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藤田恵名が語る、シンガーソングライターとしての覚悟「戦わないといけない側の人間かもしれない」

2017年08月29日 17:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今いちばん“脱げる”シンガーソングライターとして、昨年リリースのミニアルバム『EVIL IDOL SONG』のジャケットでも話題となった藤田恵名が、メジャー1stアルバム『強めの心臓』を完成させた。今作も“着衣盤”と“脱衣盤”の2バージョンでリリースとなり、“脱衣盤”のヌードジャケットはさまざまなニュースサイトでも取り上げられ、注目を集めている。グラビアアイドルとしての活動や女優業も行なっており、バラエティ番組やグラビアでの彼女を知る人も多いかもしれないが、じつは音楽活動のスタートは10代の頃。自主制作で4枚のアルバムをリリースし、コンスタントにライブ活動を続けている。


 満を持してのメジャー1stアルバム『強めの心臓』は、グラビアに支障が出ないか!? と聴いているこちらが心配にもなるくらい、仕事の裏側をうかがわせ、自己嫌悪に陥ったり、怒りをぶちまけたり、シニカルに冷めた心の内をつづったり、不敵に挑発したりと、エッジの鋭いロックサウンドにのせてあけすけに、痛快に歌い上げている。すべてが実体験ではないとにこやかに語るが、気炎を吐きまくるエネルギーは凄まじい。“強い”ではなく“強め”の心臓を持った藤田恵名が、音楽を武器にして自分を鼓舞し、戦っている姿を、生々しくパッケージしたアルバムだ。自ら“シンガーソングラドル”と名乗って活動する、藤田恵名とはどんな人なのか。(吉羽さおり)


・聴いてがっかりされたくはなかった


ーーメジャーでの1stアルバム『強めの心臓』がリリースとなりました。藤田さんのリアルな思いを、かなりぶちまけている内容となっていますね。


藤田恵名(以下、藤田):まずは、ジャケットがひとり歩きしている自覚もありますけど(笑)。知ってもらうきっかけは、ここまできたらなんでもいいと思っているので、結果的にいろんな方に、ニュースにしていただいたりしてよかったなと思ってます。でも、ずっと音楽をやってきたので、聴いてがっかりされたくはなかった。中身も、今まで作ったなかではいちばんの自信作になりました。


ーーより強い曲、強い音楽という思いもありましたか。


藤田:強いものというか、作る曲がそういう感じにシフトチェンジしていった時期だったんです。今のテイストをわりとそのまま収録した感じでした。


ーーシフトチェンジしたのは、何が大きかったんですか。


藤田:音楽の方向性はどんどん変わっていたりはしたんですけど、ギターが弾けるようになったのが、大きいですね。曲の作り方やアプローチの仕方が変わって。か弱いよりも、かっこいいとか、攻撃的な、戦闘力が上がるものを作って歌いたいなと思ったのが、2年前とかなのかな。


ーーそれは、自分の状況や心境的なことともシンクロしていたんですか。


藤田:みんなに好かれるのは無理だと悟ったんです(笑)。だったら、もっと包み隠さずに自分の思いを言えたらいいなって。自分の内に秘めた恨みつらみとか、怨念とか……負のオーラって共感はされないけどどこかには届くかなと思うんです。状況の変化というよりは、ずっと内にあったものがやっと出せた感じですね。それまでは、なるべく遠回しにというのがあったんですけど、自分のなかで歯止めが効かなくなって。今までも思っていたことを書いていたんですけど、今となっては、昔の曲とかがこっぱずかしかったりします。


ーーだいぶ心の負担はなくなった感じですかね(笑)。


藤田:発散という言い方はよくないかもしれないですけど、自分が心からいいと思っているものを、やっとライブでぶつけられるようになりました。ずっとお客さんにどう聞こえているかなとか、うまく歌わなきゃということが先走っていたんですけれども。音程とかの次元じゃなくなってきたんですよね。


ーー歌が、心の叫びですもんね。「噂で嫌いにならないで」などはまさにそういう曲で、世間や、固定観念みたいなものへの挑戦状となった曲だなと思いました。


藤田:曲調も攻めた感じですしね。わりとスラスラと書けたんですけど、いざ収録するとなった時に、「これ自主制作じゃないんだけど、大丈夫かな?」と(笑)。でも作ったし歌いたい、これを歌ったら気持ちいいだろうなと思っていました。心の叫び、ですね。


ーー歌詞が上がってから、曲調やアレンジに活かされた曲ですか。


藤田:基本的にどちらから作るというのは決めていないんですけど、これは鬱憤を箇条書きにしたんですよ。で、拍は決まっていたので、その拍にこれを詰めるかという曲の作り方をしたんです。今までは、メロディを辿ってとか、メロディありきで言葉を微調整する作り方をしていたけれど、この拍のなかでいかに鬱憤をいうか、みたいな作り方をしたので。


ーーそれで語り調にもなっているんですね。先ほど、自主制作じゃないのにといっていましたが、「噂で嫌いにならないで」ではグラドルの本音や裏側も描かれていると思うんですけど。藤田さんのお仕事上、これを書いちゃって大丈夫なんですかね(笑)?


藤田:わたしも一応人目を気にして、いつもはブログに歌詞を載せるんですけど、この曲に関しては載せられなかったですね。自分から敵を作りにはいってるんですけど(笑)。もし該当する人がいたなら、自分のことかなとヒヤッとすればいいと思っていて(笑)。


・反骨精神は忘れたくない


ーー痛快ですね(笑)。またラップ曲の「BIKINI RIOT」(MCビキニ a.k.a藤田恵名)も同様に、ポップでありつつ刺激的な曲となっています。ラップもずっとやってきたんですか。


藤田:フリースタイルバトル(CINDERELLA MC BATTLE)に初めて出たのが、昨年の11月とかだったんですけど、それまでラップはちょっと聴くくらいで、やったことはなくて。MCビキニという名前で出たんですけど……ほんと、ギャグですよね(笑)。でも、蓋を開けてみたら、面白がってくれている人も増えたし、「BIKINI RIOT」が映画『怪談新耳袋Gメン 復活編』の主題歌になったり、MVも作ってもらったりしたので。苦戦しましたけど、かっこいい感じになりました。


ーーラップというスタイルだからこそ勢いよく、ここまでえぐってしまえと書ける曲でもありそうですが、どうなんでしょう。


藤田:言いたいことは言えた感じもしていますね。


ーーこの「BIKINI RIOT」もかなり戦ってる感じがしますね。


藤田:歌詞に、〈ちょっと高いここのピッチ〉というフレーズがあるんですけど、最初は〈ちょっとモテるのこんなビッチ〉だったんですよ(笑)。そしたらレコード倫理協会からプロデューサーが突かれたみたいで変えることになって。自分の最後の悪あがきじゃないですけど、“ビッチ”と“ピッチ”のちょうど中間くらいの発音で、そこだけ宅録をして変えました(笑)。ライブではビッチって歌っちゃってます。そういう反骨精神は忘れたくないなって思いながら。


ーー藤田さんのその反骨精神って、どこで芽生えたものなんですか。


藤田:中学校の時にいじめられていたことがあって。人を見返したい気持ちはずっとあったんです。今でこそ、ネットでいろいろと言われたり、賛否もあったりするし。自分は戦わないといけない側の人間かもしれないなっていう。言い争うとか、ネット上で炎上を起こすことはしないですけれども、いつかひっくり返すくらいのことをしたいなという気持ちは常に持っています。


ーーそれがこうした音楽との表現ともうまく結びついたんですね。この『強めの心臓』は、グラビアアイドルとしても活動している藤田さんが、ミュージシャンとして“わたし”をちゃんと見てという、心の内を吐き出したアルバムです。それでありながら、“脱衣盤”というヌードジャケット版もあって。話題性は高いと思いますが、一方で誤解を生んでしまう可能性もあると思うんです。アルバムでなぜこういう挑戦をされたんですか。


藤田:昨年、ミニアルバム『EVIL IDOL SONG』で全裸ジャケットをやって、ちょっと話題にしてもらって。わたしとしても、昨年だけで終わってしまうと嫌だなと思ったり、今の自分の知名度とかをいろいろ考えた時に、中身も説得力があるものが作れればいいんじゃないかと思って。誤解を生みやすいということもわかってはいます。聴いてもらえなかった層に聴いてもらえた反面、聴いてもらえたはずの人に毛嫌いされたかもしれない気持ちもあるんです。この役割がたまたま自分で、これをもし他の誰かがしてたら悔しいなと感じてたと思うんです。なので、今年も脱がさせていただきましたというくらいの気持ちで今はいるので、結構、清々しいです。


ーー藤田さんは、グラビアでの活動よりも音楽活動や音楽をやっている方が長いんですよね。


藤田:音楽は10歳の時からスクールに通ってやってきて。グラビアは、3、4年なんです。もともとプライベートで水着を着たことがなくて。水着になるのはずっとコンプレックスではあったんですけど、グラビアの需要が少なからずあって。辞めるのはもったいないかなと思い、音楽と合体させたんです。ラップもそうですけど、何が起こるかわからないなって思ったし、どこかで何かを捨てる必要もないかもなと。それで、今までの活動を足していけばいいかなと思って。今、めっちゃこんがらがっていますけどね(笑)。


ーー音楽とグラビアを一緒にするのは、挑発的にやってやろうという感覚ではなかったんですね。


藤田:音楽はずっとやっていたし、どうやったら周りの人から頭一個分くらい抜けられるかなと思った時に、合体させるしかないというか。それは、自分で決めました。“シンガーソングラドル”と名乗っているのも、わたしのもったいない精神が功を奏したのかなと思います。


ーーそうやってくっつけてみたことで、反響って変わりました?


藤田:路上ライブをしていた時は、コートを着込んでやっていたので、「え、そうなっちゃったの?」って離れた人ももちろんいました。でも、知ってもらった人の方が、何十倍も多いから。当時では大事な、路上ライブに来てくれていたファンが離れていったことは自分では大ダメージで、取り返しのつかないことをしてしまったと落ち込みましたけど……離れていってしまった人たちが、今のわたしを何かで知ってくれているなら嬉しいなと思います。


・自分でジャッジして、セルフプロデュースでやってきた


ーー音楽をやりたいんだという強い気持ちがあったのは、なぜだったんでしょう。


藤田:それしかやってこなかったというか。大学にいったわけでもなかったし、習い事をしてもイヤイヤやっていたし。でも、音楽は好きでずっとやっていたので、これをやめたら、果たして自分に何が残るんだろう? と思って。なので、意地ですね。自分で曲を作って歌うということは、これからもずっと好きなんだろうなと思います。


ーー音楽に向かった原点はどういうものでしたか。


藤田:幼稚園の時、親の前で「セーラームーン」の主題歌を披露したら、すごく褒められたんですよ。一つ上にお姉ちゃんがいるんですけど、お姉ちゃんはなんでも長けているんですよね。運動ができて、かわいくて。わたしは全部お姉ちゃんより劣ってると思っていたけど、歌だけは勝った!ってその時思ったんです。それでお母さんが、新聞に出ていたスクール生募集のオーディションを見つけて、「受けてみる?」って言ってくれたのがきっかけでした。


ーー自分で曲を作るようになったのは、いつ頃ですか?


藤田:高校1年、2年くらいでしたね。福岡の事務所で歌のレッスンに行っていたんです。曲を人に作ってもらうこともあったんですけど、わたしが本当に歌いたい歌詞でもないし。自分の思いともちがうし、これをニコニコしながら……歌ったんですけど、なんか腑に落ちなくて。じゃあ、自分で歌いたい曲を作ればいいんじゃないかなって。それで、作りはじめました。最初は、鼻歌とかでしたけどね。鼻歌から作っていって、作詞と作曲をして、アレンジだけはしてもらって。そのあとは、ピアノでも作ってみたりしてという感じでした。


ーーそしてさらにギターでの曲作りをはじめたというわけですね。


藤田:それもシンガーソングラドルと名乗るようになって、これはギター弾けないとマズいかもしれないと思って。これも、意地ですよね。弾けないのにアー写でギター持ってるとか相当ダサいので(笑)。弾けないとマズいという強迫観念で、アレンジャーの(田渕)ガー子さんに習ったり、独学で頑張りました。


ーーアルバムの最後の曲が、〈あの時投げ出さなかった道 今も運転中〉というフレーズではじまる「ライブドライブ」です。この曲では、今ここにいるわたしをちゃんと今を見てください、次のところに行きますよと提示されているのが、いいなと思いました。この曲はどんな思いで作ったものですか。


藤田:ありがとうございます。でもじつは2012年に作った曲なんです。思い入れが強い曲でライブではいつも歌っていたので、日の目を浴びさせたい気持ちがすごくあったんです。でも、今の気持ちとかけ離れているわけではなく、むしろ今の自分のことを、当時の自分が言っているんじゃないかって思える曲になりましたね。今、こういうあまりトゲのない曲を作ってと言われたら、厳しいかもしれない(笑)。でもこの曲を最後にしたことで、アルバムにきれいに蓋ができましたね。


ーー今は音楽活動や、グラビアアイドルとしてバラエティ番組に出演したり、また映画出演もしたりと、活動が多岐に渡っていますね。なんでもやってみようというスタンスがあるんですか。


藤田:なんでもやってるなと見られている自覚はあります(笑)。でも、わたしは自分でジャッジして、セルフプロデュースでやってきました。できそうなことはやってみたい気持ちですね。


ーー今年夏にも出演&主題歌を担当した映画『血を吸う粘土』が公開されましたが、女優業というのは面白さがありますか。


藤田:昨年、映画『EVIL IDOL SONG』で主演をさせてもらって。その時が初めての演技だったので、大変でした。いかに演技じゃない演技ができるかというのを演じるというか。グラビアのDVDにしてもそうなんですけど、このバランスボールの上下運動は誰に届いてるんだろう? みたいなことを、一個ずつ噛み砕いていきたいという変な神経質さが出てしまって(笑)。でも演技をすることが病みつきになる感覚はわかりました。普段なら言えないセリフや叫びができるっていう。これは歌ってる感覚に近いですね。(取材・文=吉羽さおり)