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GLIM SPANKYの音楽がもたらす驚きと発見 最新作チャートアクション好調の理由を考察

2017年09月18日 12:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 9月13日に発売されたGLIM SPANKYの3rdアルバム『BIZARRE CARNIVAL』が、9月13日付オリコンデイリーアルバムランキングで自身最高位の2位を記録。発売日にはiTunesでも話題となり、ロックアルバム・チャートで1位となった。


(関連:GLIM SPANKYが深めた“スタイル”への確信「『自分たちは自分たち』という気持ちを持ててる」


 70年代ロックにルーツを根ざしながらも、その影響を自分たちの表現としてオリジナリティーを確立し、唯一無二のロックサウンドとして2017年のチャートを賑わせたことは、オーセンティックなロック不在と呼ばれる音楽シーンにおいて事件だ。本作『BIZARRE CARNIVAL』は、過去アルバム作品2作と違いタイアップは少なく、1曲を除いてセルフプロデュースである純度の高さにも注目したい。よりGLIM SPANKYの2人が目指すべき方向性が明確となった作品が『BIZARRE CARNIVAL』といえるだろう。


 本作は、アンセムとなったラストナンバー「アイスタンドアローン」で宣誓する<比べる馬鹿は無視して 僕は僕だけの戦場を持とう イマジンだ 思考の宇宙の中へ>というリリック(歌詞)に心を動かされる。そんな心境に至るまでの心情が、アルバム『BIZARRE CARNIVAL』では全11曲を通じて描かれている。GLIM SPANKYはすべてを受け止め葛藤し、2017年の“いま”を鳴らすべきロックンロールとして表現しているのだ。


 そもそもGLIM SPANKYというバンド名は、ケルト文化の伝説や幻想文学に由来するグリム(GLIM)のように幻想的なイメージと、音楽シーンや世の中に平手打ち(SPANKY)するかのような刺激を与えたいと込められ名付けられたという。


 オーセンティックなロックへの想いが感じられる『BIZARRE CARNIVAL』は、若い世代には新鮮に、ロック世代には懐かしくも喜びの発見が垣間見れることがチャートアクションが好調な理由なのかもしれない。さらにいえば、録音状態の音の良さへのこだわりにも注目すべきだ。CDの3倍の情報量を持つというハイレゾと呼ばれる高音質な環境はもちろん、通常のCDやストリーミングで聴いてもとにかく音がいい。奥行きを感じられる響き、音の鳴り方の分離が目に見えるように伝わる音世界。耳元で演奏しているかのような多彩な表現を感じられるサウンドの魅力に驚かされた。


 本作収録曲の楽しみ方の一例を解説していこう。オープニング「THE WALL」でのドラムとベースが牽引する重厚なるビート感に、<すり減ってるレコード また針を乗せよう ああ ハートなら全く擦れてはいないから>という、宣言のようにも聞こえる松尾レミのハスキーボイスの華麗さ。自らが愛するロックを次の時代へも継承していこうという意識を感じる歌声の強さだ。<情報だけ満ち溢れて 目がくらみそう でも 楽しめるもんを探して生きているから 味気のないただ出来る子なら要らない ああバクバク鼓動が踊るやつが欲しい>という、自らの立ち位置を客観視するかのようなフレーズの強さもたまらない。まさに“THE WALL=壁”の上に立ち、そこでしか見えない景色を自分の目で見渡し、自身の内面と向き合って突き進んでいく素直な言葉の強さを感じた。


 続く、ビートルズのマジェスティックな世界観を彷彿とさせる「BIZARRE CARNIVAL」は、GLIM SPANKYのストーリーテラーな側面を存分に発揮したシアトリカルでサイケポップなナンバー。途中、世界がよりサイケデリックに変化する亀本寛貴によるギターソロのインパクトは注目すべき点だ。松尾レミ曰く「スピーカーで視聴する際に爆音でも耳が痛くならないように聞こえ方にも最大限のこだわりを持った」という本作は、聴くごとにあらたな表情と出会え、驚きと発見を感じられる。「The Trip」での、途中展開が加速して爆裂する亀本のギターソロにも注目してみて欲しい。ギターヒーローの称号にふさわしいロックスターの表現と出会えることだろう。


 先行して配信リリースされた「吹き抜く風のように」では、儚げなギターイントロからドラムが加速して、松尾レミが歌う<どこにもない 縛られるものなどない 宗教や戦争も僕にはないのさ>のフレーズが暴く2017年の世界の社会状況の本質。GLIM SPANKYが時代の違和感を浮き彫りにしていく。それもまたロックの力だ。


 「Velvet Theater」での<ウイスキーのグラス 左目に当てて>というハードボイルドな世界観。物語の深層心理は2分34秒からのサウンドで明かされるという楽曲展開にも驚かされた。新境地ともいえる「END ROLL」の、硬質でニューウェーブなギターリフとミニマルなビートセンスのかっこよさにもやられた。ビートルズ的な録音で、左右でドラムとギターを振り分けた「Sonntag」のギミック感など、ロックを自らの経験値フィルターを通じて再構築していくのも面白い。


 疾走するポップロック・チューン「ビートニクス」は、ライブでの狂騒が予感できて楽しい。そして、あえて多くは語らずにいたい、本作で一番注目して欲しいナンバーが「美しい棘」。この曲では、青春めいた一期一会の美しさが描かれている。続く、穏やかに耳元で囁かれるような「白昼夢」で歌われる安心感。そして、ラスボス登場のようなイントロが鳴り響く「アイスタンドアローン」で力強く決意表明が示される。


 GLIM SPANKYが語るべきメッセージは「THE WALL」と「アイスタンドアローン」の歌詞にすべて明快に表現されている。さらに、その心に秘められた内面を歌い紡ぐ全11曲の音絵巻。バンドが持つクリエイティブの本質、そして“いま”の心情がリアルに表されたアルバム作品が『BIZARRE CARNIVAL』といえるだろう。


 GLIM SPANKYは今後、9月20日に『スッキリ!!』(日本テレビ系)への生出演や全国ツアーも控えている。傑作ロックアルバム『BIZARRE CARNIVAL』のさらなるロングヒットに期待したい。(ふくりゅう)