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昇り調子のドビジオーゾ。苦労人の初王者獲得なるか?/ノブ青木の知って得するMotoGP

2017年09月08日 20:12  AUTOSPORT web

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後半戦から昇り調子のアンドレア・ドビジオーゾ/ドゥカティ・チーム
スズキで開発ライダーを務め、日本最大の二輪レースイベント、鈴鹿8時間耐久ロードレースにも参戦する青木宣篤が、世界最高峰のロードレースであるMotoGPをわかりやすくお届け。第5回は、後半戦から昇り調子のイタリアメーカー、ドゥカティと、苦労人アンドレア・ドビジオーゾについて語る。

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 なんと! 第12戦イギリスGPを終えて、ドゥカティのアンドレア・ドビジオーゾがランキングトップに立ってしまった。今季ここまで2連勝を2回、合計4勝を挙げているイタリア人のドビジオーゾ。今が、彼のレース人生でもっとも運に恵まれている時であることは間違いない。勝利の風が、ドビに向かって吹いている……。

 もともとドビは、非常に巧くて器用なライダーだ。アドバンテージのないマシンでもしっかりと乗りこなしてきたし、マシン開発能力も高い。どんなに不調な時でも、某元チャンピオンのように文句を言いっ放しでピットから出て行くようなこともなく、地道にマシン作りに勤しんできた。言わば、苦労人なのである。

 そして、ドビを中心的存在として作り込まれてきたドゥカティ・デスモセディチGP17が、だいぶ好調に仕上がってきたようだ。特に、今シーズンに入ってから仕様が変わったミシュランのフロントタイヤとの相性がいい。エンジンパワーはピカイチながら、「直線番長的キャラクターでコーナリング性能はもうひとつ」なドゥカティだったが、柔らかめになったと言われるミシュラン製フロントタイヤとのマッチングにより、全体的にバランスよくパフォーマンスが高まっている。

■斬新な技術を投入するドゥカティ
 もともとドゥカティは斬新な技術的トライをするメーカーで、ワタシはそういう姿勢が大好きだ。あまりに斬新すぎて失笑を買うことも少なくないが、「数撃ちゃ当たる!」と先鞭をつけていろんなことを仕掛けてくるのだ。MotoGPはせっかくレース専用のプロトタイプマシンで競うわけだから、いろいろチャレンジしてくれた方が面白い。

 ドゥカティという会社は本当にレースが好きだ。企業規模を考えたら「なんでこんなにレースの現場に人がいるのさ!? 量産車開発の方は大丈夫なの?」と余計な心配をしてしまうほど、レースに熱を上げている。量産車を生産しているのも、もしかしたらレースをするためなんじゃないかな……。

 昨シーズン、ウイングレットを大流行させたのもドゥカティだ。その狙いは、当コーナー第1回でもご紹介した通り、ダウンフォースを得ることでフロントタイヤへの不満感を減らし、エンジンパワーをロスしてしまう無駄なウイリーを抑制する、というもの。その効果はテキメンで、こぞって他チームもウイングを採用した。

 レギュレーションでウイングが禁止されると、今季の開幕前テストではシュモクザメ式新型カウルを登場させ、MotoGPファンや関係者のドギモを抜いた。そしてサマーブレイク後の第10戦チェコGPでは、さらに形を変えたニュータイプの空力カウルをお披露目している。こういう攻めの開発姿勢こそがモータースポーツの原点。MotoGPマシンの開発ライダーという身でありながら、いちMotoGPファンでもあるワタシとしては大歓迎だ!

 だが、見た目のハデさの割に、空力カウルの効果はウイングほど強力ではない。もちろんフロントの接地感向上に一役買っていることは間違いないが、少なくともドビをランキングトップの座に押し上げるほど劇的な効果があるわけじゃない。

 またドゥカティは、自社に有利にコトが運ぶよう参戦レースにおいて政治力を遺憾なく発揮する傾向が強い。今のMotoGPマシンで使用が義務付けられている共通ECUも、もともとドゥカティが使っていたもの。

 共通ECUが義務付けられた当初は、ドゥカティに若干のアドバンテージがあったのも確かだ。だが、それも微々たるものだったし、今や各チームともに共通ECUを使いこなし始めている。ドゥカティの政治力も、やっぱりランキングトップの要因とは言いにくい。

 つまりマシン面で言えば、空力カウルや共通ECUのアドバンテージはほとんどないようなもの、なのだ。やはりパッケージ全体としてのまとまりの良さが好成績を呼んでいるのだろう。そして、パッケージを作り込んだのはドビの地道な努力。それがようやく報われつつあるというワケだ。

■ドビジオーゾの真価が問われる後半戦
 それにしても、連勝するとはドビの頑張りも本当にスゴイ。ここ2、3年、シーズン序盤こそ勢いがあっても終盤になると尻つぼみになる、という展開ばかりだったが、今年は何か吹っ切れている感じがする。冒頭に「運」と言ったが、こればかりは自分ではどうすることもできないものだ。しかし、ドン底まで落ちた時もくさることなく頑張り続けてきたドビだからこそ、今、運の女神が微笑んでいるのだろう。

 このままドビが逃げ切れるかどうかは、残念ながら分からない。最初に思わず「なんと!」と言ってしまったように、「まさかドビが……」という思いが拭えないのだ。実力はあるし、苦労人でもあるし、個人的に好きなライダーでもあるので、ぜひともチャンピオンを獲得してほしいが、残り4戦ぐらいになってチャンピオンを具体的に意識し始めた時、とたんにプレッシャーがのしかかり難しさが急増するだろう。

 逆に、終盤になればなるほどチャンピオン経験者──現在ランキング2位のマルク・マルケス(ホンダ)が有利になってくる。

 ただ、ドビが4勝を挙げてめきめきと自信をつけているのも確か。むしろ、ホンダは第12戦イギリスGPでエンジンが壊れたり、ヤマハはバレンティーノ・ロッシが骨折したりと、まわりの方が不確定要素も多い。運と、自信と、デスモセディチGP17のトータルバランスの良さが果たしてどこまで通用するか、しかと見届けたいところだ。


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■青木宣篤

1971年生まれ。群馬県出身。全日本ロードレース選手権を経て、1993~2004年までロードレース世界選手権に参戦し活躍。現在は豊富な経験を生かしてスズキ・MotoGPマシンの開発ライダーを務めながら、日本最大の二輪レースイベント・鈴鹿8時間耐久で上位につけるなど、レーサーとしても「現役」。