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成熟さのなかに見せる鋭い切れ味。2度目のインディカー王者を虎視眈々と狙うパワー

2017年08月25日 11:42  AUTOSPORT web

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ポコノ戦の勝利でチャンピオン争いに留まったウィル・パワー。2度目のタイトル獲得となるか?
ポコノ・レースウェイで行われた2017年シリーズ第14戦でウィル・パワー(チーム・ペンスキー)が優勝。彼のポイントスタンディングは第13戦終了時点と変わらずの5番手のままだが、ランキングトップを走るジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)とのポイント差は52点から45点へと縮まった。

 2015年には、残り3戦でランキング3番手だったスコット・ディクソン(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)が48点差からチャンピオンに輝いている。計算上、パワーにも大逆転は十分可能だ。

 ポイント2番手はニューガーデンを18点差で追うディクソン。ランキング3、4番手のエリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)とシモン・パジェノー(チーム・ペンスキー)もトップとの差がそれぞれ22点、26点と小さくタイトルを十分に狙えるポジションを保っている。


 しかし、彼らポイント2、3、4番手のドライバーたちは今シーズンはまだ1勝しかしておらず、3勝しているポイントリーダーのニューガーデンと、彼に勝利数で並んだパワーのふたりに勢いはある。

 シリーズ参戦6年目で初のチャンピオンを目指すニューガーデンに対し、パワーは2014年に一度王座を手にしている点がアドバンテージだ。ポコノでの勝利で消えかけていたタイトルへの希望を蘇らせた彼は、新たな闘志をたぎらせて最終3レースに臨む。

 パワーといえば、思い通りにいかない時に愚痴りまくるドライバーだった。考えをストレートに吐き出してしまうキャラクターは、今も大きく変わってはいない。

 ペンスキー入りした頃はターゲット・チップ・ガナッシで走るダリオ・フランキッティに何度となく打ち負かされ、「ダリオはとてつもなく運がいい。彼より速いドライバーがふたりいた最終戦で、イエローの出ない展開に救われて勝ってチャンピオンになったこともあった」といった具合に愚痴を語っていた。

 当時の彼は「オーバル嫌い」を公言してもいた。誰もが認める速さの持ち主だったが、2010年から2年続けてフランキッティに敗れてランキング2位となり、2012年にフランキッティを上回ったら、ライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)にチャンピオンの座をさらわれた。

 パワーは未だにインディ500で勝ったことがないが、彼が3年連続でシリーズ2位となって悶々としていた当時、フランキッティはインディ500での3勝目を記録。実績面が実力以上の大差となっている点にパワーがイラついていたとしても仕方がなかった。

 ポコノでパワーのキャリア優勝回数は「32」に伸びた。チーム・ペンスキーで活躍したポール・トレイシー、そして宿敵フランキッティと31勝で並んでいた彼は単独の歴代9位へと抜け出した。

 去年4勝し、今年もすでに3勝しているパワーは36歳。まだしばらく現役生活は続き、優勝回数を増やすことができそうだ。そんな彼はポコノで、「ダリオやポールといえばインディカーにおける伝説のドライバーたち。彼らの仲間入りができて光栄だ」と、ちょっと照れたような表情を見せつつコメントした。

「オーバルのレースは大好き。近頃はレースの数も少ないし、勝てた時は本当にうれしい」とも語った。人は変われば変わるものだ。

 周回遅れを取り戻しての優勝を果たしたことからも明らかなように、パワーは今やとても成熟したドライバーとなっている。荒々しさもあった若い時代には成熟を求められ続けたが、ベテランと呼ばれる年齢になった今は、ほとばしるような攻撃的ドライビングスタイルを懐かしがられている。

 実際、丸くなり過ぎて勝つことができなくなるドライバーもいる。しかし、パワーは持ち前の切れ味を失っていない。ポコノでの走りでそれは改めて証明された。


 昨年、パワーはチームメイトのパジェノーとの戦いに敗れて4回目のランキング2位となった。二度目のタイトルが何としても欲しいところだろう。しかし、残る3レースは決して彼が楽観のできるラインアップとはなっていない。

 次戦は、2003年以来となる復活開催のゲートウェイ(全長1.25マイルのオーバル)。今年行われたショートオーバルでの2戦を振り返ると、パワーはフェニックスで予選2位/決勝2位、アイオワで予選1位/決勝4位とまずまずの結果を残しているものの、フェニックスでは現在ランキング3番手につけているパジェノーが勝ち、アイオワでは同4番手のカストロネベスがウイナーとライバル勢に分がある印象だ。

 あとの2戦はロードコース。第16戦ワトキンス・グレン、昨年のパワーは予選こそ2位だったが、他車との接触でリタイア。最終戦ソノマは予選は4位と悪くなかったが、決勝はギヤボックストラブルで20位に沈んだ。

 ソノマは5回もPPを獲得しているコースで、優勝も3回記録している点で期待が持てるが、昨年のウイナーはパジェノーで、2014、2015年はディクソンが優勝と、パワーよりポイントで上位にいる面々が好成績を残してきている。


 ただし、最終戦はダブルポイントなので、その前の2戦の成績にもよるが、多くのドライバーたちが逆転可能な状況で最後のレースを迎えることになるだろう。果たしてパワーは何点の差まで詰め寄って最終戦を迎え、何番グリッドから決勝のスタートを切ることになるだろう。二度目のタイトル獲得となれば、チャンピオン獲得回数でもワイルドな走りで人気だったトレイシーを上回ることとなるが……。