トップへ

「乗るべしスーパーカー」発売記念連載05『フェラーリ・アイディングパワー F460GT』

2017年09月12日 10:42  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

写真
9月5日に発売となった「乗るべしスーパーカー」の発刊を記念して、この本の主役である気鋭のフォトグラファー・悠佑氏が切り取った珠玉の写真たちと、オーナーとスーパーカーのライフストーリーをご紹介。第5回は「フェラーリ・アイディングパワー F460GT」だ。

●Car Details Ferrari IDINGPOWER F460GT
Text:Fumiaki HARA

 2008年にデリバリーが開始されたFerrari F460GT においても、IDING POWERの妥協知らずのチューニング哲学は健在だ。V8エンジンはヘッドから腰下まですべてのユニットを一度バラし、その後エンジニアの手により専用部品が組みこまれるコンプリート仕様。アクセルレスポンスの向上に加え、最高出力もベース車両のF430に比べ、25PS増しの515PSまで高められる。

さらに独自の空力理論から導かれたエアロボディキットや鍛造マグネシウム製の19インチホイールなど、各所にもこだわりのアイテムが目白押しだ。価格は2008年当時の資料によると、チューニング費用だけでも1620万円。コンプリートカーの参考車両価格は3948万9000円(MT)、4087万5000円(F1)と記されている。

●Owner's Story 頭のネジが取れるほど没頭できる、ドライビングの圧倒的な気持ちよさ
Text:Shinnosuke OHTA

 最初の転職は39歳。その後はマンハッタンを拠点にバリバリと仕事を続け、独立して日本に戻り、起業したのは14年前。アメリカ時代もリース契約のリンカーンを足代わりにしていたが、もともとクルマに興味はなかった。そんなA氏の人生をまったく別の方向に導いたのは、1台のハッチバックだった。

「日本でクルマを買うってなったのは40代過ぎてから。最初はAT3速のVWゴルフを買ったけど、すぐにMTのGTiに乗り換えた。これが面白くて。チューンしたらさらに良くなって、ある法則性ができてしまった……」

 その後、ドイツで買ったE36のM3に乗り換えると、すぐにチューニングの虫が騒ぎ、「アイディングに持って行ってステージ1を入れた。そしたらこれが目の覚めるようなクルマになってた。そこからアイディング蟻地獄です(笑)」

 横浜に拠を構えるアイディング・パワーの手になったA氏のM3は、その後順調にステージ2、ステージ3のメニューを経て、井手新勝代表曰く、「Aさんのために特別ステージを」との領域に達し3.5、3.7と進化。「四捨五入してくださいよ(笑)」とごちるオーナーの手元で、今も現役のチューンドとしてステージ4へと進化を遂げている。

 走るための鍛錬を続けた愛車に導かれるように、40台後半からサーキットへと足を踏み入れたA氏は「絶対ハマるからおいでよ」と、仲間に誘われるまま50代後半になってシングルシーターのFJにも乗るようになっていく。



「世の中にこんな面白いものがあるのか、と。本当に思い通りにならない。アクセル踏んだら回るし、そのうち腕はパンパンになってくるし、1日で富士のショートを120周したこともある。翌日、体がコチコチになって会社は休み(笑)」

 そんな最中、アイディング・パワーが2006年から3年間にわたり、井手社長肝いりのプロジェクトとして開発した、とある車両に巡り合う。

「それがフェラーリのF430で、社長が夢として作ってた。3000万で新車を購入して5000万円くらいかけて作ったから、もう430じゃなくなってる。で、みんなにプレゼンしても『MTだからとか、じゃじゃ馬みたいなクルマだから動かせないんじゃないか』とか、二の足を踏んじゃう。で、僕がたまたま動かしてみたら『これは一体、何なんだ。こいつを買わなきゃ人生の大損』、と思って買いました」

 ベース車となるF430を「雰囲気はいいけどね」と評していた人物に対し、頭のネジが取れてしまうほどの衝撃を与え“ドライビング・ジャンキー”にしてしまうほどの魅力を、このアイディング・パワーF460GTは備えていた。 

「アイディングの良さって言葉だけじゃ説明できない。とにかく全部違う。箱根の下りでこれほどワクワクして走れるクルマはない。ブレーキ踏んで、そこから少し離して鼻先を上げて、そのままクリッピングへ向ける。そんでステアリングを戻しながら踏んでいくんだけど、この操作が6000回転から7000回転で自在にできる。そうするともう、頭がおかしくなるんだよ(笑)、まぁそれが何速かは言わない方がいいけどね」

 接地感はこれでもかとステアリングに伝わり、オーケストラみたいな排気音が山に木霊する。型から起こしたオリジナルのマグネシウムホイールは、復筒式ダンパーとも相まって、路面を捉えて離さない粘り腰のロードホールディングを見せる、そんな「最高の走る道具」に仕上がっていた。

「思い通り走らせられるし、腕がなくても気持ち良い。クルマがいいとそういうことになる。操作したことに対するレスポンスが絶妙、すごく分かりやすい」

 ドライビングの新しい世界への扉を開かせてくれたF460GT。今年還暦を迎えるオーナーは、さらにひりつく面白さを求めて3年前にスーパーFJを購入。今季からシリーズという高みを追いかける。