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【F1ベルギーGP無線レビュー】ハミルトン辛勝でメルセデスの圧倒的な優位性はもはやなし

2017年08月30日 12:42  AUTOSPORT web

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2017年F1第12戦ベルギーGP ルイス・ハミルトン
高速のスパ・フランコルシャンでメルセデスAMG有利の下馬評は良い意味で裏切られた。メルセデスAMGが予選モードでパワーユニットの出力を向上させる予選ではポールポジションに手が届かなかったが、決勝でフェラーリはメルセデスと対等に近いレースを演じてみせた。 

セバスチャン・ベッテル(以下、VET)「今のところ彼(HAM:ルイス・ハミルトン)についていけるよ、問題ない」

 スタート直後のケメルストレートでオーバーテイクはならなかったが、ベッテルはハミルトンに離されることなく1.6秒差でついていく。つまり、アンダーカットが可能なギャップだ。

 10周目、各車に左フロントタイヤのブリスターが出始める。

フェラーリ(以下、FER)「テレビ映像を見る限りではHAM、RIC(ダニエル・リカルド)にブリスターが出ている」

VET「僕も少し出ているよ」

 1ストップ作戦ならば第1スティントの想定周回数は14周。アンダーカットを仕掛けるなら動き出さなければならないタイミングを迎えた12周目に、メルセデスAMGがアンダーカット阻止のため先に動く。

メルセデス(以下、MGP)「OKルイス、ハンマータイムだ」

 ハミルトンが12周目にピットインしたため、ベッテルは14周目まで引っ張る。しかしウルトラソフトは新品ソフトの1秒落ちまでペースが低下しており、当然オーバーカットは不可能だった。

 一方で当初から一発逆転を狙って2ストップ作戦を計画していたというレッドブルは、ウルトラソフトのデグラデーションが大きくないことを確認した上でダニエル・リカルドをスーパーソフトタイヤに換えた。

レッドブル(以下、RBR)「デグラデーションはとても良さそうだ」

RIC「了解」

RBR「デグラデーションを見ると、SSで行ける。フロントウイングはアグレッシブなセッティングにするよ」
 これで他車より1ステップ柔らかいタイヤでリカルドがハイペースで飛ばす。


RBR「今のタイヤは上位勢よりもベターだ」
 一方のメルセデスAMGは、シーズン前半戦に度々苦しんできたタイヤのオーバーヒートの不安を完全に払拭できているわけではない。ハミルトンはステアリング上に表示された警告メッセージにヒヤリとさせられる。

HAM「ダッシュボードに温度の警告が出ている」

MGP「温度は全てコントロールできている。ダッシュのメッセージは無視してくれ」
 実はハミルトンの右リヤには軽度とはいえブリスターが発生しており、ピットウォールでは最後まで走り切るか安全策をとって交換するかの議論が繰り広げられていた。

 依然としてベッテルを引き離すことができず膠着状態が続く29周目、フォース・インディア勢同士の接触でセーフティカーが導入されると、いよいよメルセデスAMGの不安はピークに達する。SC低速走行でタイヤ温度の扱いに苦労させられることになるからだ。

HAM「なんでSCを導入したんだ? 馬鹿げているよ」

MGP「デブリ処理のためだ」

HAM「デブリなんて文字通り全くないよ」

HAM「なんでこんなに遅いんだ。後ろに突っ込んでしまうよ!」


 SC中のピットインで各車がウルトラソフトに履き替える中、メルセデスAMG勢は意外とも言えるソフトタイヤを履いた。フェラーリやレッドブルが新品のウルトラソフトを1セットずつ残していたのに対し、メルセデスAMGはもう新品がなかったこと。そして残り10周以上というフィニッシュまでの周回数を考えると、ソフトの方が正しい選択だと判断したからだ。

「リスタート直後の最初の2周はウルトラソフトの方が速く、ソフトでは厳しいことは分かっていた。しかし10周走るなら間違いなくソフトの方がベターだったし、実際にそうだった。かなりの議論をした上で決定した」(トト・ウォルフ)

 事実、リスタート直後にフェラーリ勢からの猛攻を受け、ハミルトンはなんとか首位を守り抜いたものの、3位バルテリ・ボッタスはリカルドとキミ・ライコネンにスリップに入られ5位に後退してしまった。しかし数周もすればウルトラソフトとソフトの立場は逆転するはずだった。

MGP「リカバリーする周回数は充分にあるよ」

 だがボッタスは前の2台に追い付くことができず、SCの優位もあって2ストップ作戦を成功させたリカルドに表彰台を奪われた。
 38周目、ハミルトンもベッテルとの首位争いが激しくなっていた。

HAM「リヤの温度が高くなってきている」

MGP「了解」

 これに対しフェラーリは「SOC6に戻せ。タイヤ的には問題なく最後までプッシュできるよ」とベッテルにプッシュさせる。
 残り5周、ハミルトンはベッテルに対し防戦を考える。

HAM「どのセクターが彼の方が速いか教えてくれ。終盤に抜かれないためにだ」

MGP「このラップではどのセクターもイーブンだったよ」
 残り4周、タイヤの状況は落ち着いてきたが、ハミルトンは依然として緊迫したバトルを続けていた。

MGP「残り4周、温度は安定している。だからタイヤは君のフィーリングでマネージメントしてくれ」

HAM「一人にしてくれ、ボノ」
 なんとかベッテルを振り切って44周を走り切りトップでチェッカー。ハミルトンの今季5勝目は決して楽勝ではなく、ハミルトンだからこそ成し得た勝利だった。しかしそれはもはや高速サーキットでもメルセデスAMGに圧倒的な優位があるわけではないことを意味していたこともまた事実だった。