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スーパーGT:鈴鹿1000kmの“派手な話題”に隠れる戴冠争い。寿一も警戒するニスモの存在

2017年08月24日 18:22  AUTOSPORT web

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スーパーGT第5戦富士では、MOTUL AUTECH GT-Rの松田次生が鉄壁のガードで2位表彰台を死守
今季はブリヂストンタイヤ装着のレクサス勢のみによる争いとも見られていたスーパーGT500クラスのタイトル戦線。しかし第5戦富士を終えたところで、ドライバーズランキング首位からわずか3点差の位置にニスモの松田次生/ロニー・クインタレッリ(MOTUL AUTECH GT-R)が浮上してきた。実現すればミラクルと形容される戴冠に向けては、次の鈴鹿1000kmが極めて大切になる。

 以下は第5戦富士のチェッカーから間もないタイミングでの出来事だ。

 レクサス勢の一角、ポイントリーダーとしてこのレースに臨んだ大嶋和也/アンドレア・カルダレッリ(WAKO'S 4CR LC500)はトップハンデの状態ながらも9位に入り、上位大接戦となったドライバーズランキングで首位から1点差の2番手と好位置をキープした。

 手元計算でそれを確認した脇阪寿一監督は、「今日のレースに関してはもう少し上に行きたかったですけどね」とコメント。そしてニスモコンビが首位と3点差の5番手(4番手タイ)にいる状況を把握すると、「不気味ですね」との印象を付け加えた。

「違う道具(ミシュランタイヤ)を使っていることもありますから、不気味です。それに今季はこれだけの(マシンの)スピード差があるなかで、彼らはこの位置に来ている。ニスモがニスモたる所以(ゆえん)だと思いますね」と脇阪監督は続け、新たな展開に一層、気を引き締めているように見えた。

 たしかにこの状況からは、ニスモのチーム力の高さが強く実感される。

 もちろん、マシン性能優位なレクサス勢がかなり拮抗した争いをしている結果として、抜け出すチームがなくポイントが割れていることもニスモ台頭の背景にはあるだろう。

 とはいえ、レクサスがトップ6を独占した開幕戦で7位、レクサス2戦連続表彰台独占の第2戦で4位など、ニスモが望み得る最上の結果を積み重ねてきていることは事実であり、驚異的ですらある。

■「今年、僕たちがどれだけいい仕事しているかということ」

「今年、僕たち(ドライバー&チーム)がどれだけいい仕事しているのか、っていうことですよね」。第5戦富士で今季最上位となる2位を獲得し、表彰台から降りてきた松田次生はポイント状況について知ると、冗談交じりの笑顔で語った。

 謙遜することはない、事実と言っていいだろう。開幕から7位-4位-5位-4位-2位というニスモのリザルトは、レクサス圧倒の状況下にある今季のGT500においては見事の一語に尽きる。

 松田は富士で勝てなかったことは当然悔しいながらも、「優勝車とのハンデ差を考えれば」と、2位という結果に一定の満足感を示す。

 ニスモは富士戦を52kgのハンデ数値で迎え、レクサス勢以外では初めて、今季からの新たな燃料流量リストリクター(燃リス)調整域に入っていた。

 そして同じく燃リス調整1段階目にあったZENT CERUMO LC500(立川祐路/石浦宏明)と、松田は後半スティントで長く2位争いを展開した。

 2014~15年は今季のような3段階式ではなく、50kg分一気の燃リス調整だったが当時、それにもっともうまく対応しているのがGT-Rだという声は、ニッサン陣営内だけでなく外からも聞こえていた。

 規則の内容は違うが、富士の直線での松田とZENTの戦いを見ると、今季方式の燃リス調整にもニッサンは好相性のように思えるところがあった。だが、松田に聞くと「いいのだろうとは思いますけど、向こう(ZENT)の方がウイング立っていましたからね」との答え。

「正直、僕たちはウイングを寝かせていくしかなかった。レクサスほどダウンフォースをつけられない分、リヤ(の挙動やタイヤ)に関しては苦労しました。それに向こうはまだバージョン2のエンジンを残しているんですよね」

 ニッサン勢は第4戦SUGOからバージョン2のエンジンを他に先駆けて投入、その効果も含めて「開幕前の状況に比べれば、戦えるようになってきました」という好ましい近況だが、「レクサスは重く(ハンデ数値が大きく)ても速いです」との実感も松田には残る。

 ポイント的にはランク上位の団子のなかに入ってきたとはいえ、決して松田らにとって楽観できる状況でないことは変わらないようだ。

 今はポイント×2倍のハンデ係数に苦しんでいる面もあるレクサス勢だが、これが×1倍~ノーハンデとなる第7戦タイ~第8戦もてぎの終盤2戦では、ふたたび生来の速さを存分に発揮してくる可能性も高い。

■ニスモ、タイトル争い生き残りの成否は“ランク上位最先着”

 それだけに松田らが戴冠を果たすためには、ハンデ係数2倍の最終レースで、長距離ボーナスポイントがある次の第6戦鈴鹿1000kmでの好成績がマスト条件になりそうだ。

 もちろんニスモもハンデはきついが、今季一連の鈴鹿でのテストでニスモは好調だった。テストなのでタイムや順位は見た目のものに過ぎない面もあるが、松田自身も「調子はよかった」と鈴鹿でのテスト内容を振り返る。

 鈴鹿1000kmで優勝すれば、ポイントリーダーとして終盤2戦に向かうことができる。ただ、「鈴鹿では2リス(燃リス調整が2段階目)ですからね。考えたくないくらいタフな状況……(苦笑)。優勝までは難しいかな、と思います」

 ハンデ数値82kgとなったMOTUL AUTECH GT-Rは、燃リス調整2段階(34kg分)+実ウエイト48kgの状態で鈴鹿1000kmを戦うことになる。さらに「46号車も調子いいですしね」と、同じミシュランユーザーのGT-Rで自分たちよりハンデ数値の小さいS Road CRAFTSPORTS GT-R(本山哲/千代勝正)の方が鈴鹿1000kmで上位を走る期待値が高いことも松田は示唆する。

 しかしながら、鈴鹿1000kmでの好成績が王座奪還のマスト条件であろうことには松田も「そうかもしれません。ここでしっかり、大きなポイントを獲りたい」と頷く。そして「この(ポイント上位陣の)なかで最上位で終われるようにしたい」という現実的な目標を語った。「本当にタフなレースになると思いますけど、頑張ります」

“1000kmとしては最後”ということや、ジェンソン・バトン、小林可夢偉のスポット参戦など派手な話題も多い今年の鈴鹿1000kmだが、シリーズタイトルの行方を占う意味でも多面的に重要な一戦。なかでも松田/クインタレッリの“ランク上位最先着で大きなポイント獲得”の成否は、彼らが本当の意味でタイトル争いに加われるか否かを決める大きな分岐点となりそうだ。