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the GazettEは“ヴィジュアルロックの最高峰”だーー9年ぶり『BURST INTO A BLAZE 3』の衝撃

2017年09月03日 11:52  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 ステージ上には無造作に積まれた無数のスピーカー。その造形は富士の姿を思わせる。黒々としたステージに映える無数の真っ赤な三角旗。


参考:the GazettEがバンドの真髄を見せつけた夜ーースタンディングツアー新木場公演をレポート


「地獄へようこそ!!」


 RUKI(Vo)の叫びとともに一万人が一斉に頭を振る。通路に出て地べたに這いつくばって頭を振るオーディエンス。富士の袂、真夏の涼しい夕暮れに不釣り合いな前後左右に振り乱れる無数の髪柱。そんな地獄絵図も“ヴィジュアルロックの最高峰”を讃えるにふさわしい圧倒的な光景だ。


 今年15周年を迎えたthe GazettEが8月19日、9年ぶりに富士急ハイランド・コニファーフォレストに還ってきた。


 オーディエンスの大歓声に迎えられながらステージに現れたメンバーがドラムを囲むと、麗(Gt)がダーティーなリフを鳴らす。『the GazettE LIVE IN SUMMER 17「BURST INTO A BLAZE 3」』は「Nausea & Shudder」で火蓋が切られた。9年前の2008年8月23日、この場所で同曲を演奏した際は、後半での大盛り上がりの中、機材トラブルに見舞われてライブの中断を余儀なくされた。そんないわくつきの曲をドアタマに持ってくるとは……思わず胸が熱くなったファンも少なくはなかったはずだ。


「おい、オマエら、今日、雨降ると思ったヤツ!」


 RUKIの問いかけに、大多数のオーディエンスが応える。前日リハーサルは雨模様で、RUKI本人も「終わった」と思っていたという。9年前も雨だった。天気予報は今日も雨。しかし、今、雨は降っていない。「オレらの願いとオマエらの願いが、この天気を呼んだよね!」。そう、「BRING GOOD WEATHER!」と題された晴天祈願企画が行われていたのである。メンバーとファンが作った無数の“てるてる坊主”が会場内を彩っていたのだ。雨は降っていないが、どこかどんよりとした空も、なんだかthe GazettEに似合っていた。


 この日のセットリストは、事前にリクエストが募られていた。とはいえ、今年3月に行われた『大日本異端芸者「暴動区 愚鈍の桜」』と比べれば、掲げたコンセプトもインパクトも正直敵うものではない。そういう意味で、今回のライブはレアな楽曲披露や15年の集大成というよりも、現在の彼らと共にこれから先へ向かおうとするビジョンが見えてくるような、そんな内容であったように思う。いつになく、ライブ映えする攻撃的なナンバーが多いセットリストだった。


 「INSIDE BEAST」「ATTITUDE」「VORTEX」といったデジタルなシーケンスとヘビーサウンドが融合するキラーチューンで畳み掛け、「GENTLE LIE」の鋭利なギターが虚を衝く。「REGRET」「FADELESS」と艶っぽい歌声を響かせるRUKIが、ワイヤレスマイクから真っ赤なワイヤードマイクに持ち替えていたのも印象的だった。


 the GazettEは自分たちの魅せ方、ライブの見せ方をしっかりとわかっているバンドだ。海外公演はもちろん、『SUMMER SONIC』をはじめ、『LOUD PARK』に『KNOTFEST』、『イナズマロック フェス』から『氣志團万博』まで多くの国内フェスに出演してきた。そして、今年は『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に初出演。「ヴィジュアル系バンドはフェスに呼ばれにくい」という通説もある中、ここまでジャンルレスなフェスへ出演しているバンドは、ヴィジュアル系以外でも珍しいだろう。かつては他ジャンルファンからの偏見ゆえに出演自体が物議を醸したこともあったし、正直歓迎されているとは言えないアウェイな環境もあった。しかし、結果として堂々としたステージを魅せ、大きな爪痕を残してきた。そうした百戦錬磨の叩き上げが、彼らを強く大きくしてきたのだ。


 お立ち台に足を乗せ、左手でマイクを握りながら、右手でオーディエンスを挑発していくRUKI。「ギターソロに酔いしれる」という表現が似合う麗と、対照的にクールにギターをかき鳴らす葵(Gt)。大股で低めに構えたベースを黙々と刻むREITA(Ba)、前のめりのビートと派手なフィルで隙なく攻めていく戒(Dr)ーーそんな5人のシルエットは、ハードロックでもメタルでも、パンクでもない、日本独自のロックバンドであることを示している。かつて、我々が海外のロックスターに憧れたように、今では海外のキッズたちが、the GazettEに憧れて楽器を手にしている。そんな様相をインターネット上で見かけることも珍しくはないのだ。


 野外の解放的なステージでの彼らを観て、改めてそんなことを思った。誰もが心の中に描いてたヒーロー。正義の味方よりも、その悪役のほうに憧れを抱いてしまう。ロックに目覚める人間、楽器を手にしてバンドをやろうと思う人間は、そういうタイプが多いような気もする。そんなダークなヒーローを体現しているのが、ヴィジュアルロックであり、the GazettEなのかもしれない。


 花道に躍り出たRUKIが艶めかしく腰を動かす「Psychedelic Heroine」、スピードと掛け合いコーラスで攻め立てる「SLUDGY CULT」で、会場内のボルテージを一気に加速させる。


 RUKIが「ホールと違って、メチャメチャ腹から声出さないと風に飛ばされちゃうんですよ! 今日はオマエらの声を聴きに来たと言っても過言ではないわけ。だからオレたちにオマエらのイカれた声をくれよ!!」と声をあげ、「VERMIN」「UGLY」「HEADACHE MAN」という無機質でインダストリアルなナンバーの総攻撃。メタリックなエッジ感と重力を持った濃密な歪みが襲いかかってくる。これぞ、the GazettEの真骨頂だ。そして、「関東土下座組合」で一万人の頭が波打つ地獄絵図を作り上げ本編は終了した。


 すっかり日が落ち暗くなった会場。ゆったりとしたアコースティックギターのストロークではじまったのは「LAST HEAVEN」。サビ始まりのリアレンジが美麗なメロディを強調させる。続く、「ガンジスに紅い薔薇」ではタイトル通り真っ赤に包まれた妖しくも美しい光景が広がった。かと思えば、「BLEMISH」「Ruder」で一変して、再び狂気の渦へとオーディエンスを突き墜とし、「LINDA ~candydive Pinky heaven~」の縦ノリでカオスティックなラストを迎えた。


「今日まで5人でいろんなことに挑戦し、いろんな景色を創り上げてきました。どんな辛いときも、このメンバーで立ち止まらずに乗り越えてきたから、9年前より成長して、またここに立つことができました。みんなも毎日いろんなことを乗り越えて、ここに集まってきてくれているんだと思うと、感謝の気持ちでいっぱいです!」


 ダブルアンコールでRUKIが感謝の意を述べながら、前回は「LEECH」の初披露だったと振り返る。そう、ヘビーサウンドに傾向したthe GazettEのスタイルが固まったのもあの頃、戒のドラムセットがツーバスに変わったのも9年前の『BURST INTO A BLAZE』だった。そして、同曲は初のオリコンデイリーチャート1位を獲得する。あの当時、海外で日本のバンドが注目され始めてはいたが、“Visual-kei”の浸透はまだこれからというときでもあった。そして、翌年2009年にはそんな“Visual-kei”を世界に発していくためのイベント『V-ROCK FESTIVAL』でのヘッドライナーを務め、the GazettEはその存在を揺るぎないものにした。この9年は、彼らにとって大きく飛躍した歳月であったのだ。


「夏はもうすぐ終わるけど、秋もその先も楽しいことをたくさん届けていくからさ、ここにいる全員に約束して帰ります。だからオレらに、迷わずついて来いよ!」


 RUKIのMCを経て最後の最後に送られたのは「TOMORROW NEVER DIES」。祝砲のごとく大輪の花火が漆黒の夜空に放たれ、会場全体が手をつないでの一斉ジャンプで、9年ぶりの真夏の祭典は締めくくられた。


 「秋もその先も楽しいことをたくさん届けていくから」という言葉どおり、終演後に流れた、3年ぶりとなるニューアルバムとハロウィンライブの告知。そのキービジュアルはダークで、ゴシック風で、グロテスクで、実にthe GazettEらしかった。“ネオ・ヴィジュアル系”などと呼ばれていた彼ら。15年の活動の間に、ヴィジュアル系氷河期であるとか、クールジャパンであるとか、彼らを取り巻く環境は変化した。メイクをやめたバンド、ブームに乗って再びヴィジュアル系に戻ってきたバンド……いろんなバンドがいる中で、彼らは自分たちのスタンスを崩していない。作品ごとに、貪欲な音楽探求を見せながらも本質は変わっていないのだ。イカつくて、黒光りしていて、ギラギラしているーー。この先もそんな“ヴィジュアルロックの最高峰”であり続けるのだろう。(冬将軍)