長時間労働を抑制するため、残業時間の上限規制が議論されている。しかし規制を盛り込んだ「働き方改革関連法案」には、「定額で働かせ放題」という批判の根強い「高度プロフェッショナル制度」までもが含まれている。
日本労働弁護団は9月14日、「『働き方改革』一括法案を斬る! 緊急院内学習会」を開催し、これらの政策を「関連法案」に一本化しようとする政府を批判した。
「残業の上限規制も、過労死ラインを合法化するもの」
同法案では、残業時間の上限を「月45時間、年360時間」、繁忙期でも「月100時間未満、年720時間」と定め、罰則も設けた。他にも、正社員と非正社員の待遇差を禁止する「同一労働同一賃金」や、退社から出社まで一定時間を空ける「勤務間インターバル」の努力義務も盛り込まれている。いずれも長時間労働を是正したり、待遇の差を解消したりするために不可欠な施策だ。
一方、同法案には「高度プロフェッショナル制度」も盛り込まれる予定だ。高プロが成立すれば、年収1075万円以上の専門職は、労働時間の規制や残業代の支払い対象から外れる。そのため以前から、「長時間労働を促進する」「定額で働かせ放題」と批判され続けてきた。
また塩崎恭久厚生労働大臣は4月、高プロに関して「小さく産んで大きく育てる」と発言している。現在は、高収入の専門職に限定されているが、今後対象範囲が広がる危険性もある。
今回の緊急院内学習会では、議員や弁護士、過労死遺族が登壇。政府が「高プロ」を成立させるために、他の重要な規制と抱き合わせにしていると批判した。
日本共産党の山添拓参院議員は、
「安倍政権は、高プロがあまりにも評判が悪いので、残業時間規制と合わせて一本化した。しかしこの残業の上限も、『過労死ライン』である月100時間を合法化するものになっている。さらに同一労働同一賃金も盛り込まれているが、同じ仕事でない限り、待遇は同じにならず、格差を固定するもの」
と指摘。安倍政権の働き方改革は「経済成長のための『働かせ方改革』にすぎない」と批判した。
「1か月100時間未満という規制で、健康や命が守れるのか」
全国過労死を考える家族の会代表の寺西笑子さんも駆け付け、残業時間の上限をもっと少なくするべきだと訴えた。
「裁判で労災だと認定され、企業が謝罪をしても亡くなった人は二度と生き返りません。こんな悲しい思いをする遺族をこれ以上増やしたくありません。1か月100時間未満という規制では、1日あたり平均5時間も残業させられることになります。これでワークライフバランスが維持できるのでしょうか。健康や命が守れるのでしょうか」
今回の法案でも一部の業種が引き続き別扱いとなっている。タクシーやバスの運転手、トラックドライバーに対しては、他の業種での規制が施行されてから5年後に、年960時間以内の上限規制が適用される予定だ。
しかも、この上限時間に休日労働を含めるかどうかはまだ明らかになっていない。全日本運輸産業労働組合連合会の世永正伸さんは、「この上限に休日労働が含まれない場合には、年間1170時間まで時間外労働させられることになってしまう」と危機感を露わにした。
批判の多い「働き方改革関連法案」だが、9月25日に開かれる臨時国会に提出される見通しとなっている。民進党の井坂信彦衆院議員は、「高プロ容認という許しがたい欠陥のある一括法案には丸ごと反対する」と意気込みを語った。