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KICK THE CAN CREWが完全復活を遂げた”必然”とは 結成20年の軌跡と新作から柴 那典が読む

2017年08月30日 19:04  リアルサウンド

リアルサウンド

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それは“子供の遊び”から始まった。


 それぞれ別のユニットやソロで活動していたKREVA、LITTLE、MCUという3人のMCを結びつけたのは「カンケリ」という曲で、だから彼らは「KICK THE CAN CREW」という名前になった。彼らのことを知る人にとっては有名なエピソードだろう。1997年にリリースされたインディーズ時代のデビューシングルは『タカオニ / カンケリ』。その後も「タカオニ2000」「カンケリ01」とリメイクされたこの2曲は、グループにとって大事なスタート地点だった。


 だからこそ、その20年後の2017年にリリースされた復活作『KICK!』のラストナンバーが「タコアゲ」であることには大きな意味があると思う。ちゃんとつながっている。ちゃんと必然を持ってシーンの最前線に帰ってきたのである。


 では、その「必然」とは何か。


 ニューアルバム『KICK!』の特設サイトに掲載されたオフィシャルインタビューで、KREVAは3人が醸し出す独特な雰囲気について「世の中の誰に“バカじゃないの?”って言われたとしても、“俺たち面白かったんだけどね”って言える感じなのかな」と説明している。加えて「ふざけ合って面白がれるっていうのは、大きいのかなっていう気がします。あと、それプラス真剣になれるっていうかね」と語っている。


 遊びだからこそ夢中になる。いつもふざけ合って面白がっているからこそ、大事なところでは照れや衒いなく真っ直ぐに情熱を燃やす。これがKICK THE CAN CREWの流儀だ。「マルシェ」のようなハイテンションでアッパーなナンバーも、「イツナロウバ」や「ユートピア」のような、どことなく哀愁を帯びたセンチメンタルな曲も、そういう3人だからこそ生まれたものだろう。


 活動休止後も3人がそれぞれソロの実績を積み重ねてきたことも、復活の持つ意味を大きなものにしている。特にKREVAはソロ・ヒップホップ・アーティストとして前人未到の偉業を成し遂げ、オーバーグラウンドな領域で日本のヒップホップシーンを牽引してきた。


 また、完全復活への足がかりも少しずつ整えられていった。2011年にはMCUとLITTLEからなるユニット「UL」が結成され、KREVAが楽曲をプロデュース。活動休止から10年ぶりとなる2014年には、KICK THE CAN CREWが『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に出演。その後もライブ活動は行われ、結成20年という節目もあり、新作への期待が高まっていた。


 つまり、いろんな状況と時の流れによって、3人が「もう一度、真剣に遊ぶ」土壌が生まれたようにも思える。そしてもちろん、それぞれがソロで成し遂げ、下の世代からのリスペクトを集めてきたことが、その土台になった。たとえばそれは奥田民生とユニコーンとの関係に近いとも言えるだろう。そういう「必然」が、13年8カ月ぶりのニューアルバム『KICK!』に満ちている。


 リード曲としていち早く公開された「千%」は、メロウなソウルチューンのサンプリングを活かしたナンバー。アルバム『OASIS』あたりからKREVAのトラックメイキングはシンセ中心のものになっていたが、KICK THE CAN CREWとしての今作では「今もSing-along」や「なんでもないDays」や「また波を見てる」や「I Hope You Miss Me a Little」などサンプリングの手法が一つのキーになっている。


 その一方で、アルバムのオープニング曲「全員集合」、配信リリースされた「SummerSpot」、ラストの「タコアゲ」といったアルバムの軸になる楽曲はシンセを用いたプロダクションになっているのもポイントだ。特にトロピカルハウスを経由したリズムの音色を用い〈Dive into the SummerSpot〉というフレーズを表拍に乗せるフロウで歌う「SummerSpot」はトラックメイカー・KREVAの真骨頂と言える。「全員集合」の前のめりなフロウも耳を引く。


 そしてサビの〈経て からの ここ〉という一節も印象的な「千%」が代表するように、アルバムには「もう一度」というモチーフから書かれたリリックを持つ曲が多く収録されている。年を経て経験を積み重ね、それでも少年の無敵な冒険心をもう一度取り戻す。たとえば「完全チェンジTHEワールド」「また戻っておいで」のような曲にも、そういうテーマがある。


〈目標定め 拳を掲げ! 解き放て! 頂点へ挑戦だ!〉


 かつて「タカオニ2000」で彼らはそう叫んでいた。ブレイクを目の前にした20代の3人は、“子供の遊び”のモチーフを成功を目指す自らの思いと重ねていた。だからこそ、彼らの曲には切ないメロウネスとがむしゃらなパワーが共存していた。


 一方、「タコアゲ」にはこんなリリックがある。


〈都会でやるのはタフでリスキー それでもあげたい目印 あの人同じ河川敷なら 見えるかな君から(ギリかなぁ)〉〈たまにゃ見せ合おう顔 また会おう ここは君が愛していた世界 うつむいてはいられない〉。


 同じように“子供の遊び”をモチーフとしていても、歳を重ねたことで、表現にさらなる深みが出てきている。人生を歌う幅が生まれている。そのことがアルバムの余韻として残る。


 何度も繰り返し聴くことのできる、染みてくるものが沢山あるアルバムだと思う。(文=柴 那典)