全日本ロードレース選手権のJSB1000クラスで六度のタイトルを獲得している“絶対王者”の中須賀克行。第7戦オートポリスではホンダの高橋巧とのマッチレースを制し、今季2勝目を挙げたが、シーズン序盤は苦戦を強いられていた。果たして中須賀に何が起こっていたのか。
中須賀は今季6レース中四度の転倒を喫し、うち3回はフロントからのスリップダウンによる転倒だった。このため3レースでノーポイントに終わり、チャンピオン争いが厳しいものとなった。一方、チームメイトの野左根航汰は第4戦もてぎでJSB1000初優勝を果たし、第6戦もてぎでも優勝し2勝目を挙げている。
野左根の好調に対する中須賀不調の原因は何だったのか。その要因は今季から変更されたタイヤレギュレーションによるものだろう。
■0.5インチの違いが生み出す変化とは
「自分が17インチのタイヤに16.5インチのフィーリングを求めすぎているところがあったので、17インチタイヤとマシンの合わせ込みに苦戦している状況でした」と中須賀は言う。
JSB1000は、今シーズンからタイヤのレギュレーションが16.5インチから17インチに変更された。16.5インチと17インチのタイヤは外径は変わっていないため見た目では大きな違いを感じることができないが、リム径が変化しているため、タイヤと地面とが接地しないサイドウォールの面積に違いが生まれている。
タイヤのサイドウォールの面積が大きいとフロントのグリップ力が高くなると言われており、サイドウォールの面積が0.5インチ分小さい17インチのタイヤは16.5インチに比べてフロントのグリップが落ちるようだ。その代わり、リヤタイヤのグリップ力は上がっていると言われている。
しかし、見た目では見えない0.5インチの差がどのくらい違うのか、疑問に思うファンは多いはずだ。この違いについて中須賀は「フィーリングに関してはリヤタイヤのグリップ力は16.5インチよりあるんですよ。ただ、リヤのグリップ力が勝ちすぎていてフロントが辛くなってしてしまう。16.5インチはフロントもリヤもグリップのレベルが同じだったので、そこが16.5インチと17インチで大きく違いますね」と教えてくれた。
「僕のライディングスタイルはフロントを重視して乗るスタイル。かたやチームメイトの野左根選手はリヤを使って走らせるイメージのタイプなんです。なので、野左根選手はうまく乗れている。同じバイクに乗っている野左根選手は非常にリズムよく乗れているので、マシンのセッティングに関して、方向性は間違っていないと考えています」
タイヤの前後バランスの変化による走らせ方の違いは2016年にタイヤのサイズが変更となったMotoGPの世界でも起こっており、フロントから転倒する選手やレース後半で失速する選手が多く見られている。
「(これまでの転倒に関しては)前後のタイヤのバランスが崩れている状態でフロントのブレーキングで走ろうとしてしまうから、最後に攻めきろうとしたときに自分には(路面の)インフォメーションが足りなくて行き過ぎてしまい、転倒してしまうパターンが多い。ライディングスタイルを変えていかないといけませんでした。それは把握はしているし、イメージも作っているけど、いざ攻めていくと自分の乗り方になってしまっているんです(苦笑)」
中須賀が「17インチの走らせ方を把握している」と語ったとおり、全日本ロードレース第7戦の決勝では、終盤で高橋を引き離し、今季2勝目を挙げた。レース後、中須賀は記者会見で「最後の4周は異常に長く感じて、コーナーでブレーキングするたびに悪夢がよみがえっていました。これまで自分のペースで走り始めると転倒してしまっていたので、最後の4周は今まで以上に集中して攻めの走りでペースをキープできたので、悪い流れは断ち切れたかなと思います」とコメントしている。
全日本ロードレースも残り3レース。中須賀はオートポリス戦の結果でポイントランキング20位から13位に浮上したが、チャンピオン争いに加わるのは厳しい状況だ。
それでも中須賀はチャンピオン獲得をあきらめておらず、最後に「ランキング争いは厳しですが、今シーズンは終わっていないので、残りのレース、もちろん全戦優勝しかないのですが、勝ち方と『中須賀は強いんだな』という内容のレース展開にしたいと思っています。チャンピオン争いをかき回していきますよ」と強く意気込んだ。
今シーズンのチャンピオン争いはどのような結末を迎えるのだろうか。残り3戦、中須賀の活躍から目が離せない。