2017年09月06日 17:02 リアルサウンド
デビュー20周年を迎えるGRAPEVINEがニューアルバム『ROADSIDE PROPHET』をリリースする。初めてホーンセクションを取り入れた先行シングル「Arma」を含む本作は、3人のメンバー(田中和将/Vo&Gt 西川弘剛/Gu 亀井亨/Dr)とサポートミュージシャンの金戸覚(Ba)、高野勲(Key)による有機的なバンドサウンドをさらに突き詰めた充実作。亀井の手による奥深いメロディライン、田中が紡ぎ出す生々しい歌詞が前面に押し出されているのも本作の魅力だ。デビュー作『覚醒』(1997年)から20年。根本的なスタイルを変えることなく、成熟と斬新さを共存させながら充実した活動を続けることで、若いオーディエンスからも支持されている3人に新作『ROADSIDE PROPHET』について語ってもらった。(森朋之)
・「何かしらの変化は常に欲しい」(亀井)
ーー先日のフジロックでライブを観させてもらいまして。すごく盛り上がってましたよね。
田中:たまたま雨が降ったので、雨宿りのお客さんも集まってくれて。
亀井:確かにお客さんは熱かったですね。それはライブをやってるときも感じました。
ーー若いオーディエンスが多かった印象もありましたが「新しいリスナーが増えている」という実感はありますか?
田中:フジのときはそうだったかもしれないけど、普段から実感してるかと言われたら、よくわからないです(笑)。ツアーをやっていても、我々の目が届く範囲は、いつもと同じ方々が多いので。
亀井:常連さんがね(笑)。
田中:そうそう。もしかしたら後ろのほうには若い世代のお客さんがいるもかもしれないけど。
西川:若いバンドの人から「よく聴いてました」と言われることは増えてますけどね。Wilcoのライブに行くとミュージシャンっぽい感じの人が多いんですけど、(GRAPEVINEのライブにも)そういう人たちがいてくれたら嬉しいですね。
ーーGRAPEVINEをフェイバリットに挙げているバンドマンは確かに多いですよね。フォロワーというか、「影響を受けてるな」と感じるバンドは少ないですけど。やっぱりマネしづらいんですかね?
田中:マネはしづらいと思いますよ。この前もそんな話をしてたんですけど、「リスペクトしてます」と言ってくれるバンドのライブを観ても、自分たちとの共通点をなかなか見つけられなくて。それが良いとか悪いってことではないんですけど。
亀井:「どの部分を汲み取ってくれてるのか?」ということもあるだろうし。
ーーみなさん自身はどうですか? いまの常に新しい音楽に触れていると思いますが、そこから影響を受けることもある?
田中:バンバン取り入れたりはしないですけど、何らかの刺激は受けていると思いますよ。どういう影響かは具体的に言えないけど、要素としてアレンジに取り入れることもあるので。
亀井:レコーディングのプリプロで、アレンジを考えているときに参考にしたり。そういうネタはいつも探してますね。制作の方法はあまり変わってないんですけど、自分たちにとって新鮮なものだったり、何かしらの変化は常に欲しいので。
西川:その時期に聴いてる音楽がエッセンスとして入ってきますから。
田中:意図的に真似することもありますけどね(笑)。そういうときもあまり研究しないで、うろ覚えの印象にあわせることが多いんです。それが勘違いでも構わないというか。
ーーでは、新作『ROADSIDE PROPHET』について。前作『BABEL, BABEL』には共同プロデューサーとして高野寛さんが参加していましたが、今回はセルフプロデュースですね。
田中:はい。アルバムの内容について突き詰めて話したわけではないんですけど、「20周年だし、セルフプロデュースでどう?」という話をして。いつも通り「どんなアルバムにするか」ということはまったく話してないですけどね。どんな曲が出て来るかわからないし、ずっと出たとこ勝負でやってきたので。結局は曲次第ですからね。
ーー20周年の年にリリースするアルバムだからと言って、特に気負い過ぎることもなく。
亀井:気負いはないですね(笑)。
田中:確かに(笑)。こういうタイミングっていろいろやりがちなんでしょうけど、自分らはそういうのが苦手みたいで。10周年のときも15周年のときも、大それたことは何もやってないですから。
西川:サービスというか、ファンの人たちは(20周年に関するイベント、作品などを)求めていると思うんですけど、いかんせん苦手なので、やっぱり通常通りに活動になるっていう。「何でやらないんですか?」と直接言われることもありますけど、「さあ……」としか答えようがなくて(笑)。(1977年の)9月にデビューしたから、隠してると思われてるみたいなんですよね。「9月に何かあるはずだ」って。
田中:ホントに何もやらないです(笑)。
西川:トリビュート盤とかリテイクアルバムを出してほしいって言われることもあるけど、それは20年目じゃなくてもいいですからね。
田中:そういうことにお金と時間を使うよりも、新しいアルバムを出すことに力を使ったほうがいいと思っちゃうんですよね。
・「ちょっと違った部分を作って、そこを楽しんでいきたい」(田中)
ーーここ数年も毎年のように新作をリリースしていますからね。リテイクアルバムは聴いてみたいですが……。
田中:アルバムのDVDにスタジオライブ(「覚醒」「スロウ」「CORE」などを収録した『GRAPEVINE STUDIO LIVE 2017』)が収録されているんですけど、要はそういうことですよね。ライブでは常にセルフカバーをしているわけですから。「いまの演奏で昔の曲を聴きたい人はライブに来てください」と言うと「冷たいですね」って言われちゃうんですけどね(笑)。事情があってライブに来られない方はこのスタジオライブを観てもらえたらなと。
西川:アレンジを変えるのも難しいんですけどね。たまにしかライブに来られない人は「何でアレンジを変えた? 原曲通りのアレンジで聴きたかった」という人もいると思うので。
田中:それもあるな。
亀井:大御所になればなるほどアレンジを変えがちですよね。歌いまわしとか。
田中:タメがちになるからね(笑)。自分らに関して言えば、根本のアレンジを変えることはあまりないんですよ。音やフレーズを変えたり、間奏が伸びたりすることはよくありますけど。
ーーもともとセッションで制作している楽曲も多いし、ベーシックのアレンジがしっかり定まっているんでしょうね。今回のアルバムの新曲も基本はジャムセッションで作ったんですか?
田中:やり方はいままでと変わってないんですけど、GRAPEVINE名義の曲は少ないんですよ。今回は亀井くんがたくさん曲を持ってきてくれたので。
亀井:溢れ出ていたわけではないんだけど(笑)、何かしらネタがあったほうが進めやすいだろうなと。
ーーメロディがしっかりしている楽曲が多いのは、亀井さんの楽曲が多いからでしょうね。
亀井:個人で作るとどうしてもそうなりますね。プリプロやアレンジはスタジオでやってましたけど。
田中:そういう意味では全曲ジャムって作ってますね。
ーーバンドでセッションする際に何か意識していたことはありますか?
田中:手練れにならないようにするっていうのは、常に考えてますね。誰かがアレンジのアイデアを持ってくることもあるし、さっき言ってたみたいにYouTubeやSpotifyを聞いたり。モチベーションを保つのは大変ですからね。飽きずに続けるやり方を考えないと。
西川:普通にやると、どうしてもいつも通りになっちゃいますからね。そこから「どう変えようか?」と話して。
田中:曲のストーリーとか、自分たちの性分もあるんですけど、ちょっと違った部分を作りたいですよね。そこを楽しんでいきたいというか。
ーー先行シングル「Arma」にはホーンセクションが取入れられていて。GRAPEVINEの曲で、ここまでしっかりホーンが入ってる曲って……。
田中:じつは初めてなんですよね。ホーンを1本だけ入れたことはあるんですけど、「Arma」は三管なので。もともとは高野勲氏のアイデアなんですよ。アレンジしているときに「ホーンを入れてみる?」って言い出して、僕らも「それはいいかも」と思って。高野さんは「The Boo Radleysみたいな可愛い感じのホーンを入れたい」って言ってたんですけど、仕上がりはだいぶ違いますね(笑)。
亀井:ホーンを使ってみたいという気持ちはずっとあったんですけど、似合う曲がなかったんですよ。
西川:ホーンセクションって強力ですからね。ひっそりと佇んでいる楽器ではないので。
田中:隠し味にはならないというか。“ホーンありき”の曲が増えると、ライブでも不自由しますからね。そういうこともあって、いままで取り入れてなかったのかも。
ーー「これは水です」には四家卯大さんのチェロが入っていて。サイケデリックな雰囲気を増幅させる効果的なアレンジですね。
田中:楽曲自体がかなりサイケデリックですからね。最初はメロトロンの音を使ってたんですけど、もっと強力にしたいと思って、生のチェロを入れることになって。四家さんが3本分のチェロの譜面を書いてくれて、すごく良くなりましたね。
ーー「ソープオペラ」のノイジーな音像も印象的でした。あれ、何の音ですか?
田中:全編に流れているのはシーケンスの音ですね。亀井くんが作ったデモに最初から入っていて、それがすごく印象的で。
西川:うん。マリンバの音とかも混ざってて。
亀井:マリンバの音をアルペジエーターで処理して、それをランダムに打ち込んだんですよね。それを活かしながら、音色を新たに作り直して。自分が使っているソフトにそういう機能が付いてたから、曲作りのきっかけとして使ってみたっていう。
ーーすごく自由度が高いですよね。メンバーのアンサンブルだけに頼っているわけではないというか。
田中:何でもアリですよね、基本的には。自分たちのアイデアには限界があるし、向き・不向きもあるだろうけど、思い付いたことはとりあえずやってみるので。ライブの再現性も出来るだけ考えないようにしてるんです。もちろんライブでは“せーの”でやるので、たまに大変なことになるんですけど(笑)。
西川:「俺は何の楽器を演奏すればいいんだ?」ということもありますからね、曲によっては。いちばん難しいのはハモなんですけどね。
田中:演奏と歌のタイム感をすり合わせるのが難しいんですよ。とにかく練習するしかないんですけど。
亀井:体に入れちゃうしかないですからね。
田中:または何かを放棄するか(笑)。いつも苦労してますけど、やりがいはありますね。
・「歌詞もどんな風にも取れるような書き方を心掛けている」(田中)
ーー歌詞に関しても聞かせてください。いまのアメリカの社会を想起させる「Shame」、〈弟や友達や周りの人/好きだけれど心の奥はうまく言えない〉というフレーズがある「Chain」など、現実世界と重なるリアルな歌詞も増えていると思うのですが、そのあたりは意識していますか?
田中:これも毎度のことなんですけど、歌詞もできるだけ違うアプローチで書きたいと思ってるんですよね。「Shame」は曲調も曲調だし、ちょっと悪ノリしてもいいかなと思って。特に何かを意識していたわけではないんですけど、世間や社会に対して自分なりに思うところも多々あるし、それが歌詞に出て来るのは仕方ないかなと。そのまま書いているわけではないんですけどね。どんな風にも取れるような書き方を心掛けているし、「おまえはどの立場からモノを言うてんねん」という自問自答も出てしまうので。言葉や表現は変えてるつもりですけど、もともとの取り組み方はずっと同じだから、結果的には似てるかもしれないですね。
ーーストレートで強い言葉が入っていると、伝わるスピードも上がりそうですけどね。
田中:確かにそうなんですけど、そういうモノで溢れてるじゃないですか、世の中。だから自分がやらなくてもいいのかなと。僕らの曲は“3年殺し”でいいんですよ。今回のアルバムもそういう感じだと思いますね。3年くらい経った頃に「は! そういうことか!」って(笑)。
西川:“100年殺し”だったら大変だけど(笑)。
田中:生きてる間には伝わらへん(笑)。そうなる可能性だってありますよ、それは。自分から感じ取ろうとしなければ、絶対わからないでしょうから。
亀井:うん。
田中:能動的に楽しもうとしないと無理でしょうね。最初から「わかんない」という人には一生届かないというか。何でもそうだと思いますけどね。ライブやフェスもそうじゃないですか。目当てのバンドだけを楽しみにしてたら、フェス全体を能動的に楽しむことはできないかもしれないし。だったらずっと飲んでいて、ぼんやり過ごしたほうがいいかもしれないですよね。
ーーGRAPEVINEのオーディエンスはかなり能動的に楽しんでいるイメージがあります。それぞれの受け取り方で、好きなように楽しんでいるというか。
田中:どうでしょうね? そういうふうに勧めてきたし、そうなるようにやってきたつもりではいますけど。
亀井:シーンとしている瞬間もあるから、初めて来た人は戸惑うかもしれないけど。「声出していいのか?」とか。
田中:良し悪しやな(笑)。
ーーデビューから20年経って、自分たちの作品がしっかり浸透している実感もある?
田中:うん、その実感はありますね。アルバムもたくさん出してきましたけど、どれもいい作品だと思いますし、それなりに愛してもらえてるんじゃないかなと。
亀井:特にライブのときは感じますね。
西川:うん。ガンガン歌ってる男のお客さんがいると「歌ってくれてるんや」って思うし。
ーーアルバムリリース後のツアーも楽しみです。ファイナルは12月1日の東京国際フォーラム ホールAですね。
田中:20周年イヤーを締め括るという意味もあるんですけど、基本的にはアルバムのツアーですね。いまの時点ではどういう内容になるかわからないので。
西川:9月5日に大阪のumeda TRADでリリースパーティをやるんですけど、この会場は20年前に初めてワンマンライブをやったところなんです。そのライブが唯一、20周年らしい企画かもしれないですね。リリースパーティなので、古い曲はそんなにやらないかもしれないけど(笑)。
亀井:デビューした後も1回やったんですよね。
西川:内装も当時のままらしいです。なくなるライブハウスも多いから、すごいですよね。
田中:20年前もかなり年季が入ってたけどな(笑)。どんな感じになってるか楽しみです。
(取材・文=森朋之)