2017年09月06日 10:22 弁護士ドットコム
社員旅行や会社の飲み会などに使われる親睦会費。給料から天引きされているという人も多いようですが、その使い方や返金について、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに相談が複数寄せられています。
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毎月1000円の親睦会費が給料から天引きされているという女性は、会社の忘年会で二次会まで終えた後、解散かと思いきや「(三次会は)女性は連れていけない所」と男性社員だけで風俗に行ったそうです。「会費を男性社員が好き勝手使っていて口出しができない」と嘆いています。
また保険会社に勤めているという女性も、「強制的に天引きされ、(社員旅行に)参加不可能だと言っても全額返金されません」と訴えています。
会に参加できなかった人は、天引きされている会費を返金してもらうことは可能なのでしょうか。会社は親睦会費についての会則や規則を定めて、社員に説明する義務はないのでしょうか。戸田哲弁護士に聞きました。
「色々な会社で何気なくされている給与の天引きというのは、実は簡単にはできません。」
戸田弁護士はそう指摘します。どういうことでしょうか。
「労働基準法には、『賃金の全額払の原則』(労働基準法24条1項)という原則がありまして、会社が勝手に賃金の一部をカットすることは許されないからです。給与天引きをするためには、労使協定で、『親睦会費を差し引く』ことを決めておくか、個別の社員が同意をしていることが前提になります。
こうした労使協定もなく、会社が勝手に親睦会費を天引きしている場合は、返金を求めることが可能です。まずこれが前提です」
では労使協定があった場合、懇親会や旅行への不参加を理由に、返金を求めることはできるのでしょうか。
「社内旅行で使うことを目的とした『旅行積立金』の場合であれば、使い道が明確に特定されています。これは旅行目的で社内預金をしているのと同じです。旅行不参加の場合は、預けていたお金が使われなかったことになるわけですから、返金を求めることはできるでしょう。
会社は、社員旅行の参加を強制することはできません。病気などの突発的な事情で不参加になってしまうこともあるわけですし、この結論は妥当でしょう」
単に『懇親会費』という名目で天引きされていた場合はどうでしょうか。
「この場合、一応社員が親睦を深めるための『懇親会』に加入していることが前提になるのが通常です。懇親のための使い道は、飲み会、親睦会、レクリエーションなど様々で旅行積立のように目的や金額を特定することが難しいです。そうした意味で、個々人の支出の内訳は度外視して、懇親会参加者全体のために会費が使われる結果となることが多いのが実情です。
不公平な感じもしますが、ご相談のように『三次会に参加しないから一部返金を求める』ということは難しいでしょう。勝手な使い方にどうしても我慢できない場合、『懇親会』から脱会して、以後の天引きを一切拒否する、ということは選択肢の一つかもしれません」
こうした天引きについて、会社は社員に説明する義務はないのでしょうか。
「実は、会社に求められているのは、先ほどお話しした労使協定を取り交わすだけでして、詳細な規定を設けたり、具体的な使途を社員に説明するまでの義務はありません。とはいえ、その使い道等で不公平な結果になるのは、ご相談のとおり。可能な限り会社で規定を定めるのがベターなのは言うまでもありません」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
戸田 哲(とだ・さとし)弁護士
千葉県弁護士会労働問題対策委員会副委員長。労働者側・使用者側の双方の事件を数多く取り扱い、「労働」分野の総合対応を強みとする。労働事件専門講師経験も多数(弁護士会主催研修、社会保険労務士会主催研修、裁判所労働集中部主催労働審判員対象研修等)。Ⓡ労務調査士
事務所名:西船橋法律事務所
事務所URL:http://roudou.nishifuna-law.com/