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知っているようで知らない「内容証明郵便」、送る側にはどんな狙いがある?

2017年09月07日 09:23  弁護士ドットコム

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「内容証明郵便」という言葉を、聞いたことがありませんか。何らかのトラブルが生じた時などシビアな場面で出てくるので、なんとなく怖いイメージもありますが、実際にそれが何かよく分かっていないという方も多いのではないでしょうか。


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日本郵便によれば、内容証明とは「いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本によって当社が証明する制度」です。


簡単にまとめると、郵便を出した日時や、差出人と送付先などを、郵便局が証明してくれるというものですが、一体どのようなメリットがあるのでしょうか。具体的にはどのような場面で使われているのでしょうか。池田誠弁護士に聞きました。


●大事な通知を出すときだけでなく、証拠を作りたいときに利用する場合も

内容証明郵便はどのような場面で使われているのでしょうか。


「内容証明郵便の具体的な利用場面は、大きく分けて次の3通りです。(1)通知自体が要件となっている場合にこれを利用する場合(2)通知の内容に証明したい事実を記載してこれを証拠として利用する場合(3)相手方に対する心理的な強制力を期待してこれを利用する場合」


(1)の通知自体が要件となっているというのは、どのように考えればいいのでしょうか。


「(1)は、たとえば、家賃を長期滞納している賃借人に対して一定期間を定めた『解除通知』を出す場合ですね。他にも、1度でも返済が遅れた場合に請求によって一括請求を求められるという合意をしている際に『期限の利益喪失通知』を出す場合や、請求されている債権が消滅時効にかかっている時に『時効援用通知』を出す場合などがあります。


通知自体が法律または契約に基づく要件となっており、その存在を証明する必要性が極めて高いことから、通常そのような場合は内容証明郵便を利用します」


(2)の通知の内容に証明したい事実を記載するというのは、具体的にはどのようなケースですか。


「たとえば、騒音被害を受けている場合に、騒音の内容を詳細に記載し、近隣住民に対して改善を要求する場合です。日記やメモと異なり、内容証明郵便に記載したものは、後日改ざんしたと指摘される可能性はないですし、郵便が事件発生直後に出されているのであれば、記憶の減退による記憶違いの疑いも生じにくいです。


また、郵便には宛名となる相手方がいます。そのため、その相手方が上記の事実を指摘されたのに反論をしてこなければ、反論がないことと内容証明郵便を合わせて提出することで、上記の事実が存在したというより強い印象を裁判所に与えることになります」


●訴訟などの裁判手続の前の「最後通告」にも

(3)の「心理的な強制力を期待」というのは、どういうことですか。


「内容証明郵便以外の連絡には応答しない相手方から反応の引き出し。場合によっては、期待する反応(返済など)を引き出すことも狙います。内容証明郵便は、一般の方からは、訴訟などの裁判手続の前の『最後通告』として理解される傾向が強いと感じます。


法的な知識がなければ、裁判になった場合の勝ち負けに確信を持てないのが通常でしょう。また、仮に何らやましいことがないと確信していても、裁判になれば、手続的あるいは費用的な負担が生じる事態が想像されます。したがって、内容証明郵便が送られていながらこれを無視するには、よほどの状況判断力と法的知識が必要とされます。


一般には、そのような判断力や知識に自信がある人は多くないと思いますので、結果として、電話やメールや普通郵便では応答しない相手方から反応を引き出せる場合が多くなります」


●内容次第では恐喝罪と判断される場合もあるので注意

それぞれ注意するべきことはありますか。


「まず、(1)に関しては、記載内容によっては、内容証明による郵便行為自体が犯罪行為を構成し、かつその事実を裏付ける証拠となり、刑事罰を受けるリスクを生じる点です。たとえば、友人間の金銭の貸し借りで、『返さなければ親に連絡する』とか『会社に連絡する』という記載を稀に見かけます。


その親や上司が連帯保証人になっていれば別ですが、そうでなければ、その文言が『害悪』の告知にあたって、恐喝罪に当たると評価されるおそれがあります。


次に、(2)に関しては、自分に不利な事実を承認した場合も証拠になるという点です。円満な解決を目指し、『自分にも非があった』という趣旨の記載をする人がいますが、いざ正式な争いになれば、相手方はその文章を逆手にとってくるはずです。


そして、(3)に関しては、同じ相手方に何度も内容証明郵便を送れば、『最後通告』としての緊迫感が薄れます。こちら側に決定的な証拠や請求手段がないことを相手方に悟らせることになり、かえって主導権を相手方に握らせるおそれがあることです」


内容次第では、送ったほうが不利になってしまうこともありうるということですね。


「はい。内容証明郵便は、大変簡易で有用な手段ですが、一歩使い方を誤れば、自分自身の立場を危うくすることにもつながります。上記3通りの利用場面を意識して、必要最小限の記載に留めることが大切です」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
池田 誠(いけだ・まこと)弁護士
証券会社、商品先物業者、銀行などが扱う先進的な投資商品による被害救済を含む消費者被害救済に注力している下町の弁護士です。
事務所名:にっぽり総合法律事務所