妻が怖くて家に帰れなくなってしまう「帰宅恐怖症」の夫が増えているといいます。仕事だと偽り会社に寝泊まりする、家に近づくと動悸や冷や汗がでるなど深刻な症状を訴える人も。
妻からすれば「夫は私の気持ちを理解してくれない」とイラ立ち、「夫は妻がなぜ怒っているのか分かない」ため、夫婦間の溝が深まってしまうというのです。
9月8日放送の「ビビット」(TBS)がこれを特集すると、ネット上でも話題になりました。夫側の主張に違和感を唱える人が多いようですが、どちらが悪いという問題なのでしょうか。(文:篠原みつき)
自分より収入の多い妻の一言に、どんどん委縮してしまい…
約3年間、帰宅恐怖症で苦しんだ30代のAさんは、こう語ります。
「僕なりに家事育児も少しはやっていたんです。3割はやってたと思うんですよ。でも、『あんたは1割もやってないわ』って言われて…どんどん委縮して家に帰りにくくなっていきました」
当時Aさんは、良い営業成績を出せず自分より収入の多い妻の言葉に重圧を感じていました。奥さんの「今日どうだった?」という何気ないひと言に、うまく行っていない自分を感じて辛くなります。家計を支えていたのは奥さんで、お金の話になると萎縮してしまう。引け目を感じて家事・育児に励んだものの、ほとんどやっていないと言われてショックを受けました。
妻の言葉が怖くなり、仕事で遅くなるとメールして「1週間に半分くらいは、なるべく(妻と)会話がないような形で過ごしていた」と語るAさん。その後、転職したことがきっかけで妻との会話が増え、関係は修復されたそうです。
帰宅恐怖症が増えた背景として、夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さんは、「女性が社会進出してきて働く主婦が多くなった」ことを挙げています。職場でのストレスと家事の負担が重なり、ストレスを夫にぶつけてしまうと、夫婦間がギクシャクしていきます。
家事を「手伝う」に批判 お互いが家事するのが当たり前なら言わない
番組では、多い例として「妻が一方的に家事に文句をつけ、夫は口論を避けるために妻のルールに従う、それでも怒られるうちに妻が怖くなる」という図式を紹介していました。妻側がヒステリックな印象でしたが、ツイッターでは、夫に対する批判が目立ちます。
「旦那さんが『家事や育児を手伝ってあげてる』っていうのは引っ掛かるなぁ。少なくとも共働きの場合、家事も育児も二人でやるべきことでしょ?」
筆者も主婦の立場として、共働きなのに「少しは」やっていたとは如何なものか、と反射的に感じました。しかも、妻の方はほとんどの場合、仕事を隠れ蓑に家事育児から逃げることはできません。
「男たるもの家族を養うもの」という考え方に強く囚われる
ですが一方で、夫側も「男はこうあるべき」という考え方に強く囚われ苦しんでいるのだと理解もできます。妻より収入が少ないことで委縮していくAさんは、その典型でしょう。帰宅恐怖症の原因はそれだけではないでしょうが、「男たるもの家族を養うもの」という考えは、男女共に未だに強固です。それができない人が多くなり、苦しんでいる男性も多いのです。
しかし、今は親世代のように「男が稼いで、女が家を守る」ができる時代ではありません。やりたくない人もいる。小島慶子さんと男性学で知られる田中俊之・大正大准教授の共著「不自由な男たち-その生きづらさは、どこから来るのか」(祥伝社)に、こんな言葉があります。こういう時代だから、
「男も女も互いのしんどさを理解しあう時期に来た」
というものです。お互いに批判し合うだけでは不毛なので、完全に分かり合えることはないとしても、理解しようとする努力は必要ではないでしょうか。