ワトキンス・グレン・インターナショナルでのインディカー・シリーズ第16戦を戦い終えた佐藤琢磨(アンドレッティ・オートスポート)は、翌朝にノースキャロライナ州シャーロットへと飛び、陸路でサウスキャロライナ州との州境に近いトライオンという小さな町へと移動した。
ニューヨーク州東部の山中から、アメリカ東南部のアパラチア山脈の端のやはり山の中へ、インディ500ウイナーは半日以上をかけて移動。そして翌火曜日、朝から彼はウィリアム・ベーレンズというアーティストのアトリエを訪れた。インディ500のトロフィであるボルグワーナートロフィに刻まれる顔の彫刻を作るためだ。
歴代のインディ500ウイナーの顔が刻まれるボルグワーナートロフィー。ベーレンズ氏は、1990年のウイナーであるアリー・ルイエンダイクの顔の彫刻から製作を行っている。
月曜の晩に琢磨は彼らと夕食を共にして親交を深めた。琢磨がアトリエに現れると、ベーレンズ氏はすでに製作してある琢磨の実物大の”顔”の除幕式を琢磨の目の前で行った。
「凄い!」と琢磨は大興奮。「鏡とか写真とかでしか自分の顔って見たことがない。3Dの自分の顔を見るって不思議な感覚。実物より良く出来過ぎじゃない?」と笑った。
この後、ベーレンズ氏は琢磨を椅子に座らせ、本人を前に粘土製の顔に最後の仕上げを施す作業を行った。
琢磨の滞在はこの日だけだが、本人の顔を改めて実際に観察したベーレンズ氏は、数日後にこれを焼いて仕上げ、そこからトロフィーに載る小型の彫刻の製作へと取り掛かる。銀で作られる顔は10月中に完成し、インディアナ州インディアナポリスでお披露目される予定になっている。
「アーティストの作った顔の彫刻を今日初めて見ましたが、その素晴らしさは、もう凄いの一言です。ちょっと実物よりも良く作り過ぎているぐらいだとも感じました」
「インディ500で勝ったということは、もちろんすでに実感をしているのですが、ボルグワーナートロフィに自分の顔が刻まれるというのがどのようなものなのか、まだ感覚としてわかっていません」
「あのトロフィーの上で歴代ウイナーたちの顔と一緒に自分の顔も並ぶ。それは本当に信じられないようなことです。そして、その顔の彫刻を作るプロセスを知ることもまた大変貴重な体験となっています。まるで夢のようです」
「インディ500優勝のために力を尽くしてくれたチームや関係者の方々、そして熱い応援を続けてくれているファンに対する感謝の気持ちを、いま改めて強く感じています」
「皆さんがサポートしてくれたおかげでここまで来ることができたので、物凄く感謝しています。来年はディフェンディングチャンピオンとしてインディ500を迎えます。それも今からとてもワクワクしています。二連覇という物凄く大きな目標に向けて今度は頑張っていきます」と琢磨は改めて大きな目標を誓った。