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スーパーGT:脱水症状の山本とグリップがなくなった平手の限界領域での3位争い

2017年08月28日 01:02  AUTOSPORT web

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最後のスティントで3位表彰台を争ったDENSO平手とRAYBRIG山本。ふたりの激しいバトル、意地の張り合いは見る者を熱くさせた
優勝したEpson Modulo NSX-GT以外、ほとんどのチームがなにかしらのアクシデントやトラブル、ミスに見舞われることになった今回のスーパーGT第6戦鈴鹿1000km。スタートからフィニッシュまで各所でバトルが勃発し、最後まで緊迫した場面が続いたが、その中でもレース終盤に注目を集めたのが、DENSO KOBELCO SARD LC500とRAYBRIG NSX-GTの3位表彰台争いだ。

 追い上げる4番手のRAYBRIG山本尚貴、そして、3番手を守るDENSO平手晃平。RAYBRIG山本はコーナリングスピードとトラクションの良さで何度もDENSO平手の横に並び掛かるも、イン側のポジションを死守する平手はブレーキングで山本に前を行かせない。それでも山本もあきらめずに、2度、3度と平手の横に並びかかる。

 156周目、161周目のシケイン進入でブレーキングを遅らせて山本はアウトから平手に並び掛かるも、平手はイン側を譲らず、山本はややオーバーラン。それでもすぐに体制を立て直し、平手の背後から離れない。レース終盤、ふたりのドライバーのまさに意地をかけた3位争いが演じられたのだ。

「チームからは『順位を譲って4位キープでもいいよ』という指示はあったんですけど、残り10周ちょっとだったので守りきりたいという気持ちがありました」と、山本とのバトルを振り返る平手。

「クルマが良くて、チームもピット作業で2回とも(ライバルの)前に出してくれてすごくいい仕事をしてくれたので、僕としてもその気持ちに応えたかった。それにやっぱり鈴鹿の最後の1000kmで少しでも多くのポイントを獲れたらという気持ちもあった」

 平手は山本の攻撃を何度もブロックして防いでいたものの、タイヤのグリップが厳しくなり始める。

「タイヤは右フロントが厳しくて、最後のスティントはユーズドでスタートしたんですけど、練習走行か予選の時に少しタイヤロックしたタイヤだったのか、最初から細かいバイブレーションがありました。そこで100号車とバトルをしているうちに、ちょっとずつロックが大きくなっていった」

 166周目のシケイン進入のブレーキングで平手は一瞬、挙動を乱し、山本はその隙を逃さず平手の横に並びかかり、そのままストレートを並走。1コーナーでアウトから山本が先行し、3位争いの決着が付いた。

「チームが指示したように100号車(山本)を先に行かせて、ペースをコントロールしながら走っていれば4位でフィニッシュできたかもしれない。そこの葛藤で最終的には前に抜かれちゃって4位に落ちたんですけど、そこでタイヤをかなり使ってしまってそれが仇になりました。もし5位、6位に落ちたとしてもポイントはしっかり獲れたので、僕の判断ミスで、チームには本当に申し訳ないことをしました」と平手。

 最終的に平手はWedsSport ADVAN LC500、フォーラムエンジニアリング ADVAN GT-Rに交わされて6番手に落ち、さらに170周目のデグナーふたつ目を曲がりきれずクラッシュバリヤに突っ込み、レースを終えた。

「結果的にタイヤを使い切っちゃって、コースにとどまることができなくなってしまった。最後のデグナーでは右フロントのグリップがないことは分かっていたので、相当手前からブレーキを踏んでいたんですけど、それでも全然舵が効かずに、そのままコースアウトしてしまいました」

 一方、3位フィニッシュした山本も、実は最後のスティントのスタートからドリンクボタンにアクシデントがあり、水分が補給できない状態が続いていた。しかも山本はそれをチームに知らせず、チェッカーを受けてからチームも把握したが、すでに山本は脱水状態。

 山本は3位表彰台を獲得しながら、表彰台への登壇が難しい状況になり、最初はチームメイトの伊沢拓也ひとりだけの3位表彰台となっていたが、途中から山本の希望で登壇。表彰式を終えた後に山本はすぐに医務室に運ばれることになった。

 鈴鹿のラスト1000kmに相応しいとも言える、手に汗握る終盤の3位争い。理屈では分かっていても、やはり負けたくないのがドライバーの本性。そして、そのドライバーの強い気持ちと意地は、ファンの心を揺さぶるモータースポーツの醍醐味のひとつでもある。

 最後の鈴鹿1000kmの表彰台争いの背景にはマシンとドライバー、ともにギリギリの壮絶なバトルが繰り広げられていた。