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Aimerの歌声は様々な音楽を輝かせ続けるーー初武道館公演で示した「楽曲の芳醇さと“声”の特別さ」

2017年09月05日 10:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Aimerが8月29日、初の日本武道館単独ライブ『Aimer Live in 武道館 “blanc et noir”』を行なった。この公演は、Aimerというシンガーによる「歌」の強度と、そして彼女を支えるクリエイターたちが届ける「音楽」の特別さを改めて教えてくれた一夜だった。


 この日のライブは、初の武道館公演とあって、チケットが即完になるなど話題性も高く、ステージはより多くの観客に歌を届けられるよう360度に開放され、バンドメンバーとAimerが回転しながら全方位に向き合うセットが組まれていた。バンドメンバーはおなじみagehaspringsの野間康介(Key/バンマス)をはじめ、三井律郎(Gt)、佐々木“コジロー”貴之(Gt/Vn)、高間有一(Ba)、張替智広(Dr/onetrap)、柳野裕孝(Mp)と手練揃いだ。


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 このライブ前にリリースされたベストアルバム、そして彼女のファンクラブ名は、この日のタイトルである『blanc et noir』(白と黒)。Aimerはこの日のライブについて「いつも通り丁寧に」「この武道館のステージをこの日限りにするつもりはありません」と話していたが、とはいえ特別な一夜であることに変わりはなく、セットリストもパフォーマンスも、演出の一つ一つに至るまで細かい意匠が凝らされていた。


 ライブは薄暗い照明のなか、冒頭に1stアルバムの1曲目としてプロローグ的な位置付けとなる「TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」からスタート。楽曲が終わると、一気に客電が明転し、白いドレスを着たAimerによる「スピカ」から“blanc”パートへ。「あなたに出会わなければ ~夏雪冬花~」「星屑ビーナス」「Re:pray」と初期の楽曲を立て続けに歌唱した。初期のライブは彼女の顔が見えないように行なわれることが多かったこともあり、どこか暗いイメージを持たれがちだが、今回の構成に当てはめることで初期楽曲も新たな価値観・温かさをもって提示されていく。


 彼女は自身のキャリアについて、3rdアルバム『DAWN』の前後で取り巻く環境が変わったことを「夜明け前・後」と度々表現する。そんな「夜明け後」の楽曲であり、ベストアルバムに収録された新曲「March of Time」から、野田洋次郎(RADWIMPS)の提供曲「蝶々結び」へと優しく物語が紡がれていく。このパートにおけるAimerの歌は、優しく諭すように、まるで語り部が童話を読み上げるように、ふわりと心を包み込んでくれる。


 かと思えば、照明が切り替わり、センターステージの色やAimerとバンドメンバーの衣装が白(blanc)から黒(noir)へと変化。彼女のライブにおいてこれまでも転換のキーとなってきた、TK(凛として時雨)作曲の「us」から、「noir」パートがスタートする。そこから「holLow wORlD」「LAST STARDUST」と打って変わって激しく感情をぶつけるロックな楽曲が続き、3rdアルバム『DAWN』誕生のきっかけとなった重要曲「Brave Shine」で、前半パートとは真逆の鋭利な歌声を響かせる。


 彼女が「いただいたときから虜になって何回も何回も聴きました」と語るのは、ここで初披露した、梶浦由記プロデュースの新曲「花の唄」。梶浦らしいエキセントリックな構成や複雑なコード進行に思わずニヤリとさせられつつ、それを難なく自身の歌で従えてみせるAimerの歌唱力に改めて感嘆する。続く澤野弘之の手がけた「RE:I AM」は、Aimerがロックの路線へ初めて踏み出した1曲。その軌跡を大事に振り返りながら、同路線の新曲としてベスト盤に収録した「zero」をパフォーマンスするというのも、原点と今を往来するこの日のライブにふさわしい構成だ。野間をはじめとするバンドメンバーの演奏も、曲を追う毎に激しく、よりエモーショナルになっていくが、その音の壁をも難なく越えてくるのもまた、Aimerの声が持つ“強さ”の証左だろう。


「ここからが新しい始まりです。これからも皆さんと音楽と生きていきます」


 Aimerはそう告げ、Taka(ONE OK ROCK)の手がけた「Stars in the rain」を披露。どこまでも続く星空のように、この後も続く壮大な彼女の物語と現在地を彩る楽曲で、本編を締めくくった。


 アンコールでは、ファンとのユルい触れ合いで会場の空気をリラックスさせながら、観客もスタンドアップし、手拍子に合わせて「AM02:00」をパフォーマンスしたかと思えば、最新曲である「ONE」は、これまでAimerが積み上げてきたディスコグラフィーには存在しない、既存のファンが面食らうほどアップテンポなダンスナンバー。Aimerをさらに広い地平へと誘うであろうこの曲が、先述した「花の唄」と同じシングルに収録されるというのは、ある種の痛快さすら覚える。


 そして、最後は「ずっと大切にしたい、私の始まりの曲です」と前置きし、客電が落とされた空間で、野間の伴奏に合わせてデビュー曲「六等星の夜」を歌唱。筆者もアニメ『No.6』のエンディングテーマであるこの曲でAimerを知り、以降彼女の音楽に魅了されてきたが、それはこの日訪れた観客の多くもそうだろう。Aimerは感極まりながらも楽曲を歌い上げ、ライブは終了した。


 この日の公演を見て、改めて感じたのは、玉井健二氏(agehasprings)を含めたクリエイターとスタッフが、プロジェクトを通して積み上げてきたAimer楽曲の芳醇さと、そのテイストが期せずしてか『blanc et noir』(白と黒)、つまりR&Bやファンクといった黒人音楽と、UKロックやブルー・アイド・ソウルといった白人音楽を参照点としている良質なポップスであること。そしてそのジャンルや歴史の横断すべてを滑らかに繋ぎ合わせるAimerの“声”がいかに特別であるか、ということだ。


 ライブ中には、「六等星の夜 Magic Blue ver.」がコニカミノルタプラネタリウム“天空”のリニューアルテーマソングになったことが発表された。プロローグを飾った「TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR」から、本編最後の「Stars in the rain」、アンコールラストの「六等星の夜」と、Aimerの楽曲には度々「星」がテーマに用いられる。世界中のどこに居ても見える星空が同じであるように、彼女の歌声はこれからも様々な音楽を輝かせる存在になり得るだろう。そんなことを感じずにはいられない、特別な一夜だった。(中村拓海)


■セットリスト
INTERLUDE TWINKLE TWINKLE LITTLE STAR
1.スピカ
2.あなたに出会わなければ~夏雪冬花~
3.星屑ビーナス
4.Re:pray
5.カタオモイ
6.March of Time
7.蝶々結び
8.us
9.holLow wORlD
10.LAST STARDUST
11.Brave Shine
12.花の唄(新曲)
13.RE:I AM
14.zero
15.Stars in the rain
En1.AM02:00
En2.ONE(新曲)
En3.六等星の夜