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労災休職中も「打ち切り補償」で解雇可能の最高裁判断、どんな意味があるの?

2017年09月08日 11:03  弁護士ドットコム

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労災で休職中の大学職員が解雇無効を争っていた裁判は、解雇を有効とした東京高裁での差し戻し審判決が確定した。7月27日付で、最高裁が男性の上告を棄却する決定を出した。


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訴えていたのは、専修大の職員。首や腕などに痛みが生じる頸肩腕症候群と診断され、2007年に労災認定を受けて、休職した。これに対し、専修大は2011年に打ち切り補償約1630万円を支払って男性を解雇した。


裁判の争点は、休業中の労働者について、3年たっても治らない場合は、会社が賃金1200日分の「打ち切り補償」を払えば、解雇できるという制度の適用の可否だ。


労働基準法上は、使用者(この場合は大学)が治療費を負担していることが条件となっており、労災給付中で使用者が治療費を払っていない場合でも適用できるかが争われていた。


労災でも打ち切り補償が可能であることは、どのような意味があるのだろうか。中村新弁護士に裁判を振り返ってもらった。


●「打ち切り補償」には労働者保護と企業保護、2つの側面がある

ーー打ち切り補償って何?


労働基準法19条1項本文は、労働者が業務上負傷したり、病気にかかったりした場合(労災の場合と理解していただいて結構です)、療養のため休業する期間及びその後30日間は解雇できないと規定しています。業務上発生した労災の場合に解雇を許すと労働者保護に欠けることになるため、このような解雇制限があるのです。


ただし、この解雇制限には例外があり、(1)使用者が労基法75条が定める療養補償を療養開始後3年を経過するまで行い、かつ、(2)労基法81条が定める打ち切り補償(平均賃金の1200日分)を行った場合には、労災による休業中でも解雇が可能です(労基法19条1項ただし書)。


これは、補償があまりにも長期化すると使用者側の負担が過大になるため、平均賃金の1200日分という高額の打ち切り補償を行い、労働者の利益保護を行った場合に限り、解雇を可能とするものです。


ーー今回の裁判では何が争われていた?


本件は、使用者が療養補償を行っていたのではなく、労災保険給付である療養補償給付及び休業補償給付が支給されている事案です。このような場合については法の規定がないため、使用者自ら労基法75条が規定する療養補償を行った場合と同じく、打ち切り補償を行うことにより解雇ができるか否かが争われました。


なお、労災保険法19条により、傷病等級1級から3級という重い傷病等級に該当し「傷病補償年金」が支給される労働者については打ち切り補償を支払ったものとみなされますが、本件の労働者はそのレベルにまでは達していませんでした。


●最高裁「災害補償が実質的になされているかどうかを重視」

ーー裁判所の判断理由はどんなものだったの?


本件の第一審と控訴審は、労災保険の療養補償給付を受ける労働者の場合には、補償の長期化による使用者の負担を考慮する必要がないことなどを理由として、本件に労基法19条1項ただし書の適用はなく、打ち切り補償を支払っても解雇はできない(本件解雇は無効)と判断しました。


これに対し、上告審は、(1)労災保険給付があれば、労基法上使用者の義務とされている災害補償が実質的に行われているといえること、(2)労働者は打ち切り補償の支給を受けて解雇される場合も、病気などが治るまでの間は必要な療養補償給付などを受けられるため、労働者の利益保護を欠くことになるともいいがたいことを主な理由として、労基法19条1項ただし書の適用を肯定しました。


そのうえで、その他の事情を勘案しても、なお解雇が有効であるかどうか(解雇権濫用法理の適用があるか)について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻しました。差戻審は、2016年9月12日に解雇有効の判決を言い渡し、この判決に対する労働者側の上告が2017年7月27日に斥けられたため、本件解雇は有効という結論が確定しました。


ーー判決はどう評価できる?


条文の適用関係が非常に複雑なので分かりづらい事案と思われますが、ポイントは、労基法19条1項ただし書の適用が否定されてしまうと、同項本文の解雇制限により労災による療養中である労働者の解雇が一切できなくなる点にあります。


労働者が療養期間中の補償を受けられない場合に解雇を認めることは不適切ですが、労災保険により療養補償給付などが支給されている場合は、使用者が療養補償を行っている場合と労働者の境遇は同様と思われます。したがって、本件のような場合に、労基法19条1項ただし書の適用まで否定してしまうことは、使用者側にとって酷であるとも考えられます。


労基法19条1項ただし書の適用を肯定しても、解雇をめぐる状況を総合的に勘案した結果、解雇権濫用と評価されれば、解雇は無効となります。


本件の差戻審とその上告審は解雇を有効と結論しましたが、この認定に際しては、本件の使用者が打ち切り補償(約1629万円)以外にも高額な法定外補償金(約1896万円)を支払っていることなどが重視されたものと思われます。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
中村 新(なかむら・あらた)弁護士
2003年、弁護士登録(東京弁護士会)。現在、東京弁護士会労働法制特別委員会委員、東京労働局あっせん委員。労働法規・労務管理に関する使用者側へのアドバイス(労働紛争の事前予防)に注力している。遺産相続・企業の倒産処理(破産管財を含む)などにも力を入れている。
事務所名:中村新法律事務所
事務所URL:http://nakamura-law.net/