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『過保護のカホコ』黒木瞳は”ヘリコプターペアレント”からの脱却なるか?

2017年09月06日 07:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『過保護のカホコ』で、黒木瞳が演じるカホコ(高畑充希)の母・泉。カホコを毎朝起し、お弁当を作り、駅まで送迎し、カホコの帰りが少し遅いだけでも大騒ぎ。史上最強の箱入り娘を作り出した泉は、上空を旋回するヘリコプターにように、子どもを干渉・管理する「ヘリコプターペアレント」の典型だろう。


(参考:高畑充希演じる加穂子は本当に“社会不適合者”なのか? 『過保護のカホコ』共感度低い主人公の魅力


 たしかに娘の就活相談に口を出したり(実際には、自分ではなくカホコの口を通して質問攻め)、インターンを見学したり、娘が独立宣言すれば家出するという子供じみた態度にはまったく共感できない。だが、回を追うごとに泉の気持ちにも少しは理解できる、それどころか、もしかすると自分もそんな母親になってしまうかもしれないと恐怖心さえ抱きはじめる人も多いのではないか。


 度を超した過保護ぶりから「毒母」などと称されることもあるが、泉は決して悪い母親ではない。炊事、洗濯、掃除すべてを完璧にこなし、身だしなみもいつだってキレイ。コップに水滴ひとつ残さないまじめで几帳面な性格が、子育てに悪影響を与えてしまっているだけなのだ。


 そんな泉に、子離れするよう促したのは実母の初代(三田佳子)だった。泉は、カホコにできるだけのことをしてあげたい、後悔したくないと反論するが「子育てで後悔しない母親なんていない」「最後は覚悟を決めるしかないわよ。たとえ転んでも立ち上がると信じて。愛するより信じるほうが難しいんだから」と諭される。


 第5話で、泉は「カホコを甘やかし過ぎちゃったのかな」と認めている。本当はそんなこと、本人だってとっくに気付いていたはずだ。それでも、手塩にかけて育てたかわいい娘を、なんのキッカケもなく世間の荒波に放り出すのは難しい。そのキッカケが、カホコと麦野初(竹内涼真)の出会いであり、カホコ自身の成長。今こそ、泉が母として進歩する絶好のチャンスなのだ。


 実際、泉は「自由放任主義でいきましょう」と、カホコと距離を置き始めた。極端ともいえるそのやり方に違和感はあるが、そこまでしなければ子離れできないという泉なりの覚悟ともとれる。


 だが、そんな矢先に訪れた、カホコと麦野の結婚宣言。娘の交際に免疫のない泉が、結婚という急展開に「そんなに甘くないわ」「真剣に反対させてもらいます」と言い放つのは当然のこと。むしろ、麦野の「バイトでも何でもして加穂子さんに苦労かないようにして、いつか一人前の画家になれるように頑張ります」という言葉には、「せめて、社員として働きながら画家の夢を追っておくれ」と、完全に泉サイドに感情移入してしまった。


 もちろん麦野は「どれだけ世の女性を虜にすれば気が済むんだ」と思えるほどの良い男。それでも親は、我が娘の結婚となれば、安定した職業についた相手を見つけてほしいと願うもの。以前泉が発した「世の中で一番関わっちゃダメなのは、役者とミュージシャンと画家の卵」という言葉は時代錯誤のようにも思えるが、いつの時代も親は子どもに苦労させたくない、幸せになってほしい、正しい道を歩ませてあげたいと必死なのだ。


 良き妻、良き母である初代が育てた娘たちは、泉をはじめ問題だらけの3姉妹。それに対して、泉の娘であるカホコは「人を幸せにする仕事がしたい」と願うまっすぐな女性に育っているという皮肉も、このドラマのおもしろさ。麦野やカホコの親族を見てもわかるように、子育てに正解はない。それでも親には、覚悟を決めて自分なりの答えを出さなくてはいけない時がやってくる。初代の病、カホコの結婚という山積みの課題を、母として今まさに発展途上の泉はどう乗り越えていくのか。根本家の女王様が導き出す答えを、ほんの少しの共感とともに見届けたい。


(nakamura omame)