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QOTSA、The Nationalらの”新たな一手”とは……ロックの転換期を告げる必聴アルバム5選

2017年08月28日 17:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ポップ及びブラックミュージックが新たな黄金期を迎えているのと対照的に、ロックは時代の隅に追いやられている――もはやテンプレ化しているのでは? と錯覚するほど、こういった言説を頻繁に見かける昨今。このあと紹介する某バンドのメンバーも「ギターは絶滅危惧種」だと語っていましたが、ジャンルとして下降線を辿っているのが事実だとしても、ピンチのあとにはチャンスがあるはず。特に今年に入ってから、現実やトレンドと向き合いつつ「次の一手」を求める動きが進んでいて、これが実におもしろい。


参考:『T2 トレインスポッティング』鑑賞後に聴きたい、“イギリスの今”を伝えるバンド5選


 最近の例でいうと、Daft Punkのトーマ・バンガルテルを含む制作陣を迎えて、煌びやかなエレクトロ・ディスコに傾倒したArcade Fireに、共に9月リリースの新作で、アデルやシーアを手掛けたグレッグ・カースティンを招喚しているFoo Fightersとリアム・ギャラガー、ロードの新作にも貢献したジャック・アントノフとタッグを組むセイント・ヴィンセント、日本だと先鋭的なブラックミュージックを取り入れたOKAMOTO’S等々。いずれも単なる迎合ではなく、自己ベストを更新するために、メインストリームの要素を選んで吸収しているのがポイント。こうした試行錯誤と遺伝子操作を重ねることで、ロックが前進してきたことは歴史が証明しています。


 さらに、そのような動向とリンクするように、近年のシーンを牽引してきたトップランナーたちの新作がまとめて到着したのは嬉しいサプライズでした。いずれも同様の危機意識を抱えながら、実験精神とブレない作家性を両立させることで、期待を上回るブレイクスルーを果たした力作揃い。そこで今回は、転換期を迎えたロックを支える、実力派バンドの最高傑作となりそうな5枚を紹介します。


■Queens of the Stone Age『Villains』


 2013年の前作『…Like Clockwork』が全米チャート1位に輝き、USロックを背負う立場となったQueens of the Stone Age(以下、QOTSA)。新作『Villains』では、マーク・ロンソンを共同プロデューサーとして起用したことが話題に。一見ミスマッチのようで、これが素晴らしい相乗効果をもたらしています。


 そこで、マーク・ロンソンのプロデュース遍歴を振り返ると、『Villains』から真っ先に連想されるのは、エイミー・ワインハウスやアデルを手掛けたときのソウルフルな音作り。それから、The Like『Release Me』で60’sガールズポップ、Duran Duran『All You Need Is Now』で80’sポップを今様にアップデートさせた、DJ出身らしい手腕も見逃せません。さらに、Black Lipsによるガレージロックの名作『Arabia Mountain』にも携わっているほか、自身のソロ作『Uptown Special』ではTame Impalaのケヴィン・パーカーを呼び寄せ、モダンなサイケポップを奏でていたことも思い出されます。


 この華麗なる経歴を踏まえれば、オールドスクールな不良性とロックの粋を受け継ぐQOTSAとのコンビが成功するのも必然。映画『ベイビー・ドライバー』とも共振するように荒ぶるリード曲「The Way You Used To Do」を筆頭に、持ち前のギターリフと強靭なグルーヴが押し寄せてきます。切れ味の鋭さ、楽器の鳴り、ほんのりサイケなエフェクト、ワイルドで艶気のあるボーカルなど、キリがないほど褒め要素のオンパレード。黒鉄の城みたいなアンサンブルは、メンターだったBlack Sabbathより中期のLed Zeppelinに近づいてきた気もしますが、ロックアルバムに検定試験があったら満点に近い内容でしょう。


■Brand New『Science Fiction』


 Linkin Park『One More Light』、Arcade Fire『Everything Now』に続き、ロック作品として今年3枚目の全米ナンバー1を奪取するのでは……と囁かれているのがBrand Newの『Science Fiction』。2000年結成以来、エモを軸としながら独自の進化を遂げてきた4人組(現在)が、8年ぶりに突如リリースした新作です。正直に告白すると、音楽ジャーナリストの沢田太陽さんが「パンク・バンドがPink Floydの領域に入ったみたい」と紹介しているのを読んで初めて存在を知ったのですが、クレイジー・ダイヤモンドな人たちの声が曲間に挿まれているのも含めて(マジで怖い)、本当にそういうアルバムだったので驚きました。


 グランジ勢にWeezerの『Pinkerton』、『The Bends』期のRadiohead、初期のModest Mouseといった90年代オルタナからテクスチャーと情念を受け継ぎ、ブルージーに奏でられる一音一音の生々しさは格別。さらに、長い制作スパンが裏付けるように恐ろしい精度で作り込まれており、ダウナーな展開が続くのに微塵も飽きさせません。アコースティックとエレクトリック、寂寥とノイズを巧みに織り交ぜる手捌きに、聴き進むにつれてテンションが加速する構成力も言うことなしで、“エモ版の『Abbey Road』”という賛辞も頷けます(すでにバンド解散も決定しているそう)。出口のない憂鬱を撫でるように、ヒリヒリした音が鳴り響く一枚。


■The National『Sleep Well Beast』


 ここ数年、USインディーロックの精神的支柱を担ってきたThe National。4年ぶりの新作『Sleep Well Beast』は横綱相撲の安定感と、ポップで実験的な作風が同居したアルバムとなりました。これまでも“神は細部に宿る”を実践し続けてきた彼らですが、今回のスタジオワークには相当の時間を割いたそう。バリトンボイスが映えるピアノバラードから、激しいプレイが強調されたギターチューンまで陰影の効いた楽曲が並ぶなか、作品のトーンを決定付けているのが、柔軟に織り込まれた打ち込みのサウンド。メロウな音響やパーカッシヴなビートが随所に配置され、奥行きや躍動感をもたらしています。


 実験的な側面でハイライトに挙げたいのは、歌とピアノに、ミニマルなビートと揺れ動くノイズ、いくつもの表情を使い分けるストリングスに、微細なニュアンスを叩き分けるブレイクビーツ調のドラム、意識が遠のくほどロマンティックなギターと、計算され尽くした演奏が星空のように点滅していく「Guilty Party」。あまりに攻めた内容のせいか、同曲のYouTubeに「これって『Kid A』?」とコメントが付いていますが、実はタイトル曲も(『Kid A』収録曲の)「Idioteque」を思わせる作り。時代がそうさせたのか、ボン・イヴェールやDirty Projectorsといった仲間のエクストリーム化で火が点いたか。トップ・バンドの地位に安住することなく、メンバー各自の引き出しをフル回転させた勝負の一枚です。


■The War On Drugs『A Deeper Understanding』


 こちらもUSインディー屈指の人気を誇るThe War On Drugs。メジャー移籍後の初作となる『A Deeper Understanding』では、ボブ・ディラン似の歌に、ブルース・スプリングスティーン譲りの作曲術、ハイウェイを駆けるようなモータリック・ビートとアメリカーナの黄昏、ドリーミーでサイケデリックな音響処理という、2014年の前作『Lost in the Dream』で確立した勝利の方程式をさらに前進させています。プロダクションの向上は一目瞭然で、ジャケットで見せる佇まいそのままに、鍵盤楽器/ビンテージシンセの多彩なレイヤーを張り巡らせた音像は、ソフトロックの霧を思わすタッチから、ウルリッヒ・シュナウスによるエレクトロ・シューゲイザーにまで準えたくなるもの。


 ほかにも、オープナーの「Up All Night」では生ドラムとリンドラムを並走させ、デヴィッド・ボウイ作品におけるロバート・フリップのようなギターソロを盛り込むなど、あの手この手で80年代アリーナロックをモダンに昇華。もちろん、スケールの大きいギターソロなど、絵に描いたようにアメリカンな演奏も持ち味で、11分超の長尺ナンバー「Thinking Of A Place」は彼らの真骨頂でしょう。車でかけてもヘッドフォンで聴いても、果てしなきロードトリップが堪能できるはず。


■Everything Everything『A Fever Dream』


 最後にUKからひとつ。Alt-J、Foals、Wild Beastsといった面々と並んで、かの国におけるアートロックを牽引してきたEverything Everything。2010年のデビュー作『Man Alive』で一躍ブレイクを果たしたときは、日本でも大いに歓迎されました。その頃からRadioheadとビヨンセへの愛を同列に語るなど、今日のシーンを予見したフリーダムな音楽性が魅力でしたが、その後の2作で世界観に磨きをかけ、今回の『A Fever Dream』で独走態勢に入ったように映ります。


 その新作では、変幻自在のバンドサウンドや、複雑に練られたコーラスハーモニーというトレードマークはそのままに、よりヘヴィで内省的に深化。ブレクジットに揺れるUKの不穏なムードを音に込め、獰猛なアンサンブルを奏でています。こう書くと息苦しいアルバムみたいですが、ビートミュージックを血肉化した「Can’t Do」、近年のMuseよりMuse的な「Desire」、ミニマルなエレクトリックゴスペルと呼びたいタイトル曲など、豊富なリズムパターンと斬新なアレンジもあって風通しの良さは抜群。パンキッシュな初期がXTC的だったとしたら、エレクトリックな重厚感を纏った今の彼らは、成熟した近年のDepeche Modeに近いでしょうか。(小熊俊哉)