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DAOKOの声はなぜクリエイターを魅了する? “歌”と向き合った「打上花火」を聴く

2017年09月01日 20:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 8月16日にシングル『打上花火』をリリースしたDAOKOが、9月1日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出演。表題曲を歌唱することが決定している。


“音楽×映像”はライブ体験をどう拡張する? DAOKO、Kezzardrix、backspacetokyoに訊く


 DAOKOは、15歳の時にニコニコ動画に投稿したねこぼーろ(ササノマリイ)の「戯言スピーカー」をラップバージョンでカバーし、多くの音楽リスナーの興味を集めると、レーベル<LOW HIGH WHO? PRODUCTION>から立て続けに楽曲をリリースしたり、不可思議/wonderboyやm-flo、★STAR GUiTARなどの作品に客演した。そして、2015年に1stアルバム『DAOKO』でメジャーデビュー。この間は顔出しをせず正体不明の女子高生ラッパーとして活動してきたが、高校卒業を機に1stシングル『ShibuyaK / さみしいかみさま』から顔出しを解禁。今回の「打上花火」で先日の『スッキリ!!』(日本テレビ系)に続き、テレビでの生歌出演となった。


 と、キャリアを駆け足でまとめたが、彼女は“多才”のひと言では片付けられないくらい、様々なパフォーマンススタイルでその才覚を発揮するエンターテイナーだ。まず、DAOKOの魅力として挙げられるのは、やはり“ラップ”。活動初期のニコラップ時代から、どこか憂いを含んだ声、気だるげなフロウ、耳元近くから聴こえるようなウィスパーボイスも、聴き手をドキリとさせてやまない。<LOW HIGH WHO? PRODUCTION>時代は文化系的なユルさとエッジーな部分の同居したリリックとラップが特徴的だったが、この曲が収録されたメジャー1stアルバム『DAOKO』を機に、一気に彼女の音楽は洗練されたものへと進化した。それぞれの楽曲も彼女の制作したリリック・楽曲をベースに小島英也(ORESAMA)、TeddyLoid、井上拓などの気鋭の作家陣が加わることで、ポップでありながら実験的なクリエイティブが生み出され続けている。


 そして、彼女の魅力は「映像」のもつ魅力を最大限に引き出す“歌声”にもある。庵野秀明率いるスタジオカラーの吉崎響とタッグを組み、『日本アニメ(ーター)見本市』で公開された「さみしいかみさま」では、ファンシーさとグロテスクさの同居するアニメーションの世界観を見事に拡張し、アニメ『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』(MBS・TBS・CBCほか)のエンディング「拝啓グッバイさようなら」でも、切迫したラップと絞り出すような歌声で切なさを彩ってみせた。実写のMVでも、気鋭のクリエイターたちとコラボを続け、椎名林檎などのMV監督を務める児玉裕一氏の手がけた「BANG!」では、妖艶でキュートな歌唱と立ち振舞いを見せてくれた。


 そんなポップさとエッジーさを絶妙なバランス感覚で乗りこなしてきた彼女が、今回「歌」に真正面から向き合ったのが、岩井俊二の同名映画をリメイクしたアニメ映画『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の主題歌である「打上花火」だ。プロデューサーの川村元気氏は「(ヒロインである)なずなの声と重なるボーカリストが良くて、真っ先に浮かんだのがDAOKOさんだった。彼女の声は映画に感情やストーリーを与えてくれる」と、彼女の「声」が持つポテンシャルを高く評価したうえでの起用だと明かし、監督の岩井俊二も「彼女自身がアニメっぽい、二次元チックというか」と、浮世離れしたキャラクターに魅了されたという。


 楽曲は、共作曲に米津玄師を、共編曲に米津と田中隼人(agehasprings)を迎えた盤石の布陣で制作。切ない鍵盤のフレーズと緩やかなテンポのトラップ的なリズムマシンの音色が組み合わさったAメロ~Bメロ、それがフッと消え、打ち上がるように弾けて始まるサビ。DAOKOと米津の二声がユニゾンしたボーカルと、駆け上がるように展開するストリングスのアレンジが、聴き手の気持ちを高揚させてくれる。そしてなにより「夏の終わり」の情景をこれでもかというくらい鮮やかに浮かび上がらせるDAOKOの歌が、心に突き刺さってくる名曲だ。


 今回の『ミュージックステーション』の放送は、まさに夏の終わりともいえるタイミングということもあって、歌唱時にはより切なく胸を打ちそうだ。各分野のクリエイターを惹き付けてやまない彼女の声が、さらに広い地平へと届く痛快な瞬間は、もうすぐそこに迫っている。(中村拓海)