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THE BEAT GARDENは”横ノリ”のグルーヴをどう獲得した? 1stアルバム『I’m』楽曲分析

2017年08月23日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 エレクトロニックな音楽性を表現した「BEAT」と、クラブやフェスでのオーディエンスの盛り上がりを例えた「花(が咲き誇る庭)」を組み合わせたグループ名を持つ4人組、THE BEAT GARDEN。2016年のメジャー初シングル『Never End』以降様々な経験を重ねてきた彼らが、現在のグループの魅力を詰め込んだメジャー1stアルバム『I’m(アイム)』を完成させた。


 THE BEAT GARDENは大阪の音楽専門学校で知り合ったU、REI、MASATOが2012年に結成した前身グループを母体にして、2015年にDJのSATORUが加わる形で現体制での活動をスタート。翌年シングル『Never End』でメジャーデビューを果たすと、SUMMER SONICやRISING SUN ROCK FESTIVAL、a-nationといった国内の主要フェスに出演。2ndシングル曲「Promise you」は発売週に56のラジオ局でパワープレイ/テーマソングとしてオンエアされるなど話題になった。また、2017年に3rdシングル『Don’t think, feel.』をリリースすると、7月にはアルバム直前のシングル『FLOWER』を発表。ここにカップリングとして収録された「Walk This Way」はCygamesによる大ヒット・ソーシャルゲームを原作にしたTVアニメ『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』の14話以降のOP曲にも抜擢され、より幅広いリスナーへと彼らの存在を知らせることとなった。 


 この4人の音楽の特徴は、メンバー自身が楽曲に深く関わって生まれるEDMやベース・ミュージックを取り込んだエッジの効いたサウンドと、トリプル・ボーカルならではのコンビネーションが生む唯一無二のボーカル・ワーク。以前も書いたことだが、THE BEAT GARDENの楽曲は「ドロップ」に山場を持ってくるEDMの構成とは一線を画しており、むしろフロントの3人の声がサウンドと絡み合って生むJ-POP的な構成の「歌」にこそ最大のピークがある。そのため、ライブでの魅力と、リスニング作品としての魅力がどちらも楽曲に宿っていることが、最大の特徴と言えるはずだ。その雰囲気はシングル群にも顕著で、「Promise you」では感情豊かな歌でしっとりと楽曲をはじめると、ウォブルベースを加えながらも歌の高揚感で切ない恋心の高まりを表現。「Don’t think, feel.」では序盤のリズミカルなカッティング・ギターを経て、Bメロ→サビではそこに歌がシンクロして一体感を増していく。そして最新シングル「FLOWER」ではヘヴィなギター・ロックを彷彿させる冒頭を経てスケール感の大きなサビと「オーオーオー」というコーラスが登場し、ライブでの盛り上がりをより連想させるような効果を生み出していた。それらをメジャー初シングル「Never End」でのEDM直系のシンプルな音と比べると、彼らがロック/EDM的な「縦ノリ」をメインに据えつつも、そのビートに様々な変化を加えてきたことが伝わるはずだ。


 だとするなら、今回のメジャー初アルバム『I’m』では、そうした楽曲にさらなる新機軸=ブラック・ミュージック的な「横ノリ」のグルーブを持つ楽曲を加えることで、4人の楽曲にさらなる「多様性」が加わっている。何しろ、アルバム用に書かれた新録曲は過去曲とは大きく異なっていて、英語詞を増やした「Heart Beat」では昨今のオルタナティヴなR&Bなどを彷彿させる、ボイス・サンプルを生かしたアンビエントなモダンR&Bに接近。一方、9曲目「サイドディッシュ」はブルーノ・マーズらにも通じる洒脱なカッティング・ギターとディスコ・ブギー風シンセが絡むファンク・チューンになっていて、サウンドの変化に呼応して、フロント3人のボーカル・スタイルもファルセットを導入するなど大きく変化を遂げている。「エレクトロニック・ビートを生かしたアグレッシヴなサウンド」と「心震わせるバラード」という2軸に加えて、両者の中間を埋めるような「ブラック・ミュージック的で横ノリのグルーブを持った楽曲」という3つ目の軸が生まれたことで、DJを起点に3人のボーカルが広がる彼らのトライアングルが、音楽的にも確立された雰囲気がある。


 こうした音楽性の変化はやはり、12曲を通して自らの音楽性を表現する「アルバム」ならではだ。過去とは大幅に雰囲気の違う新録曲を加えたことで、従来のロック/EDM的なシングル群が逆に映える効果も生まれているため、全編を通して聴くと、ビートを重視したエッジの効いた楽曲群、R&Bやソウル/ファンクの影響下にある楽曲、J-POPの魅力を追求したバラードによって、様々な要素が溶け合った現在の彼らの音楽性の幅広さが鮮やかなコントラストで伝わってくる。この多様性は今後のライブにも印象的な緩急を生むはずだ。また、ラストにストリングスに乗せて過去を振り返る内容を持つ楽曲「Just Before Dawn」を配置することで、アルバムの最後にはグループのこれまでに思いを馳せるような雰囲気も生まれている。初回限定盤には2015年の大阪BIGCATでのワンマンライブを含む『Live History 2015-2017』と、今年6月の宮古島旅行のドキュメンタリー映像『Special Trip in MIYAKO ISLAND』も収録されるため、ここからも4人の歩みが感じられることだろう。


 メンバー曰く『I’m』というタイトルには「このアルバムが、受け取る人ひとりひとりにとっての“私(I’m)”になってくれたら」という思いが込められているという。実際、THE BEAT GARDENの楽曲は「君」と「僕」=「I」と「You」の関係を題材にした歌が多く、リスナーそれぞれが感情移入できる間口の広さを生んでいる。また、同時にこのタイトルには、彼らがメジャー1stアルバムにすべてを詰め込み、「これが今の俺たちだ」と宣言する意味も込められているのだろう。そう考えると、キャリア史上最も多彩な音楽性が詰まったこの作品が『I’m』と名付けられていることは、今まさにより幅広いものへと花開きつつある4人の音楽への思いを伝えるようだ。9月にはアルバム発表後初のワンマンツアーとなる『THE BEAT GARDEN One man LIVE “Sprout Tour”』の開催も決定。ここでもライブならではのアグレッシヴなビートと、情感豊かな3人のボーカルが咲き誇る音楽性を体験してほしい。(文=杉山 仁)