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足立佳奈の歌はなぜ人を惹きつける? メジャーデビューで示した天性の“ユーモア”と“明るさ”に迫る

2017年08月31日 06:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 岐阜県海津市出身の現役高校3年生のシンガー足立佳奈が、8月30日にメジャーデビューを果たした。その歌声を聴いて、筆者はすぐに引き込まれてしまった。彼女は間違いなく、「若くて可愛いシンデレラガール」という位置づけには、収まりきらない逸材だ。なんたって、彼女の名と音を一気に広めた楽曲であり、メジャーデビューシングルでも1曲目を飾っている楽曲のタイトルも「笑顔の作り方 ~キムチ~」という、ちょっと謎めいた、ピリリとパンチの効いたものなのだから。


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 ずっと歌手になりたいという夢を持っていたという彼女。でも、「現実を見なさい!」という想いを込めて、母親が『LINE×SONY MUSICオーディション』(2014年)に応募したところ、なんと12万5094人の中からグランプリを獲得したという、実力で周囲を納得させてしまった経歴を持つ。


 そして実力だけではなく、個性を発揮し始めたのは最近のことだ。グランプリ獲得後も、学業に軸足を置きながら歌やダンスのレッスンに励んでいた彼女。そんな中、「キムチ」が食べたくなり、冷蔵庫を覗くと「キムチ」がなかった……その時につぶやいた「キムチ…」という言葉で口角が上がって、笑顔になれることを実感し、その経験を歌にした15秒動画「キムチ~笑顔の作り方~」を2017年2月にTwitterにアップしたところ、中高生の間で話題になり、Tweetが2500万回以上のインプレッションを記録したのだ。その波及力は動画を真似してアップする中高生がたくさん現れたほど! そこからトントン拍子に、LINEバイトのヒロインに抜擢され、『新しい波24』(フジテレビ系)のMCにも起用され、LINE MUSICで配信した「キムチ~笑顔の作り方~」が、堂々の1位を獲得。現在サブスクリプションサービスでの総再生回数は100万回に迫る勢いだという。


 TwitterやLINEといったきっかけ、そして年齢からは「イマドキ」な匂いがするが、その歌に「同世代しか受け入れない」と思わせるような入り口の狭さは感じない。その証に、ぜひ「キムチ」とつぶやいてみて欲しい。ほら、口角が上がって自然と笑顔になっているはずだ。「キムチ~笑顔の作り方~」が彼女に踏み出させた大きな一歩は、老若男女が笑顔になれる楽曲を生み出す宿命と才能を持つシンガーであるということを、彼女自身と世の中に気づかせたと思う。また「キムチ~笑顔の作り方~」には<ららららら>という、誰もがすぐに口ずさめるようなフレーズが、たくさん登場する。ここからは、彼女自身もこの楽曲の入り口を広くしたかったのかもしれない、と想像できる。


 「キムチ」という言葉にそういった力があると「気づいた」ことも、彼女の才能のひとつだと思うが、その笑顔を生み出す言葉と彼女の歌声の親和性が、さらにこの楽曲の魅力を倍増させている。そう、とにかく彼女の歌声は、笑顔そのものといえるほどに明るいのだ。


 今作の2曲目の「ココロハレテ」では<これでいいのだっ!>という歌詞がちりばめられている。ここには、どんな結果でもこの言葉で全てがプラスになるように、という願いが込められており、くよくよしている感情を一掃してくれる。また、<そんなに嫌ならやめちゃえば>という歌詞は、「やめないで耐えて頑張れ」という風潮を軽やかに蹴散らす「本当に辛ければやめても良いんじゃない?」というメッセージになっており、ありきたりの「頑張れソング」に食傷気味な人さえも笑顔にしてくれる力を感じる。歌詞や曲、ビジュアルやイメージ以前に「歌声」の個性を持っているシンガーは、強い。彼女の場合、それに「キムチ~笑顔の作り方~」で早々に発揮されたような着眼点や、「ココロハレテ」ようにの歌声とリンクしたメッセージ性が加わることで、さらに個性を強いものにしているのだと思う。


 そして、その歌声の個性も、もしかしたら彼女が日々の経験を積み上げてきたことで生まれたものなのかもしれない。3曲目の「だいじょうぶっ!」には<悔し涙とか 嬉し涙とか/その意味を知る度に/笑顔は素敵になる ほら!!>という歌詞がある。笑顔そのものと言える歌声だからって、ただ、能天気に明るい歌声というわけではないのだ。笑顔も、歌声も、一日にして成らず――彼女は、それを知っているのではないだろうか。だとしたら、これからどんどん表情や歌声が豊かになっていく可能性がある。


 SNSでも、「可愛い」「歌が上手い」「声がいい」などといったポジティブな意見が並んでいる。キラキラの笑顔と、そのイメージのままの歌声、自身が携わることも多いポップなメロディ、そしてユーモアや人懐っこさに、ドキリとさせるひと匙のスパイスを交えた歌詞という、全てひっくるめて裏表のない彼女の存在感は、このSNS時代にもぴったりだし、それでいて普遍的とも言える。「音楽って、歌って、どういう力があるんだっけ?」という原点に立ち返らせてくれるようなシンガー、足立佳奈。これからも注目していきたい。(高橋美穂)