従来の紙巻きタバコによる副流煙を含む有害物質の低減を実現し、近年大きなブームとなっている加熱式タバコ(たばこベイパー)。最大シェアは早々に全国発売を開始したマールボロ・ブランドを擁するフィリップ・モリスの「IQOS(アイコス)」が占め、同時期発売ながら全国発売が遅れたJTのメビウス・ブランドによる「Ploom TECH(プルーム・テック)」、10月から全国展開するケント・ブランドを擁するBATの「glo(グロー)」が追撃する形だ。
そんな加熱式タバコの陰に隠れつつも、同様にユーザーが大きく広がっているのが「VAPE(ベイプ)」。本来はアイコスなどが加熱式タバコと呼ばれ、電子タバコという場合はこちらを指す(注:VAPEはブランド名ではなく電子タバコの総称。語源はvapour=蒸気)。
ただややこしいのは、海外ではニコチンを含んだリキッドを吸入するために使われるのだが、日本では薬機法の規制によりニコチンリキッドは販売できない(個人輸入は可能)。つまり、日本で言う「VAPE」はノンニコチン(タールもゼロ)のリキッドを楽しむアロマ機器のような役割しかない。
VAPE(電子タバコ)自体が、まだ世界的にも普及して5~6年という若い製品なので、ニコチン、タールの害はないにしても、その他の物質が有害かもしれない可能性は無ではない。ただ普通に考えると、食品レベルの液体を蒸気として吸い込むことのリスクは、本来のタバコ製品を使用するよりは安全性が高いと考えるのが順当だ。いわばタバコというよりも、かつて一世を風靡(ふうび)した禁煙器具「禁煙パイポ」の進化形と考えるべきなのである。
アイコス、グロー、プルームテックなどの加熱式タバコと「VAPE(電子タバコ)」の大きな違い
従来の紙巻タバコはニコチンを摂取するための嗜好品。ただニコチンを吸収するためにはタバコ葉を燃やす必要があり、その時に生まれる有害物質・タール(ヤニ)を同時に吸い込む必要があった。ニコチンは多量摂取で心疾患の原因となり依存性があることはわかっているが、肺がんなどの重大な疾病に影響を与えるとされているのはタールのほう。このタールは喫煙者としても、別に進んで吸い込みたいものではない。依存しているのはニコチンなのだ。
そこで登場したのが加熱式タバコ。フィリップ・モリス社がアイコス発売時に提唱したのは、有害物質を9割低減するという「ハーム・リダクション」という考え方。人体に有害であることは前提だが、なるべくリスクを低減していこうということだ。タールが発生しないように、タバコ葉を燃やさずに気化したニコチンを吸入するアイコスはそうして誕生した。200度以上の高熱を発するブレードを内部に仕込んで、タバコ葉を蒸らす。グローもブレードではなく周囲からの加熱だが、同様の方式である。
プルーム・テックだけは少々違っており、VAPEにかなり近い構造をしている。蒸気を発生させた後、細かく刻んだタバコ葉の入ったたばこカプセルを通過させることによって、ニコチン吸入が可能になる。ただ温度が50度程度と低いので、アイコス、グローのような蒸した匂いはほとんどない。仕組みが似ているので、「VAPE」にアダプタを取り付けて、プルーム・テック用のたばこカプセルを使用しているツワモノもいるようだ。
VAPEは単純にいうと、防腐剤として医薬品や弁当などの食品にも使われているPG(プロピレングリコール)と保湿剤として薬局でも販売されているVG(植物性グリセリン)をベースに香料を混ぜたリキッドを、VAPE内部のコイルで電気加熱して気化させ、蒸気を発生させ吸入、香りを楽しむもの。
もちろんリスクゼロとは口が裂けても言わないが、コンサートに行った時に演出として焚かれる“スモーク”と同じようなもの。特定疾患などでアレルギーが出る可能性もゼロではないけれど、あまり深刻に考えすぎるほどの毒物ではない。
VAPEはタバコの代替になり、禁煙・減煙に役立つのか?
アイコス、グロー、プルーム・テックはタバコ依存の原因となるニコチンを含んでいる。従来の紙巻タバコからそうした加熱式タバコに変えたとしても、タールは減ってもニコチンは摂取し続けることになる。
しかし、VAPEはタールどころか、ニコチンも含まない。切り替えることができれば、ニコチン・タールを摂取しないことになり、事実上は禁煙と同じとなる(蒸気にその他の有害物質が含まれている可能性もあるが、現状では歴史が浅く“わからない”というのが適切)。
欧米ではVAPEユーザーは禁煙率が高いと報じられもしているが、そもそもやめたい人が切り替えている可能性も大きいので、正当性はいささか疑問。それでも減煙・禁煙に役立つ可能性はある。
VAPEで高確率に減煙・禁煙する方法
喫煙者の感覚からいくと、タール値の高い紙巻タバコから、即、VAPEに切り替えて禁煙というのは、かなり難しいと思う。吸いごたえの面もあるし、ニコチン依存が激しいからだ。減煙ならまだしも、いきなり禁煙はありえないと思う。
その一方で、日頃から低タールのタバコを吸っており、さらにメンソールタイプのタバコを吸っている人なら、まずアイコス、またはグローなど加熱式タバコのメンソール味に切り替えることで、習慣を排除することができる。
紙巻タバコが習慣化している人にとっては、火をつけて煙に巻かれた後、灰皿で吸い殻をもみ消すまでがセットになっているパターンが多い。その習慣を、火をつけないアイコス、グローで排除するのだ。そのあとにさらに同列のプルーム・テックのメンソール味に移行する。この時には吸い殻さえも存在しなくなる。
その上でVAPEでメンソールタイプのリキッドを吸うようにする。慎重に慎重を期する作戦だが、現状での禁煙はこの方法なら高確率で達成しやすい。少なくとも減煙まではいく人が大多数だろう。キーはメンソール。通常タバコの煙を吸い込むと、喉に“スロートキック”と呼ばれる圧を感じる。しかし、VAPEでノンニコチンの蒸気を吸い込んでも、それを感じることはできない。
これが最大の挫折ポイント。その場合に、ニコチンの代わりに、弱くはあるけれど、喉にスロートキックを与えてくれるのがメンソールなのだ。その理由から、VAPEのメンソールリキッドでの禁煙が現実的だと思う。
口から煙状のものを吐く人を毛嫌いする風潮の中では、たとえノンニコチン・タールのVAPEでも、喫煙所を利用しなくてはならない現実
日本ではアロマを吸い込んで楽しむ機器のVAPE。しかし未成年の使用は基本的に禁じられている。将来的な喫煙を助長するからというのが、その根拠。したがって20歳の壁はVAPEにも存在する。
また口から煙状のものを吐き出している行為が、喫煙と誤認されてトラブルになる可能性があるため、喫煙所でのVAPE使用が推奨されている。
健康面での厚生労働省の見解は、現状では加熱式タバコでさえも「判定なし」の状態。日本禁煙学会の警告も出されていたが、これは加熱式タバコに対する危険性を訴えているもので、アイコス、グロー、プルーム・テックが対象。歴史が浅く、日進月歩で機器が進化しているのがVAPEシーン。かつて害があるという研究発表が欧米であったが、いつ頃、どの機器とどのリキッドを使用しての結果なのかは明らかにされていない。
VAPEの入手方法 ~VAPEショップに行ってみた
現実問題、VAPEに興味が湧いたとして、初心者はどうやって手に入れたらいいのだろうか。
気楽なのは、近年増加しているVAPEショップを訪れること。ネット上には激安商品を販売している業者も数多いが、偽物をつかまされたという話もよく聞く。「ドン・キホーテ」などのディスカウントショップで入手するのもコスト的には有利だが、知識のない者にとっては選び方が難しい。
そこで、続々新店舗を都心中心にオープンさせている「VAPE STUDIO(ベイプスタジオ)」を訪ねて、現在のVAPE事情を取材してみることにした。
「年齢層は30代以上の方が中心ですね。それ以下だとあまり喫煙習慣がないことが多いので」と教えてくれたのは「VAPE STUDIO」を運営する株式会社トレードワークスのVAPE事業課アクティング・マネージャー・小谷瀬光也氏。
もともとVAPEの流行元がクラブカルチャーだったがゆえに怪しげな雰囲気の店舗が多かった中、明るく誰でも入りやすい店舗を目指し、2015年5月、渋谷スペイン坂に「VAPE STUDIO」1号店をオープン、以降、都内に全部で13店舗、大阪・ホワイティうめだ店を加えると14店舗を展開するショップ大手である。
「ともかく実際に試してみるのが一番ですよ」。そうして案内してもらったのが、渋谷明治通り店。路面店であり、ドアも常時オープンしている開放的な店構えだ。
入り口には、“禁煙をもっと楽しく”のキャッチコピーのポスターが。内部にはずらりとVAPE機器が並んでいる。素人目ではどれがいいのかさっぱりわからないと思うが、気さくに声をかけてくれるスタッフもおり、自分の好みに合わせた機器をチョイスしてくれる。
まずは最近の人気機種を聞いてみる。
脱スモーカーを目指す初心者向けの3機種
■「Joyetech(ジョイテック)eGo AIO スターターキット」
入門機種として人気が高いと聞いたのが、「eGo AIO」(スターターキット・全15色・税抜4,800円)。ベテランには分解できるパーツが多いほど喜ばれるのだが、この機種は取り外し部分を最小限にしたオールインワンモデル。全長118mmのコンパクトなボディーで液漏れしないことにも定評あり。「こうした派手なデザインのものが人気がありますね」。
■「Eleaf (イーリーフ) iCare 140スターターキット」
喫煙者がスイッチしやすい、手のひらにフィットするペンタイプ。吸い込む力加減を“ドロー”といい、紙巻タバコはその力が重いのだが、VAPEは通常軽め。なのでこうした紙巻タバコ的なドローを持つ「iCare 140」(スターターキット・全5色・税抜3,200円)が人気だとか。
■「Eleaf (イーリーフ) iNano スターターキット」
喫煙所などでも悪目立ちしない小さな見た目と簡単な操作性で人気の機種「iNano」(スターターキット・全5色・税抜3,200円)。一見VAPEを吸っているように見えないのが大人には助かる。
他にもVAPE ONLY「MALLE」(スターターキット・全3色・税抜8,500円)など、紙巻タバコにサイズ感が似たものも移行しやすいそう。
タバコから移行しやすいリキッド
スターターキットが決まったら、今度はリキッド。圧巻だったのがカウンターに大量に並んだリキッドだ。常時200種類以上が置いてあり、どれもその場で試すことが可能だという。吸い口は交換式のシリコンカバーが付いており、衛生面でも安心。記者も早速人気のリキッドを試してみることに。そして喫煙者が移行しやすいリキッドをセレクトしてもらった。
■MkVape「マキシマム インパクト V2」(60ml・税抜3,000円)
ハードなメンソールで、物足りなく感じがちな喉へのキック感を与えてくれるリキッド。ドライなハーブもいい感じ。
■MkVape「スムース スモーキング V2」(60ml・税抜3,000円)
いわゆる洋モク感(※外国製のタバコの感覚)のある味わい。バージニア、ハバナ、アメリカンタバコを軸に構成された味わいは甘さ控えめがいい。
■BI-SO Palette「アロエ いちご/きうい/もも」(60ml・税抜各2,200円)
定番リキッドブランドBI-SOから誕生した女性考案の新ブランド。史上初のコラーゲン入り。まさに女性向け。アロエをベースに甘いストロベリー、爽やかなキウイ、ジューシーな桃味が再現されている。タバコというより、アロマ。
■BI-SO FROZEN JUICE「MANGOメンソール/PEACHメンソール/STRAWBERRYメンソール/APPLEメンソール」(30ml・税抜各2,000円)
元喫煙者にありがたいメンソールタイプ。でもせっかくなので、いろいろなフレーバーを楽しみたい。各フルーツの風味づけで飽きにくい。
フレーバーに凝りだしたら、ニコチン卒業への第一歩!
この華やかさは何だろう。タバコというと近年は特に後ろ暗い感覚で、ダークなイメージがつきまとうものだが、ことVAPEとなると、ニコチン・タールなどが入っていないせいかもしれないが、非常に明るく香りを楽しんでいる印象だった。
ではVAPEは結論として、減煙・禁煙に役立つのだろうか。人による部分は多いが、この楽しさはアリだと思う。ガジェット好きなら、いろいろな機種の仕組みに凝り始めるかもしれない。パーツの交換、改造など、VAPEのベテランはさまざまに楽しんでいる。
もう1つ、フレーバーの多彩さは紙巻タバコの比ではない。「VAPE STUDIO」の200種類以上というのは、実は氷山の一角。海外から輸入可能なリキッドを含めると、もはや数えきれないほどの種類が世の中には存在する。その辺も凝りだしたらキリがないところだ。そしてフレーバーに凝りだすうちに、ニコチンよりも味わいに凝りだす人も多いと聞く。
実際に記者の周りでも、味にこだわるが故にニコチンを忘れてしまったという人もいた。減煙・禁煙で壁にぶち当たっている人なら、一度はこうしたVAPEショップで、その醍醐味を味わってみるのも一つの手だと思う。
(文/清水りょういち)
<店舗情報>
VAPE STUDIO 渋谷明治通り店
東京都渋谷区渋谷三丁目 16番3号1階
http://www.vapestudio.jp/
<著者プロフィール>
清水りょういち(しみず・りょういち)◎元・音楽雑誌「月刊歌謡曲(ゲッカヨ)」編集長。現在はライターとしてエンタメ系~新製品レビュー、政治経済まで幅広く執筆。新商品レビューは「価格.comマガジン」などで掲載中。著書『J-POP作詞術のウラ技☆オモテ技』。現在は撮影・編集担当の妻と「ゲッカヨ編集室」を運営。