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泉澤祐希 & 伊藤沙莉に漂う昭和感 『ひよっこ』で見せた“若くしてベテラン”の演技

2017年09月18日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 NHK朝ドラ『ひよっこ』では、ヒロイン・みね子(有村架純)の周りに、序盤から終盤まで常にスラリとした長身イケメンがいた。一時は恋人同士になる、スマートで知的な学生の島谷さん(竹内涼真)。親身になってくれ、父親探しに奔走してくれた警察官の綿引さん(竜星涼)。職場・すずふり亭でずっと見守ってくれてくれてきた見習いコックのヒデ(磯村優斗)など……。


参考:伊藤沙莉は天才的な女優だーーヤンキーからセクシー女優まで、体当たりで挑んだ『獣道』の凄さ


 しかし、そうした相手役候補のイケメンたちとは別の場所に存在し、視聴者の心をわしづかみにしたキャラがいる。幼なじみの小犬系男子・三男役の泉澤祐希だ。朝ドラで幼なじみといえば、ヒロインに思いを寄せ、健気に見守り続けるのが一般的。『ひよっこ』の三男も、もれなく「健気に見守る幼なじみ」だが、思いを寄せて見守っている相手は、ヒロインでなく、その親友で村一番の美人・時子(佐久間由衣)である。


 「女優、諦めろ。で、俺の嫁さんになれ」


 これは、女優の夢を抱いて上京するも、挫折しそうになり、弱音を吐く時子を慰めるための荒療治だ。時子の返事は「死んでも嫌だね、あんたの嫁なんて!」。負けん気の強い時子の性格を理解しきっている三男は、自らの恋心を踏み台にさせ、発奮させる。この捨て身の励まし方は、あまりにイイ奴すぎて、切なすぎた。また、自分を思い、応援し続けることで、恋に縛られ続ける三男を解放すべく、「今までありがとう」と伝える時子と、涙をこらえて笑ってみせる三男のいじらしさ。時子が夢を叶え、羽ばたいていく姿を見守る小さな後姿には、涙した視聴者が少なくなかったろう。


 泉澤の場合、今作の竹内や、『梅ちゃん先生』の松坂桃李、『あまちゃん』の福士蒼汰、『ごちそうさん』の東出昌大、『花子とアン』の窪田正孝のような、「朝ドラからの大ブレイク」は巻き起こっていない。ひとつには、童顔・小柄で古風な佇まいが柴犬的な可愛さ、健気さ、いじらしさを醸し出し、女性を熱狂させるよりも、母性本能をくすぐってしまうということがあるだろう。


 だが、何よりも、茨城の村が、東京の米屋が、昭和という時代が、三男という人物がハマりすぎていて、演技が達者でナチュラルすぎるために、それが演技に見えないのだ。それもそのはず、まだ24歳ながらキャリアは長く、『白夜行』(06年/TBS系)で父親殺しの罪を背負う主人公(山田孝之)の幼少期を演じた天才子役ぶりを覚えている人も少なくないだろう。NHKや時代モノとの相性は抜群に良く、子役時代には大河ドラマ『功名が辻』(06年)で上川隆也・仲間由紀恵夫妻の養子として出演、大河ドラマ『花燃ゆ』(15年)では吉田寅次郎に心酔して非業の死を遂げる金子重輔を熱演している。


 朝ドラは『すずらん』(99年)、『マッサン』(14年)に続いて今作が3作目で、『マッサン』ではシベリア抑留から帰還し、戦争の傷を心に負う悟を演じ、評判に。ちなみに、NHK BSプレミアムの『ちゃんぽん食べたか』で演じたのも、『ひよっこ』と同じく、米屋さん。こんなにも米屋が似合う24歳はいないのではないか。


 泣きの演技の上手さには定評があり、不遇な役、ちょっと不憫な役、暗い役は見事にハマる。だが、実はちょっと口うるさい奴、イヤな奴も得意で、『表参道高校合唱部!』(15年/TBS系)で演じた合唱部部長役では、合唱愛が強すぎて口をとがらせて怒ったり、声を裏返して空回りしたりする「小物」感溢れる秀才を可愛くナチュラルに演じていた。『仰げば尊し』(16年/TBS系)で演じた吹奏楽強豪校のエリート役は、ピンポイントのゲスト出演にもかかわらず、卑怯ぶりが強烈な印象を与えていた。


 ところで、『ひよっこ』にはそんな泉澤ともう一人、若いのにベテラン臭漂う、いやに達者な役者が出演している。三男が勤める米屋の娘・安部さおりを演じる伊藤沙莉だ。
 三男に思いを寄せるさおりの猛アタックぶりは凄まじく、会話のテンポの良さ、クルクル表情の変わる「顔芸」も含めて、まるで芸人のよう。年配視聴者などの間には、本気で女芸人だと思いこんでいた人もいたようだ。


 それでいて、時折見せる恥じらいや乙女心、純粋さには、「あれ? もしかして意外と可愛いところもある?」とドキッとさせられる。この三男とさおりのやりとりは、ずっと観ていられそうな楽しさがあったが、その一方、あまりにナチュラルすぎて、「役者」というより、その世界に住んでいる人に見えてしまう。


 ちなみに、伊藤の特徴あるハスキーな声に、「この子、知ってる!」と幼少時を思い出した視聴者は少なくなかったろう。『女王の教室』(05年/日本テレビ系)でイジメっ子を憎らしいほど上手に演じていた彼女。デビューは9歳のときで、『14ヶ月~妻が子供に還っていく~』(03年/日本テレビ系)で身体が少女に戻ってしまう女性研究員を演じ、注目を浴びたほか、これまで『GTO』(14年/関西テレビ系)『怪盗 山猫』(16年/日本テレビ系)などをはじめ、いじめっ子やイヤな奴を多数演じてきた。


 しかも、三男役・泉澤と、さおり役・伊藤は、同年代で同じ事務所(アルファエージェンシー所属)。いずれも演技が達者で、小柄で、「昭和」感があり、コメディも悪役もできる。イケメン&美女的な扱いでブームを巻き起こすわけではなくとも、確かな実力で間違いなくこの世界で長く生き続けていくはずの二人。近年は二人とも映画主演も果たしているし、これからの出演作が楽しみでならない。


■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。