最高峰クラスのLMP1全車にトラブルやアクシデントが発生する波乱ずくめの展開となった第85回ル・マン24時間耐久レースから2カ月半、WEC世界耐久選手権は2017年シーズン後半戦に突入した。静岡県・富士スピードウェイでは今年もシリーズ第7戦富士6時間レースが10月13~15日に開催されるが、そもそもWECとはどのようなシリーズなのか、WEC富士の前におさらいしておこう。
1953~1992年の約40年間にわたって行われたSWCスポーツカー世界選手権を前身に持つ現在のWECは、2012年に発足。FIA国際自動車連盟とル・マン24時間をプロモートするACOフランス西部自動車クラブによって運営されている。
世界三大レースのひとつに数えられるル・マン24時間をシリーズのハイライトに据え、ヨーロッパ、北・中米、アジアの各地域を転戦するWECは、F1やWRC世界ラリー選手権、WTCC世界ツーリングカー選手権などと並び、FIAが統括する世界選手権のタイトルが掛けられているカテゴリーのひとつ。
サーキット最速を争うのがF1、公道最速を競うのがWRC、ツーリングカーの最速を決めるのがWTCCであるとすれば、WECは6時間~24時間の耐久力と速さを争うシリーズだ。
いずれのカテゴリーでも自動車メーカーが自社ブランドのイメージや技術力の向上、アピールなどを目的にワークス体制またはエンジンサプライヤー、あるいはカスタマー支援という形で参戦して覇を競っているが、同じサーキットレースでもドライバーが主体となりやすいF1と比べると、WECは1チーム2~3人のドライバーが所属することもあり、メーカー対メーカーの争いの構図になる。
シャシーとエンジンをコンストラクターから購入できるLMP2とは対照的に、ほぼすべてのコンポーネントを自社で開発するLMP1では近年、トヨタと今季限りでのLMP1撤退を発表したポルシェ、2016年限りで撤退したアウディとともにハイブリッド・パワートレーンを中心とする熾烈な技術競争が展開。
各メーカーとも耐久レースを“走る実験室”として位置づけ、将来の市販車開発に役立たせることを目的としながら技術開発を進めている。その結果、2015年には各ラウンドのラップタイムが前年比3~5秒も短縮されるなど、開発スピードの早さを垣間見ることができる。
自動車メーカーが力を入れるのはLMP1だけではない。GTマシンで争われるLM-GTEプロクラスではフェラーリ、ポルシェ、フォード、そして、アストンマーチンがワークスチームを派遣している。2018年からは、これらのラインアップに新型GTEマシン『M8 GTE』を開発中のBMWが加わる予定だ。
一方、WECは自動車メーカー以外のコンストラクターやカスタマーチーム、ジェントルマンドライバーの存在も尊重。プロフェッショナルではないチームや選手が対等に戦うことができるLMP2クラス、LM-GTEアマクラスというノンプロクラスを設け、非ワークスチーム、アマチュアドライバーへの門戸を開いている。
前述の4クラスが同時にレースを行うこともWECの特徴のひとつだ。マシンの速度差、ドライバーの力量差によって起きるアクシデントなどがレース結果を大きく左右することも珍しくなく、それも耐久レースの醍醐味とも言えるだろう。