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「きみの声をとどけたい」伊藤尚往監督インタビュー 「演技の上手さとは違う才能を見つけたかった」

2017年08月25日 13:15  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

「きみの声をとどけたい」伊藤尚往監督インタビュー 「演技の上手さとは違う才能を見つけたかった」
8月25日より全国ロードショーを開始する、長編アニメ映画『きみの声をとどけたい』。物語は海辺の町、日ノ坂町を舞台に、7人の女子高生たちの青春を色鮮やかに描き出す。7人が集まる場所は、町の一角にあるミニFMステーションだ。ラジオを通して彼女たちはひと夏の友情を育み、将来を思いながら成長していく。

本作は東北新社とCSファミリー劇場がタッグを組んだ「キミコエプロジェクト」として昨年より始動。プロジェクト内で「キミコエ・オーディション」が行われ、選ばれた新人声優6人が今回の映画にメインキャストを務めている。
伊藤尚往監督は、オーディションの審査にも参加した。これまでに監督を務めた『映画 ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!? 未来につなぐ希望のドレス』(2013年)や『オーバーロード』(2015年)とはまったく色合いの異なる本作に対し、伊藤監督はどのように取り組んできたのか。作品にかける思いや、プロジェクトに対する心意についてお話を伺った。
[取材・構成=奥村ひとみ]

映画『きみの声をとどけたい』
kimikoe.com/movie/
2017年8月25日(金)公開

■ラジオは余地がありすぎるメディア

――本作に参加することになった経緯を教えてください。

伊藤
今回の場合は作品の監督というより、前提として「キミコエプロジェクト」への参加がありました。僕のところにプロジェクトのお話がきた段階でシナリオのおおまかなプロットはありましたが、そこに条件として、オーディションで選ばれた女の子たちを使って映画を作るということが決まっていました。
でも僕としてはそれ以外にも、原作のないオリジナル作品という面で非常に興味が沸きました。「こんなストーリーを作りたいなぁ」と考えるよりは、「良いアニメーション作りがしたい」と思うタイプなんです。これが原作ものだと、もともとのファンの方がいらっしゃるので「ファンの期待を崩さないぞ」という気持ちが先に出ちゃいますからね。そういうところではない部分で作品を作っていくのは面白そうだと思いました。


――原作はないにせよ、プロジェクトの一環であるという大きな条件があったと思います。そのあたりを伊藤監督はどのように捉えていましたか?

伊藤
もちろんこの作品は、新人声優さんのプロモーションも兼ねています。ただ、それだけの作品と思われてしまうのは嫌だな、というのは僕のモチベーションになっていました。誰が見ても素直に楽しんでもらえる映画にしようと作ってきたので、そこはもう、見て評価をしていただけたらと思いますね。フレッシュな役者が活躍して、なおかつ女子高生たちが主人公の物語なので、若い層の皆さんには是非見てほしいですが、けっこう年配の方にもグッとくるんじゃないかと思っています。

――幅広い年齢層に引っかかるという点では、ミニFMラジオを題材にしているのも面白いですね。これはどなたのアイデアですか?

伊藤
直接はプロデュースサイドからの発案ですが、「キミコエ・オーディション」でキャストを選んだからには、声の力で物語を動かしたいと考えていました。とは言っても、昔から歌をテーマにしたものは多いので、それとどう差別化しようかと模索した結果ですね。
ラジオってすごくパーソナルなメディアというか、余地がありすぎるところが面白いなぁと思うんです。現代っぽさで言うとネットラジオや動画配信のほうがそれらしいかもしれませんけど、それだとローカルな話ができない。視聴者の人数は表示されますが、どんな人が見ているのか把握するのはなかなか難しい。その点、ミニFMは聞ける範囲が限られてはいるけれど、「聞いてね」と言っても相手がラジオをチューニングしてくれないと届かない。伝えたいことがあっても、聞いてくれるかどうかは分からないという不確定さがドラマチックですよね。


――現代の女子高生とラジオという2つのアイテムを結びつけるのに苦労はありましたか?

伊藤
テレビと違ってラジオは絵が出ない分、なにかひとつのものをしゃべる時にいろんな方向からアプローチする必要があります。リスナーはパーソナリティが必死にしゃべってくれることで、興味を引かれている部分も大きいと思います。高校時代は遥か昔のことですから、正直よく分からないです(笑)。ただ、一生懸命な女の子は見ていて可愛いというか、気持ちのいい存在だと思うので、そこが結びつけばいいのかなと考えていましたね。

■演技の上手さとは違う才能を見つける

――昨年8月に、キミコエ・オーディションの合格者が決まりました。最終審査では本作のシーンを抜粋したアフレコ審査もあったそうですが、この時点でキャスティングはどの程度、進められていたのでしょうか?

伊藤
それぞれに「この役ができそう」という感じで括っていたとは思います。想定はしていましたが、最終的にはバランスなどを見ながらオーディション後に決めました。絵コンテ作業がほぼ同時進行だったんですけど、キャラクターを決めていく中でも、オーディションで決まる子たちにある程度フィードバックができるように、なるべくキャラに幅を持たせながら進行していきました。


――女子高生7人のキャラクターはどのように作っていきましたか?

伊藤
オーディションで選ばれた子たちが、「せっかく選んでもらったのにこんな役?」とはならないようにしたいと考えていました。人数がいても、向かっていく方向や経過がきちんと別々のものになっていれば個性の住み分けはできると思うので、そのあたりには気を配りましたね。脚本の石川さんが個人のプロフィールを細かく作ってくれたので、映画を見た人がそれぞれの関係性を想像してくれるように意識して描いていきました。

――キャラクターデザインの青木俊直さんにはどんなリクエストをされたのでしょうか?

伊藤
“ボーイッシュな子”や“ふわっとした子”といったように、キャラクターは見た通りでいいのかなと僕は思っています。青木さんにはシナリオのプロットからイメージをお伝えしたと思うんですけど、最初に描いてもらったなぎさが、特徴的と言うほどではないんですが、キャラクターがちゃんと立っている感じがしたんですよね。「あ、この子が主役っていいな」と思ったんです。


――主人公・行合なぎさ役を演じているのは、オーディション時の審査員得票数としては一番少なかった片平美那さんなんですね。

伊藤
僕のインスピレーションとして、「なぎさはあまりプロフェッショナルっぽくないほうがいいな」というのがあったんです。難しい話ですが、審査員の皆さんは上手い人を取りたがっていたんですよ。選ばれた子たちは皆、本当に才能のある方々だと思います。でもやっぱり、新人の良さというか、素人芝居とはまた違うフレッシュさというものはあるはずなんです。そのバランスはたいへん悩ましかったですが、オーディション二次選考くらいから、あえてそういうお芝居の子を何人か残してもらうようにしました。その中から片平さんが選ばれて、最終的なキャスティングも紆余曲折あった末、なぎさを片平さんでいくと面白いのかな、というところに落ち着きました。なぎさはすぐ泣いてしまう多感な子で、片平さんもそれに似た不安定なところがあり重なるところがありました。実際に声をはめた時にすごく自分の中でハマって、「これはいける!」と自画自賛した感じでしたね(笑)。


――キミコエ・オーディションは、数ある声優オーディションの中でも「育成」を大きく打ち出しているのが印象的でした。

伊藤
そうですね。ある意味で彼女たちを放り投げられない状況を作って、これから一緒に仕事をしたい人を真剣に選ばせていただきました。90年代後半に流行ったオーディション番組ばりに密着カメラも入っていて、その様子はそのまま彼女たちのミュージックビデオに使われていたりするんですよ。あれから一年が経って、ここ最近はラジオや舞台挨拶でご一緒するとすごくちゃんとお話をしていて、「この子たちすごいな」と思うばかりです。だからこそ、僕たちの手の離れたところでも頑張っていってほしいと思っています。真

――最後に、これから映画を見る人に向けてメッセージをお願いします。

伊藤
新人声優の子たちだけでなく、三森すずこさんを始めとした素晴らしい役者の皆さんが華を添えてくださいました。また湘南の情緒ある風景や、音楽もとても豪華に仕上がっています。特に数々の挿入歌は、シナリオのセリフから歌詞を書いていただいたものもあり心情がよく表れていますので、歌も聞き込んでいただけると嬉しいです。