2017年08月22日 10:03 弁護士ドットコム
政府が、日本から出国する日本人や外国人を対象に、航空機や船の代金に税金を課税する「出国税」の導入を検討していることが報じられ、話題になっている。
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FNNなどの報道によると、出国税は観光政策の財源に充てるもので、他に、公共施設を利用する際の利用料の課税など、複数の選択肢の中で検討されているという。
田村明比古・観光庁長官は7月19日の記者会見で「制度については勉強しているが、特定の案に絞って(検討を)進めているわけではない」とコメントしている。
欧州などでは既に導入済みの国があるが、導入にあたっては、どのようなことが論点になるのか。柴田篤税理士に聞いた。
今回検討されている観光客に対する出国税は、2015年度の税制改正で導入された国外転出時課税の出国税(Exit Tax)とは異なるものです。国外転出時課税制度は、有価証券など1億円以上の対象資産がある場合に、その含み益に対して所得税が課税されます。
これは、富裕層が資産を保有したまま出国し、シンガポールや香港等のキャピタルゲイン非課税国に居住したまま資産を売却するといった課税逃れを規制する意図があるものです。
今回の出国税(仮称:観光客出国税)は、日本から出国する外国観光客を主なターゲットとしているようです。現時点では、日本から外国に観光で出国する日本人まで含まれているのかどうかは不明です。財源不足の国としては、イギリスの航空旅客税やフランス・ドイツの制度を後ろ盾にして是が非でも導入したいと思っているでしょう。
租税を徴収する根拠として、古くから「応能説」と「応益説」の相克があります。「応能説」では、租税は個人の負担能力に応じて払われるべきとされます。国家は個人を越えた存在であり、国家の費用を、個人の能力に応じて負担すべきとされます。
一方「応益説」では、租税は公共サービスの対価であるとされています。しかしながら、公共サービスをきちんと測定し、それに対し対価を支払うという引き換え条件の形にするのは現実には難しく、公共サービスにただ乗りする人も出てきます。
観光客出国税は、増大する観光公共サービスの対価と考えられていますが、やはり同様の問題が生じます。観光振興で潤う旅行業者、土産物屋、ホテル業などは、「応益説」だと、ただ乗りできるわけです(東京・大阪等では法定外税、宿泊税などの地方税が課税されていますが)。
だからといって「応能説」にシフトしてしまうと、一部の富裕層は国を捨てて出て行ってしまいます。皆さんは「パーマネント・トラベラー(PT)」という言葉を聞いたことがありますか。どこの国にも属さないで生活の拠点を変えながら、一切の税金払わず生活している金持ちです。私のイギリスの知人は本当にPTをやっています。
「法律なければ課税なし」の租税法律主義は、課税要件を明確にするとともに、公平な課税をも含むとされています。またイギリスは国内線旅客にも課税していますので、出国税という名称が適切なのかどうかもこれから議論されると思います。日本の観光客出国税についても、活発な議論がなされることを期待します。
【取材協力税理士】
柴田 篤 (しばた・あつし)税理士
貿易通商・物流を中心とする国際税務会計事務所。貿易、国際税務会計・国内税務、国際投資国際法務、IT IoTの4部門からなり、システムエンジニアを3名抱える。
事務所名 :TradeTax国際税務会計事務所(東京・大阪・バンコク・欧米提携事務所)
事務所URL:http://www.japan-jil.com/
(弁護士ドットコムニュース)