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今年話題を呼んだ“甘く切ない”2作ーー映画#ララランドとムーンライト、前田敦子 × 沖田修一監督対談

2017年09月15日 10:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 映画『ラ・ラ・ランド』と『ムーンライト』熱は今もまだ冷めやらない。2作は公開以降、心に染み入るストーリーと鮮やかな色彩で多くの観客を魅了し、2017年オスカー有力候補として注目を集めてきた。その授賞式では作品名が読み間違えられる前代未聞のハプニングが起きたものの、監督と演者の当意即妙な受け答えが両作のファンの映画熱をさらに後押しする結果になったから面白い。毛色の違う作品でありながら、奇しくも「甘く切ない」ストーリーという共通点のある2作の見どころを、無類の映画好きで知られる女優の前田敦子、話題作を送り出し続けている沖田修一監督の2人に聞いた。


参考:Blu-ray&DVDリリースを期に改めて考える、時代の流れが生んだ『ムーンライト』のアカデミー賞作品賞受賞


■沖田「『ラ・ラ・ランド』も『ムーンライト』も劇場に足を運びました」


――2人とも両作はひとりで観たそうですね。


前田敦子(以下、前田):はい。私は試写で拝見しました。


沖田修一(以下、沖田):僕も新百合ケ丘の映画館でひとりで観たんです。


前田:映画はひとりで観ることの方が多いので、こうして映画の感想を改めてお話しするのは新鮮です。


沖田:そうだよね。とは言っても『ラ・ラ・ランド』なんかは普通カップルで観に行くんじゃないのかな?


前田:このビジュアルは行っちゃいますよね。演じている2人がエマ・ストーンとライアン・ゴズリングですもん。若いカップルは絶対に観たいはず。


沖田:それに、これだけ迫力があるとね。まずは「踊りが良かったね」という話で盛り上がれる。


前田:恋愛という観点で話すと、『ラ・ラ・ランド』も『ムーンライト』もしっとりした感じになっちゃいますからね。


沖田:うん、その上でそれぞれの面白さがあったよね。そういえば授賞式での読み間違え事件は衝撃的だったんじゃない?


前田:あれは本当に大事件で、ある意味盛り上がりましたよね。ちなみにお仕事でアカデミー賞を予想する企画があったんですが、私は『ラ・ラ・ランド』のエマ・ストーンが間違いなく主演女優賞を獲ると思っていたんです。作品賞となると、去年は『スポットライト 世紀のスクープ』が受賞していたようになかなか予想が難しい。そこで『ムーンライト』みたいな深い作品が受賞したのには納得です。


沖田:なるほど。しかし、こうして前田さんの話を聞いていると、僕は受賞の予想なんて全く考えてもいなかったな(笑)。


――2人とも幅広いジャンルの作品を観るとは思いますが、ハリウッド映画はどうでしょう?


沖田:好きですね。映画に夢中になりだした高校生ぐらいの頃には多くのアカデミー賞受賞作を観ていました。外国語賞受賞作ばかりを立て続けに観ていたこともありましたし。今年ですと『ラ・ラ・ランド』も『ムーンライト』も劇場に足を運びましたが、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観逃したのが残念だったな。


前田:あの作品、私の周りは好きな人が多いですよ。


沖田:前田さんは本当によく観ているよね。


前田:網羅はしていないですけれどね。ところで、こういったハリウッド映画で監督も泣いたりしますか?


沖田:昔は泣かなかったけど最近なぜか涙もろい。『ラ・ラ・ランド』を久しぶりに家で観直した時に「ずっと愛しているわ」と言うシーンで思わず泣いてしまいました。「なんだかいいな~」としみじみ思いまして。


前田:ふふふ(笑)。


沖田:あ、言わなきゃよかったな……。


■前田「シェアハウスをしている女の子たちが歌って踊るシーンが大好きなんです」


――『ラ・ラ・ランド』はどうでしたか?


前田:演じている人も衣装も全てが素敵でした。終わり方も含めてすごくいいなと思っています。


沖田:なるほど。以前、『レ・ミゼラブル』の話をしていたから、そもそもミュージカルが好きだろうなとは思っていたんだよね。何回観たの?


前田:私はブルーレイを買ったので自宅でもずっと流してるんですよ。そして、観れば観るほど好きになる。すごく期待されている作品だったので、初回は「ミュージカル映画がきた!」とガチガチになって観てしまって味わいきれなかったんです。


沖田:構えちゃったのね(笑)。


前田:でもそんなに気張らなくても、もっと雰囲気で楽しめる映画だと思っています。何と言っても音楽が素敵ですから。これなら流し見もできますよね。私はミアとシェアハウスをしている女の子たちが歌って踊るシーンが大好きなので、そのシーンが流れたら違う部屋にいても画面の前まで戻ってきて観てしまうほど。


沖田:また何で?


前田:とにかく可愛い。オープニングが好きという人の方が多いとは思いますが、私は可愛い女の子が好きなのであれだけで一気に気持ちが上がっちゃうんです。


沖田:可愛い女の子たちが同居しているシーンって確かにすごくいいね。


前田:言葉の響きからしてよくないですか(笑)?


沖田:うん、僕は撮ったことがないけどそう思います(笑)。


――『ラ・ラ・ランド』がフィルム撮影だと気づきましたか?


前田:フィルムだからこそあの長回しは本当にすごいと思っています。まず贅沢ですしあれだけ完成度が高いものを作り上げられるのは演者としてもすごく幸せだろうなと。


沖田:あれは大変だろうな。


前田:緊張感がありますよね。もちろん、出来上がった映像のニュアンスも見どころですし。


沖田:フィルムで撮っていることを主張してくる映像だったよね。古き良きという考え方が映画の中に見え隠れするのが良かった。


前田:映画館でデートをするシーンもまさに古き良き! ちょうど女友達が自宅に遊びに来たときに『ラ・ラ・ランド』をみんなで流し見していたんですが、「映画を観に行こう」と言葉にして誘われるのがキュンとすると盛り上がりました。なんとなくの流れで映画館デートをするのではなく、誘われるというのが肝です。


沖田:なるほど(笑)。


■前田「たまたま男の人同士のお話でしたけど、すごくピュアな恋をしていますよね」


――『ムーンライト』はどうでしたか?


沖田:ビジュアルを見た時にはまさか恋愛映画だと思わなかったので意外性がありました。


前田:うん、『ムーンライト』面白い作品でした。私は主人公の父親代わりのフアンが忘れられないです。悪い場所ですごく悪い仕事をしているのに安心感がある人。


沖田:映画のラストまで家族を超えた存在としてフアンの印象をひきずり続けるよね。


前田:そうなんです。フアンという人がいたからこそ主人公はこうなったのかなとか、いなかったらどうだったろうと考えてしまう。そうすると、社会的には悪とされることも「しょうがない」と思えてくる。「しょうがない」に尽きます。


沖田:なるほど、「しょうがない」か。そういう風にも見られてしまうね。フアンの男性像がどこまで主人公の内面に尾を引いていったのか僕たちは想像するしかないじゃない。だから前田さんの感想も理解できます。個人的には、何事も分かりやすく描きたがる映画が多い中で『ムーンライト』は全てを明かさない作りがとてもいいなと。


前田:なるほど、そうなんですね。


沖田:あとはこのお母さん! ナオミ・ハリス演じるお母さんも印象的だね。


前田:わかります。私もすごく好き。最初はすごく嫌なお母さんなんですけどね。


沖田:ねえ。


前田:こうしてみるとこの映画は本当にみんな心が優しい。罪を憎んで人を憎まずじゃないけれど、やっぱり「全てがしょうがない」と思えてしまう。


沖田:そうなんだよね。許すしかなくなっちゃうんだよ。


――LGBT映画が盛り上がっていますが、本作では主人公の恋愛をどうみましたか。


前田:たまたま男の人同士のお話でしたけど、すごくピュアな恋をしていますよね。恋愛映画というと女子同士でもいいし男子同士でもいいし色々な人がいて当たり前だと思っているので、そこは特別に考えてはいませんでしたね。


沖田:『さらば、わが愛/覇王別姫』なんかも印象深い映画でしたが、今になって取り立ててショッキングということもないですからね。


前田:私は恋愛映画という見方以上に、こういう環境に生まれた男の子のヒューマンの話だなと思って観ていました。


沖田:人と人の話だよね。僕は年の離れた男同士の関係が好きなので、父親代わりのような関係性はグッときましたね。


■沖田「きっと一人ひとりにものすごい緊張感が強いられているんだろうね」


――女優・監督目線で観劇しますか?


沖田:僕の場合は、いちお客さんとしてしか観ていないです。でも、『ラ・ラ・ランド』のオープニングなんかは、「ああ……これで映画1本撮れるんじゃない」と。


前田:(笑)。


沖田:監督業でなければ楽しむのみのシーンですから、そういう目線で観てはだめだと思いつつ。


前田:私、『ラ・ラ・ランド』はメイキングも観たんですが、監督曰く、プロデューサーがすごくいい人だったと。「本当は大きい声では言えないけど、お金と時間は気にしなくていい」とこっそり言ってくれたらしいんです。しかもフィルムですごく長回しじゃないですか。それでいていいシーンを絶対2つは抑えないと嫌だったそうで。


沖田:きっと一人ひとりにものすごい緊張感が強いられてるんだろうね。オープニングにしてもひとり落ちてしまったらNGなわけで。


前田:ねえ! 本当に大変ですよ。


沖田:前田さんは演者としてそういう気持ちになることは?


前田:ありますよね。長回しで何人かで喋って、最後にちょっとした台詞で自分が噛んじゃう。


沖田:ああ……(笑)。まあまあ、それが醍醐味でもある。


前田:ちなみに『ラ・ラ・ランド』の監督はだいたい5回以上撮ったそうですよ。演じる側もとってもハードなんでしょうけれど、それほどありがたいこともないなと思います。


沖田:なるほど。


前田:沖田監督も1回でOKってことはないですよね。


沖田:撮りたがりなので本当は何テイクも撮りたい。今のは上手くいったねという共感がみんなに生まれたテイクをOKにしたくて。


前田:長回しはやっぱり大変ですよね。


沖田:ね。長く回せばいいってことにはならないけれど、俳優さんが上手くいっていればそのままを撮るに越したことはないからね。『ムーンライト』にしても長いことぐるぐるとカメラの視点が回り続けていたから結構びっくりしたな。


■前田「2回くらい集中して観た後、3回目も楽しめそうな映画は家に置いておきたい」


――映画館or自宅、どちらで観たい?


沖田:劇場と自宅では違うことに気づくことがあります。例えば『ラ・ラ・ランド』だと、踊っている最中にiPhoneの着信音が入ってくるシーンがあるんです。劇場ではなんとも思いませんでしたがDVDで観ると不思議な感覚でした。聞き覚えのある音がミュージカルの中にあるのは気持ちいいような悪いような新感覚で面白いなと。


前田:私は2回くらい集中して観た後、3回目にも雰囲気を楽しめる映画というのは絶対にお家に置いておきたい。と言いつつもいいと思った作品は全て買うタイプですよ。以前は観てない作品だけ買うようにしていましたが、そうすると既に観た好きな作品が家に揃わないことに気づきました(笑)。


沖田:わかる。覚えのない謎のDVDが部屋に並んでいたりするんだよね。僕も気に入ったものは手元に揃えたいです。でもこの2作のすごいところは、やはり欲しくなるところだね。


前田:そう。『ムーンライト』は深いから何度観ても気づきがありそうだし、『ラ・ラ・ランド』は流しておくにもいいし、どちらも欲しい。


沖田:買っただけで満足しちゃうこともあるけどね(笑)。


前田:ありますね、封を開けないままで(笑)。でも、いつか役立つコレクションに!


沖田:はい、前田さんの言う通り。映画って誰と観るかも重要ですし、突発的に「今、観たい」と思うことがありますからね。持っておいて損なしですね。


(取材・文=永井貴子/写真=鈴木新)