2006年の十勝24時間に始まり、現在のル・マン/WEC参戦へと至るハイブリッド技術を用いたトヨタ自動車のレース活動。その開発を2005年当初より率いてきた村田久武・前TGR開発部部長が、この8月よりTMG社長およびトヨタLMP1チームの代表の座についた。この人事異動の“意味”について、WECメキシコ戦の場で村田氏本人に直撃した。
トヨタのル・マン/WECへの参戦(復帰)は2012年からだったが、LMP1プロジェクト自体は2009年頃から水面下で進行していた。その時から村田氏は、エンジン+ハイブリッドシステムという、パワートレイン全体の責任者として参画。いわば、日本側=東富士研究所の開発責任者という形であり、車体開発およびレースオペレーションを担当するドイツ側=TMGには別の責任者(当時は木下美明氏)がいた形だ。
その後、プログラムが進むにつれTMG社長は佐藤俊男氏に交代、会社の組織変更に伴う形で村田氏の役職名も変わっていったが、基本的に今年のル・マンまではこの“2局”体制が続いていた。
今回の体制変更でTMGが本拠を置くケルンに赴任する形となった村田氏は、「パワートレインを開発する東富士の開発統括もいままでどおりやりますが、チームの全体のマネージメントも自分がみることになります。車体開発、レースオペレーションを含めて、すべてが垣根なく自分の下に一体となる。そこが今回の体制変更の大きな狙いです」と説明する。
「いまは、クルマ(車体)とパワートレインがいかに一体となって働くかが大事で、そこを分けてしまうと、どうしてもコミュニケーションの質や密度に、ある一定の制限がかかっていたのは事実。その垣根をすべてつぶして、ひとつのチームとなって開発するということです」
今年のル・マンでは、ピットエンドにおけるクラッチを使用した再スタートを原因とするトラブルや、下位クラスとの接触などによって勝てるレースを失ったトヨタ。
「今年のル・マンの最大の反省は、レースオペレーション。最後にクルマを動かしているのはドライバーだし、ドライバーが使いやすいシステムやクルマじゃないとうまくいかない。また、レースエンジニアを含めたオペレーションをするスタッフも知識を深めないとレースは勝てない。そこを含めて出直しをするのが自分の大きな役割」と村田氏は言う。
今年のル・マン後には、プロジェクトに関わるすべての人々から忌憚なき意見を吸い上げ、隅々まで見直しを図ったという。「イチから(組織を)組み直し、出直すつもり。それが“本当に強いチーム”への、愚直だけど有効な方法だと思っています」。
チーム代表初陣となったメキシコのレースは、ニュルブルクリンクに続きマシン特性的に苦手とするコースということもあり結果が伴わなかったが、次戦オースティン以降は、過去のシリーズ戦をみても比較的トヨタが得意とするサーキットが続く。来年以降の参戦プランも気になるが、まずは富士を含めた今季後半戦で“村田新体制”がどのように機能するか、注目が集まる。
(今回の組織変更の背景および今年のル・マンの後日談など、より詳しい記事はauto sport 10月6日発売号にて掲載予定)