ノーベル賞を受賞した研究者ですら、潤沢な研究資金に恵まれているわけではないようだ。京都大学のiPS細胞研究所は、「iPS細胞研究基金」という名称で、研究資金の寄付を募っている。9月14日からネットで話題になり、「こういう所にお金回して欲しい」といった声が相次いでいる。
「こんなレベルの人たちの仕事が非正規なんて日本の滅亡ほんと近い」
同研究所は、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、京都大学の山中伸弥教授が所長を勤めている。研究所の財源の多くは「期限付きの財源」であるため、2009年から「iPS細胞基金」を開始し、「長期的に活用できる資金」の確保に努めているという。
同基金の「ご支援のお願い」というページには、山中教授の「皆様へのメッセージ」が掲載されている。最先端の研究を担う同研究所でも資金に余裕があるわけではないようだ。
「iPS細胞実用化までの長い道のりを走る弊所の教職員は、9割以上が非正規雇用です。これは、研究所の財源のほとんどが期限付きであることによるものです。(中略)皆様のご支援は、長期雇用の財源や、若手研究者の育成、知財の確保・維持の費用などに大切に使わせて頂きます」
ノーベル賞受賞者が率いる研究所ですら、職員のほとんどが非正規雇用であるという現実に衝撃を受けた人が多かったようだ。はてなブックマークのコメント欄には、「おかしいだろ」といった書き込みが多数寄せられていた。
「ノーベル賞も取った研究所の9割がなぜ非正規雇用なんだ」
「日本のトップクラスの研究所が『9割が非正規なんですorz』みたいな態度で寄付をお願いする、ってのは、嘆くしかない」
そして「こんなレベルの人たちの仕事が非正規でかつ寄付を募らなきゃいけないなんて日本の滅亡ほんと近い」と日本の将来を憂う人も多かった。また「製薬会社は投資しないの?」と民間投資に期待する声もある。
基金担当者が湘南国際マラソンに参加し、知名度向上を目指す
同研究所の担当者は、キャリコネニュースの取材に対して、寄付募集の背景を語った。
「研究所の運営は、競争的資金に頼っているのが現状です。これは配分を受けられたとしても、数年などの期限がついています。そのため、有期雇用の職員が多くなってしまいます」
製薬会社が研究開発へ投資する一環として研究所が企業との共同研究を行うことは多くある。しかし、継続するかどうかは企業の意向にも大きく左右される。
「製薬会社や研究所にとってメリットが十分大きくないことが判明したり、当初の研究目的が達成された場合には、共同研究が終了することになります。研究所の安定的な運営にはやはり、期限のしばりなく使える自主財源が必要なのです」
自主財源の確保が重要であるという点は、同研究所だけでなく、日本の科学研究全体にも言えるという。
「日本では、米国に比べると公的研究費の総額自体が大きくありません。その中では、iPS細胞の研究は非常に恵まれてきた分野です。そのiPS細胞の研究でも自主財源確保のために一生懸命努力していますので、基礎研究を主とする研究所や地方大学ではもっと研究費や自主財源が不足していると思います」
2016年度には約23億7千万円を集めた同基金。これまでの積み立ては約70億6千万円になるという。さらなる知名度向上のため、基金担当職員は、12月3日に神奈川県で開催される湘南国際マラソンに出走する予定だ。