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夫婦間での窃盗は犯罪? 「私の通帳を金庫に隠された」「クレカを勝手に使われた」

2017年09月05日 10:03  弁護士ドットコム

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自宅で物がなくなったら、自分、あるいは外部から侵入した第三者、それとも他の家族を疑うでしょうか。インターネットのQ&Aサイトには、あろうことか、「配偶者に盗まれた」という夫婦トラブルが多数、寄せられています。


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Mさんの家では、夫専用の金庫に、Mさんの通帳や印鑑、保険証などが入っており、何を言っても金庫を開けてくれないそうです。Mさんは偶然に金庫の番号を知り、隙を見て開けているそうですが、「夫が訴えたら私の窃盗罪は成立するのでしょうか?」と心配になっています。


また別のケースですと、Kさんという女性は、クレジットカードを「紛失」したことに気づき、カード会社に停止してもらいましたが、すでにガソリンスタンドで使われていたと言います。しかしその数日後、問い詰めた末に、夫の犯行だったことが明らかになりました。「夫に対してすっかり絶望して離婚も考えています」というKさん。


夫婦間においても、窃盗罪により刑罰を受けることがあるのでしょうか。服部啓一郎弁護士に聞きました。


●預金通帳を金庫で管理、犯罪は成立する?

預金通帳、印鑑、保険証を、夫婦のどちらかが一方的に自分の金庫に保管すると犯罪が成立するのでしょうか。


「窃盗罪(刑法235条)とは、他人が占有(支配)する物を、無断で、自己の占有に移す行為であると考えられています。Mさんのケースでいえば、預金通帳は自宅から持ち出されていませんが、金庫に入れて施錠されると、Mさんが取り出すのは困難です。したがって、預金通帳が夫の管理する金庫に保管された時点で、預金通帳の占有が、夫に移ったと評価できます。


また、夫が預金通帳を出してくれないのは、Mさんの預金通帳などを持ち出して利用する目的があるからかもしれません。夫が、妻の預金通帳などを、一方的に自分の金庫に保管した行為には、窃盗罪が成立する可能性があります。


なお、最初に預金通帳などを金庫に保管するときはMさんも同意していたという場合は、夫に窃盗罪は成立しません。ただし、保管した後に何度頼んでも夫が金庫から出してくれなくなったという時点で、夫に、横領罪(刑法252条)が成立する可能性はあります」


Mさんは、偶然に暗証番号を知り、夫の目を盗んで金庫を開けているそうだ。この場合、結論に影響はあるのだろうか。


「影響はあります。なぜなら、金庫を開けられるのであれば、預金通帳などの占有が夫に移ったと言い切ることができるか、疑問が生じるからです。


一方、Mさんが暗証番号を知ったのは偶然であること、夫がいる前では金庫を開けられないという事情もあるので、夫に窃盗罪や横領罪が成立すると判断される可能性は残ります」


●夫婦間の窃盗で処罰はある?

夫婦間の犯罪であっても、刑罰を受けるのだろうか。


「夫婦間、親子間などにおける窃盗、横領、詐欺罪については、刑罰を免除するという制度があります。『親族相盗例』(刑法244条ほか)といいます。


Mさんの預金通帳を夫が一方的に金庫に保管していることについて、犯罪が成立する可能性はありますが、刑罰は免除されるため、実際に処罰されることはありません。


夫婦や親子間の財産トラブルの相談が寄せられることは多いので、これで本当に良いのか疑問はあります。親族相盗例の廃止も含め、議論が必要でしょう」


●妻名義のクレジットカードを勝手に使ったら?

次に、Kさん夫婦のように、妻名義のクレジットカードを無断で持ち出して利用することは犯罪になるのだろうか。


「まず、夫がクレジットカードを無断で持ち出した時点で窃盗罪が成立します。次に、ガソリンスタンドで妻名義のクレジットカードを使ったことについて、詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性があります。


カード会社の規約では、名義人以外がそのクレジットカードを利用することは禁じられています。また、加盟店側(ガソリンスタンド)は、実際にクレジットカードを利用している人が名義人本人であるかどうか確認する義務があるとされています。


したがって、名義人本人以外が名義人本人と偽ってクレジットカードを利用して商品やサービスの提供を受けることは、取引の重要部分について嘘をついたことになり、詐欺罪が成立します(最高裁判所平成16年2月9日決定)」


●夫が刑罰を受ける可能性は?

Kさんの夫は、実際に刑罰を受けるのだろうか。


「まず、クレジットカードを無断で持ち出した点ですが、一般的に規約上、クレジットカードは、カード会社から契約者に『貸与』されているものであり、所有権はカード会社にあります。


難しい問題ですが、親族相盗例が適用されるためには、犯人(夫)と占有者(Kさん)との間だけでなく、犯人と所有者(カード会社)との間にも親族関係がなければならないとされています(最高裁判所平成6年7月19日決定)。


そうするとKさんの夫の窃盗罪について、親族相盗例は適用されず、実際に処罰される可能性があることになります。また、ガソリンスタンドに対する詐欺罪については、被害者はお店ですから、親族相盗例は適用されません。


もっとも、実際問題として、配偶者名義のクレジットカードを利用し、それをお店側も黙認しているケースはあると思います。たとえ『他人名義のクレジットカードの利用』であったとしても、夫婦や親子のような近しい者の利用の場合に詐欺罪で処罰して良いのかという意見があります。一方、先ほど述べたように、配偶者や親子間の財産トラブルは絶えません。最高裁判所は、この議論に対して明確な判断をしていないので、未解決の問題といえます」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
服部 啓一郎(はっとり・けいいちろう)弁護士
これまで刑事事件や債務整理事件を多数受任してきた。
弁護士登録後1年で独立。2013年4月に、パートナーとして深澤諭史弁護士を迎える。
現在は、刑事事件、IT関連事件、債権回収などを精力的に取り扱う。
事務所名:服部啓法律事務所
事務所URL:http://hklaw.jp/