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長渕剛、最新作『BLACK TRAIN』での音楽的チャレンジ 自らの表現をどうアップデートした?

2017年08月27日 10:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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参考:2017年8月14日~2017年8月20日の週間CDアルバムランキング(2017年8月28日付)


 本連載の1カ月前の原稿(参考:欅坂46の魅力は“レジスタンス”の外側にも広がっているーー1stアルバムで花開くもう一方の要素 http://realsound.jp/2017/07/post-95598.html)で取り上げた欅坂46『真っ白なものは汚したくなる』が相変わらずトップ10圏内をキープ。ロックフェスへの出演が評判を呼んだり、一方でアイドルフェスでのステージの様子から平手友梨奈の体調を心配する声があがったりと、昨今の話題の中心に常にいたと言っても過言ではない彼女たち。クオリティの高い楽曲が揃う今作は、アイドルシーンのみならず2017年の音楽シーン全体における重要作となりそうである。


(関連:長渕剛、ファンとの信頼関係を確かめた夜 決意の「乾杯」歌ったスペシャル公演レポート


 その欅坂46とNMB48が並び、さらにはV6とHey! Say! JUMPのジャニーズ勢、首位を獲得したiKONなど、ダンスアクトが半数を占める今週のチャートにおいて、今回取り上げるのは2位にランクインした長渕剛の5年半ぶりのアルバム『BLACK TRAIN』。前作『Stay Alive』から今作までの間に富士山でのオールナイトライブを行ったり、また最近では『2016 FNS歌謡祭』(フジテレビ系)で代表曲「乾杯」を大幅にアレンジしたバージョンを披露するなど(<騙されねぇぜ ヒットチャートランキング>という歌詞も付け加えられていた)、何かとトピックに事欠かないこの方。久々にリリースされたこのアルバムでは、アーティストとして時代の風をうまく取り入れて自らの表現をアップデートしている様子が伝わってくる。


 アルバムのオープニングナンバーらしい壮大な「Black Train」ではじまり、サイモン&ガーファンクル「コンドルは飛んでいく」を彷彿とさせるフレーズが印象的なバラード「Can you hear me?」で終わる今作。「かあちゃんの歌」や「ガーベラ2017」といったリリカルな楽曲も耳に残るが、それ以上にインパクトが強いのは「Loser」(先日の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)にて蔦谷好位置が上半期のベスト楽曲に選んでいた)や「自分のために」あたりで見られるダンスポップ的な意匠との融合である。自身のスタイルやパブリックイメージがある程度固まりつつある今のタイミングにおいても、新しい音楽的なチャレンジを続けていることがよくわかる。


 「Loser」には<すすけたレコードcompany><一流大学出の俺の兄貴は 外資の会社で首を切られた><音楽労働者は腐った鉄格子にぶちこまれ>といった刺激的な歌詞が登場するが、こういった言葉遣いや「愛こそすべて」でのシンプルなピアノの伴奏を打ち消すかのように熱い想いをぶちまけるボーカルスタイルから思い出したのは、『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)が醸し出している世界観である。強い言葉をどうやって音楽に乗せて放つか、そういった観点から見ると両者には共通項があるように思えてならない(蔦谷好位置も前述の『関ジャム』で「Loser」とラップの親和性についてコメントしていた)。今作で個人的に一番好きな楽曲はブギ調の「嘆きのコーヒーサイフォン」なのだが、<『もう2度とてめえの面なんか見たくねえ!』って言ってもよ… 次の朝になりゃ『あいつ… 何とかしてやりてえな』って思うのが優しさってもんだろが!!><え? 「僕、人間関係 ダメなんです…」って? おまえな!! だったら何で女房とは肉体関係でガキ何人もつくんだよ!!>といった、いかつくもちょっとユーモラスな言葉がまくしたてられているのを聴いていると、思わず「クリティカル!」と言いたくなる。


 前述した『フリースタイルダンジョン』もそうだが、他にも竹原ピストルやNakamuraEmiなど、ひとりでステージに立って自分の生き様をさらけ出す「タイマン型」とも言うべき表現者が熱い支持を獲得しやすい空気が最近特に強くなっているように思える。デビュー40年を迎える大ベテランであるがゆえになかなかリアルタイムの音楽シーンの登場人物としては名前が挙がりづらい長渕剛も、こういった流れの中に位置づけられるべき存在だろう。これまでのキャリアや先入観とは関係なく、2017年の音楽として楽しめるのがこの『BLACK TRAIN』である。(レジー)


※記事初出時、一部表記に誤りがございました。訂正してお詫びいたします。