来季を巡る騒動にすっかり隠れてしまった印象だが、今季最大の苦戦が予想されていた超高速のモンツァでマクラーレン・ホンダの2台は善戦をみせた。
マクラーレン(以下、MCL)「良いスタートだったぞ、ストフ」
18番グリッドのストフェル・バンドーンはスタートで2台をパス。低速トルクが増大したスペック3.7のパワーユニットの効果が表われた。
バンドーンはさらにマーカス・エリクソン、カルロス・サインツJr.を抜き、ケビン・マグヌッセンを先頭とする10位争いの集団に追い付く。9周目に前のニコ・ヒュルケンベルグがピットインすると、バンドーンは本来の速さを見せた。
MCL「さっきのクリアエアでのラップタイムはMAGより1秒速かった。マシンのペースは良いぞ」
やがてダニール・クビアトに追い付き、0.5秒差で走り続ける。
MCL「タイヤはどう?」
バンドーン(以下、VAN)「OK。ただ前走車をフォローしているから苦労させられているだけだ」
エステバン・オコン、キミ・ライコネン、ウイリアムズ勢など上位勢がピットインをして再びバンドーンの背後に迫ってくると、マクラーレンは無理に彼らと戦わず自分のレースに専念することを選んだ。パワー負けもさることながら、新品タイヤを履く彼らの勢いを抑えることは容易ではない。それよりも彼らの後ろに回ってスリップストリームを使った方が得策だからだ。
MCL「ウチより速い彼らのDRSトレインについて行ければ最高のポジションにいける。ベストペースを尽くしてくれ」(21周目)
MCL「後ろにMAS(フェリペ・マッサ)が来ている。同一周回だが彼と争ってタイムロスはするな」(23周目)
24周目にはリヤタイヤのデグラデーション進行を訴えたバンドーンだったが、チームはそれでもなおスーパーソフトのまま第1スティントを長く引っ張り続けていた。
MCL「このペースでいればすごく良い展開になるぞ」
VAN「トライするよ!」
MCL「ペースはすごく良い。MAG(マグヌッセン)と同等だ」
29周目には「左フロントのイン側にブリスターが出てきている」と訴えるが、ピレリのイン側ショルダー付近にできるブリスターは性能に影響しない。
しかしこれからタイヤ交換をして10位マグヌッセンを追撃しようという矢先の33周目、予選と同じようにMGU-Kのシャフトが折れてリタイアを余儀なくされた。
VAN「ノーパワーだ」
MCL「了解、バックオフしてピットインしてくれ……エンジンオフ、リタイアする」
一方、フェルナンド・アロンソは14周目のロッジアでジョリオン・パーマーのインを突くが、ブレーキを遅らせたパーマーは行き場をなくしてシケインをカットするかたちでコースに戻る。これに対してアロンソは強く抗議した。
アロンソ(以下、ALO)「PALは一体何をやってるんだ! 彼はシケインをカットした。ポジションを僕に戻す必要がある!」
MCL「了解」
ALO「ターン4だ。シケインをカットしたんだ」
MCL「映像で見ていた。レースディレクターには報告しているよ」
パーマーには5秒加算ペナルティが科されることになったが、アロンソはこの裁定に不満だった。
MCL「PALに5秒加算ペナルティが科された」
ALO「5秒!? 冗談だろ? なんてジョークだ!」
アロンソのフラストレーションは別のところにもあった。ギヤボックスが不調を来たしていたのだ。センサーのトラブルでクイックシフトが使えず、1周につき1秒はロスをしていた。
ALO「XXX! アップシフトが酷い」
MCL「了解。何かできることがないか今調査しているところだ」
ALO「みんなすまない、でも(現状打破のためには)何かをやる必要がある」
MCL「デフォルト03を試してみてくれ」
ALO「それとPALの件はノーブレイナー(考えるまでもないこと)だろ!」
30周目にピットインの指示が出され、アロンソはまだタイヤのライフが残っていると主張したがチームは譲らなかった。
MCL「この周ピットインしてくれ。ピット出口でGROと接戦になる」
ALO「まだペースは充分ある!」
MCL「いや、今ピットインする必要がある」
その直前、パワーユニットのプリセットセッティング変更を指示されたアロンソは「SOCがどうなっているのか、コンピュータを見ていれば分かるだろ! ゼロなんだぞ!」とディプロイメントが切れていることに怒りをぶつけるが、全開率の高いモンツァではどのマシンも同じことだった。
アロンソの不満は収まらない。パーマーがリタイアしたと知らされた35周目にはこんな風に罵っている。
MCL「VANがリタイアした。我々はSAI(サインツ)と争っている。彼は14秒前方だが21周オールドのソフトタイヤを履いている」
ALO「PAL(パーマー)はどこに行ったんだ?」
MCL「彼はリタイアしたよ」
ALO「カルマ(罰)だ!」
アロンソはサインツを捉えようと追いかける。チームも万に一つの入賞のチャンスを期待してプッシュさせ続ける。サインツとのギャップは逐一報告されていた。しかし50周目には4位ダニエル・リカルドにも抜かれ、入賞のチャンスはなさそうだった。
いつものように最後にファステストラップ狙いのタイムアタックをやろうとしたのか、アロンソは「ファステストラップは何秒?」と聞いたが「ハミルトンの1分23秒9だ」と聞かされて手が届かないと判断したようだった。
そして50周目、次戦に新品ギヤボックスで臨むために自らリタイアすることを決めた。
MCL「バックオフしてくれ、バックオフだ。リタイアする必要がある」
ALO「OK」
最終的に2台リタイアという結果に終わったが、マクラーレン・ホンダのイタリアGPは決して消化試合でも不毛な戦いでもなく、彼らはポイント獲得を目指して戦っていた。そして、その可能性も充分にあった。この無線交信の記録を見れば、それが分かるはずだ。