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米ビルボード記者に聞くK-POPの躍進 PSYから防弾少年団まで

2017年09月04日 21:01  CINRA.NET

CINRA.NET

防弾少年団
2016年、韓国の男性7人組グループ防弾少年団のアルバム『WINGS』がアメリカ・ビルボードのメインチャートの1つ・ビルボード200チャートで26位にランクインした。彼らは今年5月に『ビルボード・ミュージック・アワード』トップ・ソーシャル・アーティスト部門に輝き、韓国アーティスト初のビルボードアワード受賞という快挙を成し遂げた。翌月には『TIME』誌が選ぶ「インターネット上で最も影響力のある25人」にも選ばれている。

また7月にリリースされた、ダンスボーカルグループEXOのアルバム『The War』は、発売されるやいなや各国の音源チャートを駆け上り、オーストラリア、フィンランド、スウェーデン、アイルランド、イスラエル、ポーランド、アルゼンチン、ペルーなどを含む40を超える国と地域のiTunesチャートで1位に輝き、アメリカでも2位を記録。アジアを超えて、北欧や東欧、南米にもその人気が拡大していることを証明した。

かつて日本でも「韓流ブーム」を巻き起こした韓国のエンターテイメントは、英語圏でも「Korean Wave」として注目されたが、そのブームが一段落した2017年現在、K-POPアーティストたちがアジアを超えてグローバルに活躍する理由はどこにあるのだろうか。CINRA.NETでは、アメリカ・ビルボードのK-POPコラムニストであるジェフ・ベンジャミンに、アメリカでのK-POP人気について話を聞いた。

ジェフ・ベンジャミンはビルボードやFuse TVをはじめ、New York Times、Rolling Stone、BuzzFeed、Nylonといった現地のメディアでK-POPについて寄稿している、アメリカにおけるK-POP識者の1人。多くのK-POPアーティストに実際に会ってインタビューした経験を持つベンジャミンの言葉を通して、K-POPの世界規模の広がりについて紐解いてみたい。前編・後編の2回にわたってインタビューをお届けする。

■“カンナムスタイル”のヒットがもたらしたもの――「韓国語でもポップミュージックはできる」

アメリカでは、2012年からヨーロッパや中東などの地域と並んで『KCON』と呼ばれる韓国カルチャーのコンベンションが行なわれている。カリフォルニアでの初開催以来、ロサンゼルス、ニューヨークなどを巡り、多くのK-POPアーティストが紹介されてきた。『KCON』は年々規模を拡大して観客動員数を伸ばしており、ベンジャミン自身もモデレーターとして登壇している。いまやK-POPの最新の情報源としても英語圏のファンから熱い視線を注がれるベンジャミンは、どのようにしてK-POPに出会い、のめり込んだのだろうか。

ベンジャミン:子どもの頃からどんな言語でも音楽を通して人は繋がることができる、という考えを持っていました。シンガーで音楽学校に通っていた母が、イタリアのオペラから中東のダンスミュージックまで、あらゆる音楽を家で流していたことの影響が大きかったと思います。
私自身は初め、J-POPやラテンミュージックを聴いていたんですが、だんだん私が尊敬する音楽ライターや評論家たちが韓国の音楽やK-POPに注目するようになったんです。それですぐK-POPを聴き始めたわけではないものの、自分が気に入る曲やPVがいくつかあって、そこからそのほかの音楽と同じくらいK-POPを追うようになりました。

ベンジャミンのような専門家を除いて、多くの欧米人に韓国の音楽を印象づけたのはPSYの2012年の楽曲“カンナムスタイル”のヒットだろう。“カンナムスタイル”は乗馬のようなダンスが人気を博し、YouTubeを通して世界的な大ヒットを記録。今年7月にWiz Khalifa“See You Again ft. Charlie Puth”に更新されるまで、YouTubeの再生回数記録で世界1位の座を守っていた。

ベンジャミン:アメリカでのK-POPの認知度を上げたという点だけでも、“カンナムスタイル”のヒットはとても重要な出来事だったと思います。実際、“カンナムスタイル”が発表された次の年に、YouTubeでのK-POP関連のビデオの再生回数が2倍になったそうです。いずれにせよ、あの曲のヒットによって「韓国語でもポップミュージックはできる」ということを自然と受け入れるようになった人は増えたと思います。

“カンナムスタイル”のバイラルヒットには、曲のキャッチーさもさることながら、特徴的な「馬ダンス」が大きな役割を果たした。PSYは防弾少年団やEXOのような若いイケメンのボーイズグループとは違い、でっぷりとした身体から軽やかに言葉を繰り出すおじさんラッパーだが、そのコミカルな動きがYouTubeで爆発的に再生されたからこそ、言葉の壁を越え、ニッチなファンだけでなく大衆的な人気を獲得することに成功した。

ベンジャミンは、PSYの世界的ヒットと現在のアメリカでのK-POP人気を比較して、2012年のPSYのような「どメジャー」なK-POPアーティストはいないとしながらも、ファン層の拡大について次のように語っている。

ベンジャミン:近年はバイラルソングに頼るのではなく、もっと健全で確実な方法でファンが増えていっていると思います。アルバムのセールスは2012年から年単位で増加していて、2016年には防弾少年団の『WINGS』がK-POPアーティスト史上最高の週間セールスを記録しました。
それから、より長期間のツアーを組んで小さい都市を訪れるグループも増えましたし、『KCON』の観客数も毎年増加しているので、いかにアメリカでK-POPのファンダムが拡大しているかがわかりますよね。こういう動きはメディアがもっとK-POPのことを知って、取り上げていく必要があると思うので、私も一役買えたらいいなと思っています。

■アメリカのファンが新鮮さを覚えるK-POPの魅力。キーワードは「包括的」

着実にファンダムの拡大を続けるK-POPだが、その躍進を支えるアメリカのK-POPファン層はとても多様だという。

ベンジャミン:私がK-POPのライブに友達を連れて行くたびに、ファンの多様さに驚かれます。K-POPファンの多くを占めるのはアジア系アメリカ人のようですが、その次に多いのはラテン系の人々だと何かで読んだことがあります。それからムスリムや白人のファンもたくさんいますよ。多くは若い女性ですが、ヒップホップ系のライブだともう少し上の世代の観客もいます。

事実、YouTubeにアップされているK-POPの動画のコメント欄を見ると、韓国語、中国語、日本語、英語、アラビア語、スペイン語など、実に多様な言語で溢れている。ベンジャミンも「YouTubeに多くのコンテンツがあることや、SNSに注力していることでK-POPはアクセスしやすくなったし、新しいファンも増えている」と語る。

ではアメリカのK-POPファンにとって、K-POPの何が魅力なのだろうか。

ベンジャミン:音楽的には、ヒップホップ系のアーティストがたびたび人気を獲得してきました。BIGBANGや2NE1がアメリカで最初にアリーナツアーを行なった韓国アーティストのうちの1組だというのもこのためだと思います。またBIGBANGもそうですが、B.A.P、Seventeen、MONSTA X、防弾少年団のように、メンバー自身が曲作りに携わり、自分たちの音楽と深く関わっているというのも人気の理由の1つになっていると思います。

韓国ではヒップホップはジャンルとして大衆的な人気があり、国内のチャートでも上位に入る。だが一言でK-POPといってもグループごと、曲ごとにその音楽性はかなり多様で、基本的には欧米の流行りに追従しており、ダブステップ、トラップ、トロピカルハウスなど、その時々で流行りのサウンドを取り入れるのが早いしうまいのが特徴だ。

その音楽以上にK-POPをK-POPたらしめているのは、よくできたK-POP産業のシステムそのものだろう。デビュー前から徹底的に教育する事務所の練習生制度や私生活でもメンバー同士で共同生活させる管理っぷり、そして曲から振付、衣装、ビジュアルまで1つのコンセプトに基づいて完璧にパッケージングされた作品群。J-POPではアイドルファンがメンバーの未熟さや不揃いであることを愛でるような側面があるが、K-POPにおいてパフォーマンスは一様に高いレベルで均質化されており、それが故に似たようなグループも数多くいる。こうしたK-POPグループの特徴は、アメリカのアーティストたちと比べてもとても新鮮に映るのだという。

ベンジャミン:K-POPのアーティストはグループのチームワークや、一糸乱れぬダンスの振付に力を入れ、クリーンでセーフなイメージがありますが、アメリカのスターの多くは個々の表現に力を入れて、ビジュアルにはそこまで重きを置かない。それに議論を呼ぶものであればあるほど良いというようなところがあります。

またベンジャミンはK-POPはジャンルではなく、1つの音楽シーンだと前置きしながら次のようにも語っている。

ベンジャミン:K-POPを定義づける特徴があるとすればとても「包括的である」ということでしょうか。K-POPは最大限にハードルが低く、それでいて幅広い音楽性を可能にするため、あらゆるジャンルの音楽や歌唱法、曲の構成、ビジュアル、振付、コンセプトをはじめとするたくさんの要素を包括しようとしていると思います。

今回は韓流ブーム以来、再びK-POPに欧米の目を向けることとなった“カンナムスタイル”の功績や、アメリカのファンが感じるK-POP独自の魅力について語ってもらった。次回は防弾少年団のビルボード受賞の意義、NCTをはじめとする期待の新人グループについて話を聞く。