9月5日に発売となる「乗るべしスーパーカー」の発刊を記念して、この本の主役である気鋭のフォトグラファー・悠佑氏が切り取った珠玉の写真たちと、オーナーとスーパーカーのライフストーリーをご紹介。その栄えあるトップバッターは「ランボルギーニ・チェンテナリオ」だ。
●Car Details
Lamborghini CENTENARIO
Text:Fumiaki HARA
ランボルギーニの創業者フェルッチオ・ランボルギーニは、数多くの逸話を持つ生粋のクルマ好きとしても知られている。その名物オーナーの誕生100周年を記念し発売されたのが、チェンテナリオ(センテナリオとも)と名づけられたスペチアーレだ。
2016年のジュネーブショーでお披露目されたチェンテナリオは、基本コーポネンツこそアヴェンタドールの流れを受けるが、カーボンファイバーのボディキットや4輪操舵システム、770PSまでチューンナップされた自然吸気V12エンジンなど、妥協を許さないチューニングが施されている。0-100km/h加速は2.8秒という数字からも、その速さを伺い知ることができるだろう。なお生産台数はクーペ20台、ロードスター20台の合計40台のみ。完全限定車という希少価値でも圧倒させられる。
●Owner's Story
世界に1台かもしれないレッド・ビジブルカーボン仕様
A氏/Text:Jun NISHIKAWA
大きくなったら、免許を取ったら、お金持ちになったら、何でもいいからとにかく、「スーパーカーに乗るぞ!」
スーパーカーブーマーたちの、それは真実一路な子供時代の夢でした。多くの子供たちが、やがて成長し、免許を取り、クルマを買うようになっても、そこには仕事があり家庭があり事情が山ほどあって、ほとんどの人はスーパーカーへの想いをいつしか忘れ、諦めてしまうもの。それがオトナに辿り着いた自分への、まるで証明であるかのように。
けれども、子供の頃の夢を決して諦めず、仕事を拡げ、家庭を守り、事情を克服して、子供のココロを持ったまま、スーパーカーに辿り着いた格好いいオトナたちも、決して少なくありません。
夢は、きっと自分の手で叶えるもの。ただその一心で、自らを信じて生きてきたものだけがスーパーカーの“ビハインド・ザ・ホイール”に辿り着く。それは、他の夢にも共通する、真実というべきでしょう。
スーパーカーを愛車にする、もうそれだけでも夢のまた夢、なのかもしれません。けれどもなかには、さらに“さらにまた夢”のスーパーカー道を極めた凄い人たちがいる。たとえば、ランボルギーニの最新限定モデル、チェンテナリオをオーダーしたA氏は、新旧様々なスーパーカーを乗り継いで、世界限定20台のランボルギーニに行きつきました。
スーパーカーファンにとって、これほど羨ましいことはない。ランボルギーニ社に、彼は“世界の20ベスト・オーナー”のひとりだと認められたわけですから。時代がフェルッチオ時代だったなら、スーツを着込んだ赤ら顔のおじさんが、ごつい手を差し出して、「君もこれでランボルギーニファミリィの一員だよ」、などと言いながら抱きしめてくれたことでしょう。
今となってはフェルッチオが天国から手を振ってくれていることを願うばかりですが、A氏はチェンテナリオのオーダーを通じて、正にファミリィ同然の厚遇で何度もサンターガタに招かれています。
世界20台限定。しかも日本へやってくるクーペのチェンテナリオはA氏の個体のみ。仕様を決めるにあたって、彼がまず頭を悩ましたのは、カラーリングでした。ジュネーブショーのチェンテナリオ発表会に参加したA氏でしたが、ショーカーと同じビジブルカーボン仕様にするかどうかだけはすぐに決めなければならず、結局、コストも正確には知らされないままに、ビジブルカーボンを選びます。
しかも、当初はショーカーと同じブラックカーボン仕立てのみ、という話だったものが、サンターガタのアド・ペルソナム(特注部門)に彼が改めて出かけてみれば、ブラック以外にレッド、ブルー、グリーンが使えるという。悩みに悩んだ結果、彼はレッドカーボン仕様を選びました。
赤カーボン仕様と決めたのち、日本に1台、つまりは日本代表であることを意識した氏は、さし色にホワイトをチョイスします。こうして、日の丸をイメージしたチェンテナリオが生まれることになりました。クーペ・ロードスターを通じて、エクステリアにレッドカーボンを使ったチェンテナリオは今のところ他にない、らしい。光の具合でいろんな表情をみせる、赤いカーボン&レザーインテリアも鮮やかなA氏のチェンテナリオは、いっそう貴重な個体となったのです。
仕様を決めるために二度、生産途中で一度、そして完成し日本へ送り出す日にもう一度、ジュネーブショーをカウントすれば合計なんと5回も、A氏はヨーロッパへ飛んでいます。その思いの強さには、ただただ敬服するほかありません。そんなA氏とチェンテナリオに負けない、熱きスーパーカーオーナーとその愛車が、この本の主人公。新進気鋭のフォトグラファー・悠佑氏の撮り下した写真には、それぞれのオーナーたちの果たした“夢のまた夢”が果たせぬ多くの人へと発したメッセージが宿っているかのようです。
夢を、絶対に、あきらめるな、と......。
自動車ライター西川淳2017年8月21日ペブルビーチにて