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「乗るべしスーパーカー」発売記念連載06『デ・トマソ・パンテーラGT4』

2017年09月13日 12:42  AUTOSPORT web

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9月5日に発売となった「乗るべしスーパーカー」の発刊を記念して、この本の主役である気鋭のフォトグラファー・悠佑氏が切り取った珠玉の写真たちと、オーナーとスーパーカーのライフストーリーをご紹介。第6回は「デ・ドマソ・パンテーラGT4」だ。

●CarDetails Detomaso PANTERA GT4
Text:Akira YOKOTA

 デ・トマソはレーシングドライバー出身のアレサンドロ・デ・トマソがモデナに立ち上げたレーシングカー工房がルーツ。1960年代後半からフォードとの関係が深まり、フォード製のエンジンを搭載したスポーツカーを開発。パンテーラはその一環として1971年に生まれた。

 当時のスーパーカーとしては珍しいモノコック構造のボディに、5.8リッターのV8OHVというアメリカンエンジンの組み合わせは、豪快な走りと廉価を両立。細かな改善を施しながら、90年代まで現役を保った。パンテーラGT4は、グループ4レース出場を目指したエボリューションモデル。ノーマルの330PSは500PS以上までチューンされ、ワイドタイヤやオーバーフェンダーなどを纏う。

●Owner's Story 「心に残る痛みこそが、物語を紡ぐ」。容赦なく心をえぐる忘れ難き美女
A氏/Text:Akira YOKOTA

 マンガ家のA氏は自らのことを「ヘンタイ」と称する。スーパーカー世代のど真ん中だけに、ランボルギーニにフェラーリ、ロータスなどなど、当時憧れたクルマはひと通り乗った。ディアブロだけでも3台を乗り継いだし、フォードGT40などの名車はレストアまでしている。「新しいモデルも古いモデルも数えきれないほど乗ったけれど、苦労させられたクルマほど印象に残るし、かわいいんです」というのがヘンタイたるゆえんだ。

「古いクルマを3台も4台も持っていると、いつもどれかが工場に入っていたり、中には乗っているより修理している時間のほうが長いクルマも多い。でも、『何やってるんだろう』と自分でも思いながら、そういうクルマが好きなんです」

 グループ4レーシングカーとして開発され、たった6台しか販売されなかったといわれるデ・トマソ・パンテーラGT4も、数ある車歴の中で思い切り苦労させられた1台。ろくに走らせられなかったし、たまに走ればリッター2kmの極悪燃費という手のかかる子だ。

「止まった、燃えた、借金背負ったと、古いスーパーカーは情け容赦なく乗り手の心を傷つけるクルマです。でも、私はそうして傷つけられた心を持ってこそ、表現者でいられるのかもしれません」という言葉には含蓄がある。

「普通のクルマって、安全で快適で経済的で無難な、結果として心に焼きつかないのがいいクルマなんだと思うんです。でも、スーパーカーはそうじゃないからこそ、心に残る。痛い思いもふくめて、心の中に風景として刻み込まれた経験こそ、人に伝え、語ることができるんじゃないかな」。

 話を聞いていて、気づいた。手のかかるクルマとの関係は、恋愛と同じこと。燃えるような、けれど大きな傷を負う恋愛ほど、人の心を動かすストーリーになり得る。彼は思い切り愛して、傷ついたその経験を作品の奥底に忍び込ませることで、読み手の心を動かしているに違いない。プロである。