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滝藤賢一、『黒革の手帖』でも名バイプレイヤーぶりを発揮 小物感あふれる悪役のおもしろさ

2017年09月07日 10:32  リアルサウンド

リアルサウンド

 名バイプレイヤーとして映画やドラマに引っ張りだこの俳優・滝藤賢一。本クールでも、『黒革の手帖』(テレビ朝日系)では、武井咲演じる原口元子の銀行時代の上司・村井を、『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』(フジテレビ系)では循環器内科医師、そして公開中の映画『関ヶ原』では豊臣秀吉役とまったく違う役柄に扮し、演技力の高さを見せつけている。


(参考: 武井咲『黒革の手帖』はなぜ成功した? 女優キャリアと重なる、悪女役のリアリティ


 『黒革の手帖』第6話では、武井演じる原口元子が窮地に陥る。これまで男たちを強請り、思うがままに驀進していた元子だが、政財界ドン・長谷川(伊東四朗)の策略にはまり、自身が所有するクラブ「カルネ」を乗っ取られてしまうのだ。そして長谷川が「カルネ」の新オーナーとして送り込んできたのが、元子の元上司・滝藤演じる村井だ。これまで元子に煮え湯を飲まされてきた男たちは数多くいるが、なかでももっとも感情むき出しで攻撃的だった村井。いい意味での小物感、狂気さは、本作の世界観では異質さを放っている。


 滝藤といえば、仲代達矢が主宰する無名塾に在籍し、舞台を中心に俳優活動を行っていたが、自身もインタビューで語っているように、2008年に公開された映画『クライマーズ・ハイ』が分岐点になった。新聞記者・神沢周作役を演じ、大きな注目を浴びた。この作品で滝藤が演じた神沢は、日航機墜落現場を目の当たりにし、信じていたすべての常識が崩れ、狂気じみていく若手新聞記者だ。この正常→異常へのスイッチの入り方が、なんともいえず味がある。


 『クライマーズ・ハイ』のように、あまり出演シーンが多くないなか、徐々に壊れていくさまを表現するのは難しい。ややもすると、唐突に感じてしまうからだ。シーンとシーンの間の出ていない部分で、どれだけ連続性を持たせられるかが説得力になるのだが、滝藤は見事な壊れ方を演じた。


 一方、『黒革の手帖』では、スタートから元子と対立関係であることは明らかで、感情が爆発することは予定調和だ。視聴者もある意味、滝藤の攻撃を待ち構えている。そんななか、村井は元子によって出世コースを踏み外した恨みを爆発させる。「給料が3分の2になってしまったんだ」となかなか小物感あふれるセリフで、元子につかみかかるさまは、不快感がありつつ滑稽でもあるのは滝藤の役作りの妙だろう。


 『クライマーズ・ハイ』、『黒革の手帖』ともに大きな組織に属し、何も疑問を持たずに生活していた男が、狂気じみた人物に変貌していく姿を演じているが、その表現方法は全く違っていて、いろいろな引き出しを持っている俳優だ。以前、同一クールで出演作が続くことに「飽きられてしまうんじゃないか怖い」と語っていた滝藤だが、「ラッキーなことに、いろいろな作品で幅広いキャラクターを演じさせてもらっている」とも述べていた。『黒革の手帖』のような、アクの強いキャラクターを演じることもあれば、映画『はなちゃんのみそ汁』では、強い心で乳がんの妻を支える心優しい夫を好演するなど、役柄の幅は広い。ゆえに出演作が多くても「またか」という印象は残らない。


 『黒革の手帖』第7話では、「カルネ」の新オーナーを任された村井に、新しいママとしてやって来た仲里依紗扮する波子も加わり、元子への復讐が始まる。登場人物のほぼすべてが“すねに傷を持っている”なか、権力や金という力がものをいう世界で、もっとも小物感漂う滝藤=村井がどのように立ち振る舞い、視聴者をゾクっとさせるのか。いまから楽しみでならない。


(磯部正和)