による楽曲も多いが、なかでも注目すべきは佐野元春の作詞・作曲、多羅尾伴内(大瀧詠一)によるノスタルジックなポップチューン(フィル・スペクターを想起させるサウンドメイクが絶品)「ダンスが終る前に」、そして、小沢健二が手がけた、アコギと歌によるネオアコ風ナンバー「夜と日時計」。80年代後半~90年代前半のシーンにおけるもっとも良質なポップソングが楽しめる作品と言えるだろう。どこか少年っぽい雰囲気の、爽やかで真っ直ぐなボーカルも印象的だ。(森朋之)