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BLACKPINKはポップミュージックの王道を行く デビュー作からグループの特異性を考察

2017年08月30日 14:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 BLACKPINKのデビューミニアルバム『BLACKPINK』は、ポップミュージックの「王道」を体現した傑作アルバムだ。


参考:BLACKPINKは強く美しい“ソルジャー”だ! 日本のポップシーンを刺激する初ショーケース


 本国の韓国でもフィジカルリリースされていない同作は、BLACKPINKにとって世界初となる待望のデビュー作。近年の音楽シーンの潮流を照射する、ブリリアントカットされたダイヤのごときガーリーアンセム群はなぜ生まれたのか? その秘密を解き明かす鍵は、BLACKPINKが持つ「最新のダンスミュージックであろうとする意志」と、「自らの欲望を全肯定しようとする決意」にある。


 2016年のライブ興行収益ランキングで世界第2位、今もなおポップミュージック界の女王の一人として君臨するマドンナは、ローリンストーンズ誌のインタビューで自らの音楽性について尋ねられた時、自身が“正しいダンスミュージック”を行うアーティストであるために、常に最新のダンスミュージックをチェックしていると明かしていた。


 このポップミュージックに対する認識はマドンナだけのものではない。音の魔術師と呼ばれたフィル・スペクターは、The Crystals「He’s A Rebel」やThe Ronettes「Be My Baby」といった楽曲にて、「ウォール・オブ・サウンド」という技法を用いて、当時最先端のブラックミュージックだけが鳴らしていたダンスミュージック的な音圧に近づこうとした。また、70年代のファンクディスコをベースとしたディーバたち、マドンナを代表とした80年代エレクトロポップ・ビートの旗手たちなど、いつの時代においても、最も優れたポップミュージックを生み出すということは、最も先端的なダンスサウンドを自らの表現に落とし込むことにある。


 1990年~2000年代にHIPHOPのグルーヴを換骨奪胎し、ポップミュージックを新しい地平へと導いたビヨンセやアリーヤといった新世代の女性R&Bシンガー、そしてポップ転向宣言が「カントリーミュージックから決別してダンスミュージックへと接近すること」だったテイラー・スウィフトにも同様のことが言えるだろう。ダンスミュージックの享楽性を取り込み、世界中にある未来への不安や絶望を吹き飛ばして人々に希望を与えることは、ポップミュージックに課せられた使命なのである。


 このような「ポップであること」の法則に、アジアのミュージックシーンで最も自覚的、かつ牽引者となったのは彼女たちが所属するYGエンタテイメントだろう。彼らの音楽がポップミュージックの王道であることは、PSY、BIGBANGらの世界的な成功によって証明されている。その成功体験が、『BLACKPINK』の収録曲をよりポピュラーなものへと変貌させたのだ。


 ムーンバートン、バウンス、トラップ、トロピカルハウスを縦横無尽にMIXしたデビュー曲「BOOMBAYAH」から最新曲「AS IF IT’S YOUR LAST」まで、その美しく力強く磨き上げられたサウンドは、2017年におけるポップミュージックの一つの到達点を示すものだ。


 そして、そうしたサウンドと並んでBLACKPINKの世界観の柱になっているもの。それは「ファム・ファタール」と呼んでも過言ではない、前述した「自らの欲望を全肯定しようとする強い決意を持った」女性像である。「自らの欲望のカタチ」、「セクシャリティーの在り様に自覚的であること」の表明は、ポップミュージックがポップミュージックであるために不可欠な「決意」として、サウンドの進化と共に深化を続けてきた。


 60年代に「He’s A Rebel」が世界を驚かせたのは、ダンスミュージック的なサウンドと共に破滅的な恋への欲望を歌い上げたからだ。また、70年代にマイルス・デイビスの恋人だったベティ・デイビスが、その地鳴りのようなファンクサウンドに乗せ叫んだのは身を焦がすセクシャルな快楽についてだった。そして言うまでもなく、マドンナが80年代から貫き続けている歌詞のテーマは、「I’m tough, I’m ambitious, and I know exactly what I want. If that makes me a bitch, okay.」という彼女自身の言葉に表れている。


 いかにして、恋への欲望やセクシャルな快楽を解放するのか? それは一貫してガールポップミュージックにおける「王道」のテーマであり、ここでもBLACKPINKはその命題に果敢に挑み、成功を収めているのだ。


 妖艶な空気を纏う「BOOMBAYAH」、愛を強く求める女性を描いた「WHISTLE」、ヒリヒリするような恋愛をテーマにした「PLAYING WITH FIRE」。BLACKPINKは、恋に溺れる心情や魔性といった女性の側面を、ポップミュージックが持つべき“新しい言葉”として表現しているのである。


 今、いわゆるJ-POPにおけるガールズポップシーンでは、BLACKPINKが継承したポップミュージックの王道たる「最新のダンスミュージックへの親和性」、そして「セクシャリティーの肯定」とは真逆のベクトルを持つ楽曲がチャートを独占している。AKBグループの土着的歌謡性も、欅坂46の自意識への執着も、アニソンにおける反動的”アセクシャル”な世界観も、それぞれに素晴らしい作品として結実している。しかし、それらが歴史的、世界的なポップミュージックとして機能することは少ないだろう。


 ポップミュージックとは、今日も世界中のダンスフロアを揺らしミラーボールを輝かせる。しかし、明日には時代遅れになってしまうかもしれないグルーヴという刹那の中にだけ、そして一秒後には目の前から消えしまうかもしれない欲望の対象の瞳の中にだけ、自らの存在を投影できる音楽だ。


 BLACKPINKのこの1stアルバムは、本物のポップミュージックだけが可能にする、そんな危険な火遊び(PLAYING WITH FIRE)へと僕らを誘惑する美しい罠なのである。(ターボ向後)