ピエール・ガスリー(TEAM MUGEN) オートポリスで開催されたスーパーフォーミュラ第5戦、ピエール・ガスリー(TEAM MUGEN)は5番グリッド発進から前戦もてぎに続く2連勝を飾った。前戦とは違うかたちで、しかしまたもや好機での勝負強さと高い潜在能力を印象づける内容での勝利だった。
今回ガスリーは、トップ10グリッド中で唯一となるソフトタイヤでのスタートを土壇場で選択、そして勝った。
前戦もてぎでもガスリーは、4番グリッドからのスタートで予選トップ3とは異なるミディアムタイヤを選択、そして勝っている。ただ、あの時はグリッドに着く前から「僕はミディアムでのスタートがいい」との戦略的な確信に基づいて決めうちした結果として、たまたま自分より前のグリッドのマシンとは逆の選択になったわけだが、今回の“逆選択”の背景はそれと違った。
「もともとは今回もミディアムでスタートしようと考えていた。でも、グリッドに着いたら上位はみんなミディアムでスタートするようだったので、僕は逆をいってみようと思ったんだ」
「コース上での逆転は難しい。同じ戦略になると結局、隊列のなかでつながって走ることになってしまうだろう。それに後方グリッドのマシンにはソフト選択のマシンが多いようだったから、ピットアウト後のトラフィックの具合とかを考えてもソフトでのスタートがいいんじゃないかと思ったんだ」
予選から、マシンパフォーマンスで他を圧倒できるほどの仕上がりは実感できていなかったガスリー。決勝に向けてもその状況は大きくは変わらなかったのだろう。簡単に抜けるコースでもないのだから、前のドライバーたちと同じことをしていても勝つのは難しい。だったら、思い切ったことをしてみようというところで、前回と同じ逆のタイヤ選択でも、前回が理性の判断によるものなら、今回は野性の判断によるものともいえた。状況、状況における見事な嗅覚ともいえるだろう。
ただ、野性の判断とはいえ、単なる逆転の発想ではない。あたりまえの話ではあるが、チームともどもトラフィック等を睨んだ綿密な作戦展望をもっての“スタートタイヤ土壇場変更策”でもあったのだ。そしてスタートではソフトのダッシュ力の良さも武器に、ポール発進だった野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に次ぐ2番手へと浮上。こういった流れを生む勝負強さが、前回とはまた違うかたちで、しかし同じように光ったのである。
「トップの野尻選手の後ろを走ることになったけど、彼を抜くのは難しかった。接近すると、特にセクター3ではダウンフォースを失ったりもするからね。ただ、ピットストップの時には彼を逆転できるんじゃないかなと思えた」
ガスリーが23周目、野尻は38周目と時期が離れたピットストップ攻防だったが、野尻のピットイン時点ではガスリーが前に出るのは確実な流れに。そしてレース終盤、首位に立ったガスリーは、4周目にピットインしてソフトで走り続けてきたフェリックス・ローゼンクビスト(SUNOCO TEAM LEMANS)を振り切って2連勝のチェッカーを受ける。
「素晴らしいね。スーパーフォーミュラではまだ5回目のレースウイークだけど、こうして2連勝できたんだから。チームには感謝しているし、チームと一緒に努力してきた成果が出ていることがすごく嬉しい。ともに成長できている実感もあるし、もっと向上していきたいとも思っている」
未知要素の多かったドライタイヤ2スペック制レースの2大会でガスリーが連勝、ローゼンクビストも連続表彰台と、海外出身の強力ルーキー勢が続けて好成績をおさめた事実は何か象徴的でもあるが、ガスリーはポイントランクで2番手に浮上し、首位の石浦宏明(P.MU/CERUMO・INGING)に5.5点差と迫った。昨年のGP2(現F2)に続く連覇の可能性も見えてきたあたり、理性と野性が共存する21歳の気鋭の潜在能力には恐れ入る。
ストーブリーグの話題も賑やかになってきた昨今、優勝会見では「マレーシアGPからトロロッソ入りか」との噂に対する質問が出て、「そうなったらいいね」との旨を答えたガスリー。
来季“トロロッソ・ホンダ”誕生との話も出ているなか、会見とは別のタイミングでそれについて聞いてみた。もちろんF1レッドブル陣営のドライバー人事において『ガスリーが今季ホンダエンジンでスーパーフォーミュラを走っている』ことが直接的な影響力をもつとは考えにくいが、それはそれとして、ガスリーはこう答えた。
「僕の今の目標とゴールは(近い将来の)F1昇格にある。実現できれば素晴らしいと思うし、チャンスは探り続けているよ。そして今年、僕はホンダと一緒にスーパーフォーミュラで仕事をしている。もし、それが(来季のF1で)キープされるのであればナイスなことだと思う」
トロロッソ・ホンダ誕生でガスリーが乗るとなれば日本のファンとしては大いに注目度も高まるところだが、さて、その前に今季終盤からトロロッソ・ルノーにガスリー加入となると、ひとつ問題が生じる。アメリカGPとスーパーフォーミュラ最終戦鈴鹿の日程が重複しているのだ。前述したように、ガスリーにはスーパーフォーミュラ王座獲得の可能性も充分にある状況なのに、である。
優勝会見後、チーム無限の手塚長孝監督にこの件を雑談レベルの話として聞くと、「ピエールが今年からF1、というのは初めて聞きました。ホントなんですか? 困るじゃないですか(笑)」。万一、ガスリーが最終戦鈴鹿に出られない状況になった場合には、チーム無限から先日の鈴鹿1000kmに出場したジェンソン・バトンに乗ってもらいますか? と無茶振りすると、「それはすごいアイデアですね。全然出てきませんでした」と手塚監督。
ただ、鈴鹿での代役問題はさておき、手塚監督はガスリーのF1昇格をもちろん応援しつつも、「ピエールには次のSUGOでも石浦くんの前でゴールしてもらって、鈴鹿でチャンピオン争いをしたいですね。本当にSUGOが大事になってくると思うので」というのが、当然の本音である。大事なSUGOもいい成績で終えて、そのあと最終戦鈴鹿で王座争いを、ファンとしてもやはりそうあってほしいところ……?
いずれにしてもガスリーのスーパーフォーミュラ2連勝は様々な意味でエポックメーキングだった。予選4位と5位から2連勝するあたり、「予選がすべて」「持ち込みセットの出来次第」という今のスーパーフォーミュラのレースフィールドの雰囲気にも一石を投じるものであったといえそうだ。そろそろ各方面で正式な発表がありそうなストーブリーグ戦線におけるガスリーの“活躍”はもちろんだが、今季残り2戦となったスーパーフォーミュラでの彼のさらなる躍進にも目が離せない。