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Red Velvetに見る、新しいガーリーポップの形 女の子の刹那を表現した音楽性に迫る

2017年09月12日 17:33  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Red Velvetが日本版オフィシャルサイトを開設。さらに11月6日に日本初となるファーストショーケースを開催することが、先日の『a-nation 2017』で発表された。


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 韓国でのデビューから3年。少女時代、EXOといったモンスターグループを擁するSMエンターテインメントが、満を持して世に送り出した5人組ガールズグループ・Red Velvet。楽曲をリリースするたびに世界中のポップス好きを驚愕させ続けてきた彼女達が、日本においても遂にそのベールを脱ぐ。


 Red Velvetは2014年8月、SMエンターテインメント内の研修生グループであるSM Rookiesに所属していたアイリン、ウェンディ、スルギ、ジョイの4人組として2014年8月に「Happiness」でデビューし、その年の韓国音楽賞新人賞を総ナメ。2015年3月に最年少となるイェリが加わり5人組となり、同時に発売された「Ice Cream Cake」では、音楽情報番組でのチャート1位を初めて獲得した。


 さらにミッシー・エリオットの『Supa Dupa Fly』ばりの変速ビートを見せたシングル「Dumb Dumb」で国内のあらゆるチャートで1位を独占。さらに、1stアルバム『The Red』がビルボードワールドアルバムチャートでNo.1を獲得した。以降、発売される全てのアルバムがビルボードにおいて1位となり、韓国のガールズポップグループとしての連続1位記録を更新し続けている。


 グループ名となるRed Velvetは、鮮烈な色彩である“レッド”とフェミニンでしなやかなイメージを持つ“ベルベット”をミックスした表現を行っていく、という意味を持つ。グループ名の通りアッパーでトリッキーな楽曲と、洗練されたシルキーな楽曲がパラレルにリリースされている。


 ドラマ出演、ソロシングルのリリース、バラエティー番組への進出など、各メンバーがそのタレント性を活かして行っている様々な活動も魅力的だ。しかし、Red Velvetが他のK-POPグループの追随を許さない個性は、斬新でガーリーな世界観に裏打ちされた、プログレポップとでも呼ぶべき各楽曲のポップミュージックとしての強度にある。


 それがRed Velvetのスタイルとして確立されたのは、5人の完全体となってリリースしたシングル「Ice Cream Cake」だろう。この曲で彼女達は「Happiness」や、S.E.Sの楽曲をカバーした配信限定シングル「Be Natural」で見せたアーティスティックなガールズグループというイメージから大きく逸脱し、現在まで続く『不思議の国のアリス』にも似たプログレッシブなガーリーポップの構築へと舵を切る。


 この曲以降、ガーリーアイコンのテーマパークのようなMVと共に、それまでのウェルメイドな高品質サウンドから一変、最新のHIPHOPを模した、極限までコンプレッションされた暴力的なトラックにのせて「女の子であること」の自由を高らかに歌うアンセムが彼女たちののシグニチャーとなった。


 そしていち早く掲げたガーリー宣言の旗のもと、いまだにRed Velvetのテーマソングと目されるポップミュージック史に残るフックソング「Dumb Dumb」がリリースされる(実際この曲はビルボードが発表した100 Greatest Girl Group Songs Of All Timeの1曲に選出されている)。


 「Dumb Dumb」が国内のみならず、世界中にRed Velvetという存在を知らしめたのは、名作『赤い靴』的なダンスとファンタジーが融合したポップミュージックを通して、女の子が夢見る恋の奇跡を明確に表現し、多くのリスナーの共感を得てきたからだろう。


 そしてRed Velvetがガーリー的な世界観を極限まで表現したのが、2016年3月にリリースされた「One Of These Nights」。この曲は本国でもその特異な世界観が賛否両論を巻き起こした。1920年代のトーチソングと、Björkが『Vespertine』で鳴らした女の子ためのグリッチエレクトロを混ぜ合わせたようなベルベットミュージックである。


 ここまでで“レッド”と“ベルベット”、2つのコンセプトを表現しきってしまったはずなのに、彼女達は次曲「Russian Roulette」で再びカムバックを遂げる。それは女の子が昨日までお気に入りだった服を脱ぎ捨てて新しいファッションを身にまとうような、セクシーでキュートな選択だった。


 2016年にリリースされた「Russian Roulette」は、フューチャーベース的にストップスタートするトラックに、1980年代のエレクトロポップのメロディを乗せた歪なミクスチャーサウンド。今までのレッドとベルベットの境界を自ら破壊して、“レッドベルベット”という全く新しい色を生み出そうとしたのだ。


 それはまるで一貫して女の子のためだけの映画を撮り続けるソフィア・コッポラの傑作『ヴァージン・スーサイズ』で美しく崩壊した終末を予感した姉妹達のように、またガーリー映画の最高傑作の一本と目されている1975年の『ピクニックatハンギング・ロック』で理由もなく森の中へと失踪してしまう美少女達のように、Red Velvetも女の子という存在が持つ刹那的な部分を音楽で表現している。「Russian Roulette」は、甘くて危険なアバンチュールを音楽の中に求めるSNS世代の女の子と男の子のハートを打ち抜いて、大ヒットを記録した。


 「Russian Roulette」以降、新たなモードを手に入れたRed Velvetは「Rookie」で1970年代のネオソウルを、最も新しい新曲「Red flavor」で1960年代のボ・ディドリービートを採用。サウンドテクスチャーの幅を大幅に広げることで、どんな時代の音の中にも女の子のためのポップミュージックが鳴り響いていることを証明し続けているのである。


 Red Velvetが11月に開催する日本初のショーケースは、そんな可愛くて美しくて残酷でおかしな“女の子の本当の秘密”が僕らに明かされる、歴史的瞬間になるに違いない。(ターボ向後)