2017年08月25日 20:23 弁護士ドットコム
東証マザーズ上場予定のIT企業「ウォンテッドリー」(代表取締役社長・仲暁子さん)について、有価証券報告書を分析しながら批判したブログ記事が8月25日、Googleの検索結果やTwitterの投稿から消されたとして話題になっている。
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ウォンテッドリーは同日、弁護士ドットコムニュースの取材に「弊社に関する画像を無断で引用されているとの判断に至った。昨日、弊社からGoogle、Twitterに削除申請を行い、現在に至っている次第だ」とコメントした。一方、SEO専門家は「(削除申請は)モラル的に問題があるのでは」と疑問を呈している。
ウォンテッドリーは、インターネットに特化した求人情報サービス「Wantedly」を運営しており、今年9月14日に東証マザーズ上場を予定している。今回、Googleの検索結果から消されたのは、そんな同社の有価証券報告書を分析したブログの記事だ(8月16日付)。
この記事は、同社創業者で代表取締役社長の仲暁子さんが株式の7割弱を保有していること、従業員にストックオプションを与えていないことをやり玉にあげて、「やりがい搾取感が否めない」と批判している。また、仲さんの顔写真も掲載していた(現在は削除されている)。
同社は、この記事の削除申請について、「一部ブログ記事で利用されていた画像に関しまして、有識者に意見をいただきながら、社内で協議した結果、当社が著作権を有する画像の無断使用はやめていただきたいとの判断に至りました」と説明している。
なお、記事そのものが削除されたわけでなく、Googleの場合は検索結果やTwitterの投稿から消えているだけだ。URLを打ち込めば、記事そのものは見ることができる。
ウォンテッドリーがGoogleやTwitterに削除申請したのは、アメリカの「デジタルミレニアム著作権法」(DMCA)が根拠と考えられる。インターネット上に著作権違反のコンテンツが流布する場合の扱いを定めたもので、この法律をもとに、著作権者がGoogleやTwitterに申請すれば、コンテンツの検索結果やリンクを紹介したツイートが削除されることがある。
ウォンテッドリーの主張によれば、仲さんの写真が無断使用されていたことになる。ただ、日本の著作権法では、他人の著作物でも「引用」にあたれば無許可でも利用することができると定められている。今回のブログ記事で、仲さんの顔写真を使用していたことは「引用」にあたらないのだろうか。
著作権法にくわしい福井健策弁護士は「引用が成立するかどうかは、微妙なラインだ」と説明する。
「前提として、ブログのサーバが日本にあるとします。そうすると、まずは日本の著作権法で、著作権侵害があったかどうかを考えることになるでしょう。そして、今回のケースでは、『他人の著作物を引用する必然性』など、引用が正当な範囲内であったかどうかがポイントになります」(福井弁護士)
ブログには「社長の仲さんは美人でスタートアップ界隈にファンも多いそうです」などと書かれている。ブログの読者からすれば、仲さんの顔写真を見たくなるかもしれない。
「ただ、ブログの本題は『このIPOはいかがなものか』というものです。顔写真を見せなくても、このブログは十分成立したでしょう。そう考えると、わざわざ他人の著作物である写真を引っ張ってくる必要はどこまであったのか。したがって、元のブログが著作権侵害だった可能性はあり、その場合GoogleやTwitter への削除要請も法的に不当とまでは言えなさそうです。
ただ、仮に法的には問題ないとしても、ウォンテッドリーが少しばかり著作権法を道具として使った感は否めません。信用の維持においては、はたして同社にプラスだったのかという疑問はあります」(福井弁護士)
Google検索にくわしいSEO専門家の辻正浩さんは、DMCAにもとづく削除について「著作者から許可を受けているものなど、実際には著作権違反がないにも関わらず、消されているケースがあります。本来の利用でなくて、悪評封じのために利用されているのです」と指摘する。辻さんによると、現在の仕組みでは、誹謗中傷だけでなく、正当な批判なども含めて、消すことができてしまうというのだ。
辻さんは「インターネットの抜け道になっています。自分たちの都合の悪い情報を消すために利用することは、モラル的に問題があります」「正しくない申請には、(削除された側は)常に戦うべきです。そうじゃないと、悪い人たちにインターネット上の情報が消されていくことになります」と警鐘を鳴らしている。
今回の削除申請について、インターネット上では、「ウォンテッドリーがDMCAを悪用した」という指摘は多い。同社広報は、弁護士ドットコムニュースの取材に「そのような印象を与えてしまったという点に関しまして、当社でも反省しております」としながらも、あくまで画像の無断使用のために削除申請したことを強調していた。
(弁護士ドットコムニュース)