相対的貧困は、可処分所得の額が全世帯の中央値の半分(貧困線)を下回る場合に該当すると言われている。こうした世帯で育つ子どもたちの貧困が問題視され、国は今年1月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を策定するなど、対策の強化が進められている。
こうした中、川崎市は市内の子どもの貧困実態を把握するために「子ども・若者生活実態調査」を今年1月~3月に実施し、8月に報告書を発表した。報告書では、子どもの貧困の背景には世帯の経済的困窮だけでなく、親の金銭管理能力や家事能力の乏しさなど、複数の要因が絡んでいると指摘している。
入館料のかからない図書館も、所得の低い世帯ほど利用頻度が低くなる傾向
調査は0歳から23歳までの子ども・若者を持つ世帯の保護者を対象に実施。可処分所得が国の貧困線の基準である245万円(4人世帯)に届かない世帯は、子ども・若者を持つ世帯の6.9%、ひとり親世帯の42.9%に及んだ。
こうした世帯のうち、過去1年で公共料金の未払いがあったのは20.2%、必要な食料を買えなかった経験があったのは18.5%と、どちらも他世帯より10ポイント以上高い結果になった。
生活習慣について訊ねた項目では、相対的貧困の家庭は、他の世帯より入浴の頻度が低かった。夕食を摂る時間を22時以降と回答した割合は、他が1%~2%台の中、貧困世帯では5.6%と、大きな差が見られる。
未治療の虫歯が1本以上ある割合も、貧困世帯ほど増加する。川崎市では、0歳から中学生までは、受診回数の制限なく低額で医療を受けられる制度が整っているが、それでも可処分所得額と健康状態が比例しているようだ。川崎市の担当者はこの現状に対し、
「(相対的貧困に陥っている家庭は)基本的な生活習慣が身に付いていないため、一度治療をしてもしょっちゅう虫歯になる。最初は治療しても、親も子供も面倒になり、そのうち行かなくなってしまうのではないか」
との見方を示していた。
博物館や科学館、美術館や劇場などは、入館や観劇にお金がかかることも多いため、所得の低い世帯ほど行く頻度が低くなるのはある程度予想が付く。しかし、利用にお金のかからない図書館でも、所得の低い世帯ほど利用頻度が低くなる傾向にあった。経済的な格差は、基本的な生活習慣の形成や、学校外での知的体験の格差にもつながっているようだ。
「片づけができず、家の中が足の踏み場がないくらい散らかっている」
調査では、前述のアンケート調査に加え、子どもの貧困を支援する行政機関の職員等のヒアリングを行った。これによると、経済面以外で問題を抱える保護者が複数見られたという。
例えば、「お金がないと子どものお年玉を使うことがある。お金の使い方の優先順位がおかしい」など、適切な金銭管理が出来ないケースや「片づけができず、家の中が足の踏み場がないくらい散らかっている」など、家事ができないケースもあった。これらは背景に、障害や疾病、精神疾患などがあると指摘されている。
また、自身の家庭の状況に課題があると考えていない保護者や、SOSの出し方が分からない保護者も複数見られたという。報告書ではこうしたケースを踏まえ、「保護者が支援の必要はないと考えている場合には、子どもに必要な支援が届かない要因の一つとなっている」と問題を指摘した。
市の担当者はこうした現状を受け、
「行政は申請主義なところがある。これからは、こちらから課題を見つけに行くアウトリーチ活動をしていく必要があり、今後具体的な対策内容を検討していく」
との姿勢を明らかにした。