今回のトロロッソとホンダの提携は、ホンダの山本雅史モータースポーツ部長とレッドブルのヘルムート・マルコ博士の個人的な接触から始まった。私事で恐縮だが、両者が昨年10月のアメリカGPのパドックで初めて会った際には、筆者がささやかな仲介をさせてもらった。
山本部長はホンダのウェア着用のままレッドブルのモーターホームに入って行くことに苦笑いしていたが、すぐにマルコ博士と意気投合したようだった。
レッドブルドライバーのピエール・ガスリーがホンダ系のTEAM無限からスーパーフォーミュラに参戦し、レッドブルがタイトルスポンサーに付いたのは、ふたりの話し合いの産物である。そんな彼らがF1での今後の協力関係についても話が弾んだであろうことは、想像に難くない。
山本部長は今回のトロロッソ・ホンダ提携は、「マルコと去年のアメリカで会って、それ以来『いつかホンダがトロロッソに供給して』みたいな話を冗談でしてた」ことが発端だったと語っている。
その後8月のハンガリーテストの際、マルコ博士から供給の打診があったが、「その時点ではまだ、マクラーレンとの継続が前提でしたから、いっさい交渉はしなかった」と言明する。
「もちろんトストさんとは以前から面識はありましたが、今年はモンツァで初めて会った。その後必死で、交渉を進めました」
つまりマクラーレンとの決裂が決定的になったイタリアGP以降、交渉を大急ぎで詰め、提携にこぎ着けたというのだ。しかしザウバーへのパワーユニット供給話が一方的に打ち切られるという噂が飛び交っていた7月のシルバーストンで、山本部長は「次の手を打つ必要があるでしょう」と言明している。
さらに言えばマクラーレンからはすでに開幕前後から、提携解消を迫られていた。ザウバーもダメ、マクラーレンとも契約解消となれば、供給先がなくなってF1から撤退という最悪のケースも想定できた。この時点からホンダはレッドブルを通して、トロロッソへの供給の打診をしたと考えるのが妥当であろう。
実際、両者がこの時期、ヨーロッパ某所で話し合いを重ねていたという情報もある。そしてトロロッソとホンダの提携は、『ルノー以後』を考えていたレッドブルにとっても、ホンダとのワークス契約の可能性まで見据えた、渡りに船の話だったはずである。