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My Hair is Bad、銀杏BOYZ、忘れらんねえよ…今、ロックバンドは何を歌おうとしている?

2017年09月10日 12:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今回のキュレーション原稿は、いつのまにか“邦ロック”と呼ばれるようになった日本のロックバンドのシーンから新作をセレクト。僕が特に気になっているのは歌詞の言葉だ。今、ミュージシャンたちは何をどういう風に歌おうとしているのか。


参考:片平里菜、対バン企画でMy Hair is Badと初共演 同世代の2組がラブソングにこめる思い


■My Hair is Bad『運命 / 幻』


 昨年のメジャーデビューから一躍ブレイクを果たしたMy Hair is Bad。彼らの楽曲はその多くが恋愛をモチーフにしたもので、それも赤裸々な心情をドキュメントのように綴ったものが主軸になっている。バンドの魅力が語られる時にも、まず歌詞の生々しさ、そこに描かれるエモーションの切実さが取り沙汰されることが多い。


 そういう彼らの成功は、今の日本の音楽シーンにおいてギターロックバンドに求められる言葉のあり方の一つの象徴になっているように思う。


 バンドが11月にリリースするニューアルバムからの先行シングルがこの『運命 / 幻』で、両A面としてリリースされたこのシングルはコンセプチュアルな仕掛けを持った一枚。「運命」と「幻」の2曲は、それぞれ男性視点、女性視点で一つの恋の終わりを描いている。かつてあった胸の高鳴りは去ってしまった。一方は二人の関係が終わってしまうことを心のどこかで悟っている。もう一方は未練を抱えている。その対照的な思いに、指輪というアイテムを歌詞に登場させることで光を当てている。


 <最後の最後で本当はね 聞きたかったよ (中略) どうして指輪、外してなかったの?>(「運命」)。<指輪に気付いてくれなかったね そして 目を瞑るだけ>(「幻」)。


 楽曲を手がける椎木知仁(Gt/Vo)の、ストーリーテラーとしての才覚が覚醒してきている感じがする。


■銀杏BOYZ『エンジェルベイビー』『骨』『恋は永遠』


 10月13日に初の武道館公演を控え、3カ月連続のシングルリリースを発表している銀杏BOYZ。“恋とロックの三部作”と銘打ち、7月に『エンジェルベイビー』、8月に『骨』が発売され、そして9月27日に『恋は永遠』がリリースされる。


 『ひよっこ』(NHK総合)出演でいまや朝ドラ俳優として日本中に顔を知られるようになった峯田和伸。そのことも影響しているのだろうか、もしくは昨年にリリースしたシングル『生きたい』で一つのことをやりきった実感があったのだろうか、届いた三部作はキャリアのターニングポイントになるような作品。「骨」は安藤裕子に提供した楽曲のセルフカバーだが、新たに書き下ろされた「エンジェルベイビー」も「恋は永遠」も、一聴した印象はとてもポップ。ストレートなバンドサウンドで、端正なメロディで、熱に浮かされるような思いを歌う。


<ロックンロールは世界を変えて 涙を抱きしめて あの子のちっちゃな手を繋がせて>(「エンジェルベイビー」)、<あなたって、ロックね。>(「骨」)というフレーズのように、それぞれの曲の歌詞には「ロックンロール」や「ロック」という単語が出てくる。


 一蓮托生の関係としてバンドに没入した時期、自分の内側をひたすら掘り下げる期間を経て、今の峯田和伸は、ロックという音楽、バンドというスタイルをある種外側で対象化したような感じがする。


■GLIM SPANKY『BIZARRE CARNIVAL』


 松尾レミ(Vo&Gt)と亀本寛貴(Gt)からなるユニット、GLIM SPANKYは3作目となるニューアルバム『BIZARRE CARNIVAL』を9月13日にリリース。もともと我が道を行くタイプの音楽性だったが、新作はよりその確信が高まっている感じがする。もともとブルースやルーツロックを基盤にしていたが、中期ビートルズを思わせる「BIZARRE CARNIVAL」やモダンサイケな「The Trip」を筆頭に、音作りも含めて本格派の道に足を踏み入れている感がある。


 歌詞も、<とても些細な数分でも目を閉じて 旅に出りゃいい それは車もスーツケースも いらないさ 感じるだけ>と歌う「The Trip」を筆頭に、聴き手を異世界に誘うような描写が続く。ヒッピーやビートニクの精神がそのバックボーンになっている。


 そして<何処に居ようが自分で歩き出せ>と歌うラストの「アイスタンドアローン」のように、松尾レミの言葉は聴き手を奮い立たせるような熱を帯びているものが多い。ロックシーンにおいては“弱さ”をさらけ出す男性ソングライターが多い一方で、女性ソングライターの表現に“強さ”がにじみ出ることが多い、と言ったら乱暴だろうか。


■忘れらんねえよ『僕にできることはないかな』


 前作『犬にしてくれ』からフルアルバムとしては2年ぶり、レーベル移籍を経た忘れらんねえよの新作。バンドのキャリアはそれなりに長い。ドラマーが脱退したり、いろんな紆余曲折もあった。苦節と言える時期も長かったと思う。が、そういうバンドが今年4月に過去最大規模の日比谷野外大音楽堂ワンマンをソールドアウトさせるなど、じわじわと支持を広げているという事実も見逃せないと思う。


 忘れらんねえよの多くの曲において歌詞のモチーフになってきたのは“負けている”という状況そのもので、そこで柴田隆浩(Vo/Gt)が歌に込める“切実さ”と“愚直さ”がバンドの最大の魅力になっていた。売れてる後輩バンドに嫉妬したり、結婚する“君”の家で飼われる犬になりたいと歌ったり、思いっきり卑屈なマインドと、根底では不屈のエモーションが、菅田将暉ら各方面のファンを惹きつけてきたと言える。


 新作も、シングルとしてリリースされた「いいひとどまり」のように、負けた側、持っていない側の思いを綴った曲が並ぶ。リード曲は<遠くで花火の音が聴こえた時に 胸が苦しくって きらめく夏の夜の物語から 僕だけ取り残された気持ちになったんだ>と歌う「花火」。やはり上手くいかない恋が曲のモチーフになっている。


 ただ、僕個人としてはアルバムの中で抜群の曲は「東京」だと思ってる。ストリングスを配したパワーバラードで、<まだ勝つためか 生きていく意味 それだと辛い人生になる それでも僕の狂った頭は 誰かに勝ちたい それを繰り返す>と歌う。フィードバックギターのノイズが空間を塗りつぶす。柴田隆浩という人がこういう言葉を書ける人であるからこそ、バンドのキャラクターとしての“負け犬”としてのあり方が戯画的なものにならないように思う。


■KANA-BOON『NAMiDA』


 1年7カ月ぶり、4作目となるアルバム。ブレイクから数年が経ち、もはや“若手”と呼ばれる立場は過ぎたタームにあるKANA-BOONだけに、次にどういう方向性を持った作品を作ってくるか興味深く思っていたが、彼らは変化よりも原点回帰を志した印象。サウンドや音楽性における新機軸の導入というよりも「何を歌うか」ということを軸にしている。その象徴が、アルバムのラストに収録された「それでも僕らは願っているよ」という曲だ。


<いまはわからないことばかりだけど それでも僕らは願っているよ いままでの日々が意味を持つことを>と歌うこの曲。谷口鮪(Vo/Gt)自身がブログにて明らかにしているのだが、今年初頭、飯田祐馬(Ba)が不倫騒動で世を騒がせていた時に書かれたものらしい。バンドの先行きすら不透明だった当時に、その時の思いを曲にしたためたのだという。


 <涙が出るよ 戻れないとわかっているけど それでも君を忘れないよ>と失恋をモチーフにした「涙」も含め、ある種の率直さやストレートさが歌詞のポイントになっている。


■The Cheserasera『dry blues』


 宍戸翼(Vo/Gt)率いるスリーピースによる、3枚目のフルアルバム。リリースに際して、公式ページに椎木知仁(My Hair is Bad)がこんなコメントを寄せている。(参考:The Cheserasera公式サイト)


「この手の邦ロックはすでに飽和していて、見た目にも味にももう飽きてしまいました。そんな砂漠にも、大した水やりで綺麗な花を咲かせる人がいて、僕は心底驚きました」


 なかなかシーン全体に対しての鋭い批評性を持った言葉だと感じたので思わず引用してしまったが、たしかに彼の言うことも一理ある。「この手の邦ロック」と彼が言うカテゴリ、つまり「90’sグランジやパワーポップやUKロック、00’sエモにルーツを持ちつつ“日本語のロック”として聴かれ受け継がれてきたギターロックバンド」というのは一つのスタイルとして固定化している側面がある。だからこそ音楽性やサウンド自体よりも「何を歌うか」というところに焦点が当たりがちなのだが、そういうフィールドにも「大した水やりで綺麗な花を咲かせる人」がいる、というのが彼の見方。それは僕も同意するところだ。


 アルバムのテーマは“愛”。そして冒頭に収録された「I Hate Love Song」では失恋がモチーフになっている。<不細工な身体とか 頭の先まで 残さず君に愛されたならば ふざけたラブソングが 胸を打つこともなかった なかっただろうな>と歌う。そこにあるのは後悔と韜晦で、そこに彼のソングライターとしての誠実さを感じる。(柴 那典)