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「乗るべしスーパーカー」発売記念連載03『ジャガーXJR-15』

2017年09月06日 11:02  AUTOSPORT web

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9月5日に発売となった「乗るべしスーパーカー」の発刊を記念して、この本の主役である気鋭のフォトグラファー・悠佑氏が切り取った珠玉の写真たちと、オーナーとスーパーカーのライフストーリーをご紹介。第3回は「ジャガーXJR-15」だ。

●Car Details Jaguar XJR-15
Text:Akira YOKOTA

 1988年のル・マン24時間レースにおけるジャガーの優勝は、じつに31年ぶりのことだった。優勝マシンのXJR-9は、1982年からジャガーでETC(欧州ツーリングカー選手権)に参戦し、1987年から正式にジャガーのレース活動を担うようになったTWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)の開発による。そのマシンをベースに、保安部品を取り付けたロードバージョンとしたのが、1990年に発表されたXJR-15だ。狙いは、同車のワンメイクによるF1前座レースの開催。その経緯から生産台数も50台程度と少なく、カーボンコンポジット構造のモノコックや足回りはほぼレーシングカーそのもの。5993ccのV12エンジンはSOHCながら450PSを発揮した。

●Owner's Story “スパルタン”ではすまない、Gr.Cマシンそのものの剛性感
A氏/Text:Shinnosuke OHTA

 もはや“キャノピー”と呼ぶべきキャビンに、ポリカーボネート製の透明樹脂をはめ込んだ超軽量なヒンジドアを開くと、そこには30cmをゆうに超えるカーボン製のサイドシルが出現する。「乗り込み方は人それぞれだと思いますけど、僕はもう両足でそこに乗って足から入ります」と笑顔で語る、オーナーのA氏。

 どんな希少なモデルでも「走らせなければ意味がない」と言い切るドライバー気質のオーナーらしい“儀式”で乗り込むと、そこにはサイドシートのパッセンジャーと会話を交わすためのヘッドセットまで備わる。

 モータースポーツ界で名コンストラクターとして名を馳せたトム・ウォーキンショー。その鬼才が手がけたル・マン・ウイナーのGr.Cカー『XJR-9』を由来とするこのスペシャルな1台は、走行中でも乗員の顔面めがけて容赦なく熱風が襲い、100km/h以下の巡行では「すぐに水温が110℃を超えてしまう」ほどの熱量を発する。

 それもそのはず。Gr.Cがベースでありながらもジャガー特有の美意識に根付いた美しいボディワークはフロント開口部が控えめにデザインされている。高速走行を前提にラジエターへの通過風量が設定されているのだろう。さらに競技車両ではボンネットピンでのイージーアクセスだったであろうリヤカウルも、このロードカー・バージョンでは「あらゆる場所にある数十個のネジ」を外し、数人掛かりでカウルを外さなければ、満足にエンジンを鑑賞することも、冷却水を足すこともできないほどスパルタンな仕上げとなっている。

 ジャガー由来のV12気筒に組み合わされるクラッチは、当時最先端のカーボンディスクを採用。「今の最新レースカーのように小径ディスクではなく、当時のディスクサイズをカーボンに置き換えただけ」というセットは、冷間時のシビアなつながりを要求するのはもちろん、ちょっとした調整の不備で「クラッチが切れずに立ち往生しました」という気難しさも持ち合わせる。それでも──。

「クラッチはワンオフで作成することもできますし、今回はプレートの締結力を調整しただけで状況が改善しました。何より、走らせていて他のスーパースポーツとさえも一線を画すシャシーの剛性感とスタビリティは格別です」とオーナー氏。

「今後はラジエター容量を拡大したいし、イベントなどにも積極的に参加して、多くの方にこのクルマの“走る姿”を見てほしい。あとは……将来的に折り合いがつけば、世界5台のLM仕様が全部日本にあるので、それもほしいな、と」

 乗る側にも、見る側にも、夢を見させてくれる1台である。