2017年09月12日 09:53 弁護士ドットコム
9月3日に婚約内定会見を行った、秋篠宮家の眞子さまと婚約者の小室圭さん。現在法律事務所で勤務しているという小室さんが書店で購入したというレシピ本に注目が集まっている。
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報道によると、小室さんは自宅近くの書店で「月たった2万円のふたりごはん」(幻冬舎)というレシピ本を購入したという。最初に週刊誌「FLASH」が居合わせた客の証言として報じ、その後書店の店長がスポニチの取材に「最初は小室さんが節約レシピの本を買われるのかと驚いたが、奥さまになられる眞子さまへの気遣いを感じます」などとコメントしている。
報道を受けてレシピ本には異例の増刷がかかったというが、ネット上では「誰が何の本を買ったかなんて公表していいのか」といった声も上がっている。小室さんは一般人だが、プライバシーの侵害に当たらないのだろうか。佃克彦弁護士に聞いた。
まず、プライバシー侵害とは、どういったことを指すのか。
「人が通常、公開を欲しない事がらを公にしてしまう行為は、プライバシー侵害となります」
どんな本を買ったか公開されてしまうことも、プライバシー侵害となるのか。
「読書の内容は、そこから人の個性や思想傾向が現われてしまうものです。そのため、『どのような本を買ったか』という事実は、『人が通常公開を欲するものではなくプライバシーを構成する』といえる可能性はあります。
しかし、『どのような本を買ったか』という情報を明かすことがおしなべてプライバシー侵害になるかというと、そうとは限りません。その情報を明かすことがプライバシー侵害として違法になるかどうかはケースバイケースであり、具体的には、その本がどのような本か、その人がどのような人であるかによって結論が変わると思います」
今回の小室さんのケースは、プライバシー侵害にあたるのか。
「冒頭では、『どのような本を買ったか』という事実がプライバシーを構成する可能性があると言いましたが、今回の小室さんの場合、『月たった2万円のふたりごはん』という本を買ったという事実がプライバシーを構成するかどうかは甚だ微妙です。
この本はそのタイトルからしておそらく、月2万円で作れる2人前の食事のレシピが載っているのでしょうが、そのような料理のレシピ本を買ったという事実が、人が通常公開を欲しないものであるとは必ずしもいえないのではないかとも思われるからです。
もっとも、『月たった2万円の』というところがしみったれた印象を与えるとして、『この本を買ったことは公開されたくないでしょ!』という考え方もあるかもしれません」
今回のレシピ本を買ったことが、人が通常公開を欲しない事がらかどうかは微妙なところだ、と言うことか。
「はい。微妙ではありますが、プライバシーを構成するという前提に立って次の検討に移ります。この本を買ったという事実を公開することがプライバシーを構成するとしても、その公開がプライバシー侵害として違法になるかについては、更なる検討を要します。
ある事実を公表することがプライバシー侵害として違法になるかどうかについて最高裁は、その事実を『公表されない法的利益』とそれを『公表する理由』とを比較衡量して、公表されない法的利益のほうが優越する場合に限って違法になるとしています」
『公表されない法的利益』とそれを『公表する理由』を比べた場合、今回の小室さんのケースはどうなるのか。
「今回の場合、『月たった2万円のふたりごはん』という本を買ったという事実は、前述のとおり、そもそもプライバシーを構成するかどうかすら微妙なところであり、『公表されない法的利益』はもともと大きいとはいえません。
また小室さんは、自ら婚約を発表した人ですから、『今度結婚します』という事実を世間に広められることを自身で容認していることになります。そういう人が買ったのが『ふたりごはん』のレシピ本だという事実は、『結婚』という自ら公表した事実と内容において関連性が高いものであるとして、やはり『公表されない法的利益』が大きいとはいえないということになると思われます。
では『公表する理由』はどうかというと、結婚を公表した人が『ふたりごはん』のレシピ本を買ったという事実は、読者がほんわかする話題であり、慶事の続報として公表する理由はそれなりに認められるでしょう。
かれこれ総合すると、本件の場合、『公表されない利益』が『公表する理由』を上回っているとはいえず、違法なプライバシー侵害にはならない、ということになるのではないでしょうか」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
佃 克彦(つくだ・かつひこ)弁護士
1964年東京生まれ 早稲田大学法学部卒業。1993年弁護士登録(東京弁護士会)
著書に「名誉毀損の法律実務〔第2版〕」、「プライバシー権・肖像権の法律実務〔第2版〕」。日本弁護士連合会人権擁護委員会副委員長、東京弁護士会綱紀委員会委員長、最高裁判所司法研修所教官を歴任
事務所名:恵古・佃法律事務所